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「後のアフター」でニーズの深掘りはできていますか?

投稿日:2016/06/03更新日:2019/04/09

マーケティングの「基本のき」にして「極意」は、「顧客のニーズを明らかにし、深掘りする」ということだ。だが、言うは易く行うは難し。そのヒントとなる事例が日経MJ5月13日号の第一面の記事に掲載されていた。

ビリーズブートキャンプの栄光と蹉跌

画像提供:ショップジャパン

昨今大量に投下されている「倒れるだけで腹筋ワンダーコア~♪」のCM。そのサウンドロゴと共に、宇梶剛士や剛力彩芽が珍妙なシチュエーションで腹筋マシンを用いるシーンが脳裏に蘇るだろう。今回はその広告主であるショップジャパンの運営会社、オークローンマーケティングの話だ

同社の大ヒット商品は、エクササイズDVD「ビリーズブートキャンプ」。ビリー隊長の厳しい号令に合わせた激しいトレーニングに汗を流した方もいるだろう。しかし、同商品は初年度の売上に対し翌年は0.3%にまで急収縮してしまった。一発限りの打ち上げ花火だった同製品は、「売れ続けるしくみ作り」というマーケティング視点から見ると、失敗事例だったのである。

「後のアフター」でロングセラーとなったマットレス

日経MJの記事で、同社のハリー・ヒル社長は「ビリーズブートキャンプ」を振り返り、「商品を買ってもらうことばかり考えていた」と述べている。その失敗経験を活かして、同社は自社商品、低反発マットレス「トゥルースリーパーズ」の売り方をガラリと変えた。再び日経MJから引用する。

「顧客の声を徹底的に集めると『腰の痛みが和らいだ』『肩こりが良くなった』という反応が多いことが分かった。『寝心地がよくなった』という最初のアフターではなく、その後の『体の痛みがやわらいで仕事の効率がよくなった』という『後のアフター』に注目。『痛みの解消』に焦点を当てる番組に変更」

「後のアフター」とは、商品購入直後だけではなく、一定時期を置いた後の意識変化に注目することで顧客ニーズを深堀りすることだ。それにより、マーケティング・メッセージの見直しを行ったのだ。

ニーズの3つのタイプ

「後のアフター」はマーケティング論的にも説明ができる。早稲田大学商学学術院長・恩藏直人氏の著書『コモディティ化市場のマーケティング論理』には、「顧客ニーズの3つのタイプ」が示されている。「明言されるニーズ」「真のニーズ」「学習されるニーズ」の3つだ。

1つめの「明言されるニーズ」とは、「言葉に出して語られるニーズ」であり、2つめの「真のニーズ」とは、「語られた言葉から容易に推測できるニーズ」である。そして、3つめの「学習されるニーズ」とは、「(顧客自身は)語ることはできないが、次第に学習されていくニーズ」であるという。

「学習されるニーズ」=「後のアフター」の効用

「トゥルースリーパーズ」で考えれば、「低反発マットレス」というウォンツ(モノ)に対して、「寝心地を良くしたい」というニーズは「明言されるニーズ」である。そして、同製品によって「良質な眠りを得て、もっと体調を良くしたい」という「真のニーズ」くらいまでは売る側も容易に想像できる。だが、「体の痛みがやわらいで仕事の効率が良くなった」は、使用者の学習的実体験が伴ってこそ発せられる、なかなかに得がたい言葉だ。それをオークローンマーケティングは「後のアフター」として、購入客に様々な形で継続的にアプローチを行い、「生の声」として引き出しているのだ。

そして、「良い寝心地・良質な眠り」というニーズを持った潜在顧客に対し、「仕事の効率向上」という期待以上の価値、つまり既存顧客から得られた「後のアフター」を先回りして気付かせる。それこそが、同商品を13年にわたってロングセラー化させている「売れ続けるしくみ」なのである。

もし、ビリーズブートキャンプが「後のアフター」に注目していたら・・・

ビリーズブートキャンプを購入した人は、「絶対痩せる!」「理想のカラダを手に入れる!」と「明言されるニーズ」を周囲に示していたことだろう。それが実現した暁の「モテたい!」「スゲーと言われたい!」などは、容易に想像できる「真のニーズ」である。では、その引き締まったボディーを手に入れる過程や、その結果もたらされる「学習されるニーズ」は何だろうか。「以前の自分よりずっと我慢強くなった」「前向きに活動できるようになった」などと想像して描くと、すっかりベタな通信販売の「利用者の声(個人の感想です)」になってしまう。マーケターの端くれである筆者も真剣に考えて書いてみたものの、アタマの中の想像を文字にすると、どんなにひねっても嘘くさくなる。やはり、自社ユーザーを丁寧にフォローして、本当の生の声から「学習されるニーズ」を引き出して「後のアフター」として潜在層に提示することが重要で、それができていればビリーズブートキャンプは「打上げ花火」にならず今日も売れ続けていたかもしれない(そうなっていれば、筆者の腹筋もカッコよく割れていただろうと思うと残念でならない)。

企業はとかく、「この商品はお客様のニーズを満たします・問題を解決します」とアプローチしたがる。しかし、その多くは「語られた言葉から容易に推測できる真のニーズ」のレベルだ。故に市場でも競合が激しくなり、顧客も価値を見い出せずに買わない。そう考えると、「後のアフター」をしっかりとやれている企業には滅多にお目にかかれていないことがわかる。市場の成熟化・消費者の購買欲求の低下を嘆くだけでなく、まだまだやるべきことはあるといえるだろう。

  • 金森 努

    グロービス経営大学院 教員

    東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道四半世紀以上。コンサルティング事務所、広告を経て、2005年独立起業。 青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。著書「図解 よくわかるこれからのマーケティング」(同文舘出版)「”いま”をつかむマーケティング」(アニモ出版)。共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。監修「実例でわかる!差別化マーケティング成功の法則」(TAC出版)。雑誌への連載、講演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。

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