「もの言う株主」という言葉からどのような人々を連想されるでしょうか?かつての村上ファンドや、2000年代にサッポロやブルドッグソースの株式を買い占め論議を巻き起こしたスティール・パートナーズを想起される方もまだ多いかもしれません。これらのファンドは、「短期的利益を求めるハゲタカ的な株主」として企業からの激しい抵抗にあいました。
しかし近年は、安倍政権が主導した「スチュワードシップ・コード」などによって状況は変わりつつあります。スチュワードシップ・コードでは、「エンゲージメント(対話型)スタイル」を重視し、企業の中長期的な発展を重視しています。もの言う株主にもそのようなスタンスが期待されるということです。
最近、そうしたエンゲージメント型のもの言う株主(アクティビスト)の戦略的な提案が、企業価値を実際に高めることにつながる例も出てきています。
例えば、最近話題の任天堂の「ポケモンGO」です。ヘッジファンドのオアシス・マネジメントは任天堂に対し、「スマホゲームをやるべき」と何度も進言したと言います。しかし、当初、任天堂の岩田前社長は強硬に反対したそうです。「スマホゲームは思ったより儲からない」という理由からです。
任天堂は2013年度に過去最大の赤字を出し、ようやくスマホゲームに舵を切ります。それが今回のポケモンGOにつながりました。もちろん、任天堂がオアシスの提案だけでスマホゲーム進出を決めたわけではないでしょうが、その提言は戦略的に正しかったと言えるのではないでしょうか。
悩ましいのは、そうしたエンゲージメントスタイルのファンドの提案がいつも適切というわけではない点です。
その代表格は、いまだに謎に包まれた部分が大きいサード・ポイントでしょう。2013年にソニーにエンターテインメント事業の分割、株式公開を突き付け拒否されたこともあれば、2015年にはファナックに余剰現金の配当での還元を求め、成功したこともあります。最近ではセブン&アイグループにヨーカ堂の切り離し・再建、そして大幅な増配を求めました(セブン&アイは態度を留保中)。ニュースにもなった鈴木敏文元会長の去就にも影響を与えています。
サード・ポイントの要求の中には、筆者の目から見ても、中長期的な視点から妥当性の高いものもあれば、必ずしも適切とは言えそうにないものもあります(ソニーのケースなど)。彼らの提案とどう付き合うかは、日本企業にとって頭の痛い点です。
ファンドである以上、ファンドへの投資家がおり、しかも通常、期限は決められています。中長期の企業の発展を目指すというお題目は掲げながらも、いざ期限が迫れば、短期的利益を求めるファンドは少なからず存在するでしょう。
つまり、一時のハゲタカ的なもの言う株主の比率は減ったものの、それでもすべてのアクティビストが中長期的なリターンを求め、企業に適切なアドバイスをするかといえばそうしたことはなく、さまざまな意図をもったアクティビストが混在しているのが2016年現在の状況と言えるでしょう。
こうした中で、企業はアクティビスト株主とどう付き合えばいいのでしょうか?結論から言えば、だからこそ、企業側に、経営的な判断力が必要になっていると言えるでしょう。短期的なリターンしか目にない提言に対してはしっかりノーと言えるだけの理論武装が必要ですし、逆に、一理ある提案に対しては、もの言う株主の言うことだからと一蹴するのではなく、是々非々でその妥当性を吟味し、理に適っているのであれば、勇気をもって取り入れることも必要です。