「A案とB案のどちらがいいですか」に潜む罠とは?

「A案とB案のどちらがいいですか?」という問いかけは、社内のコミュニケーションでもよくあるでしょうし、取引先の営業担当者などから投げかけられるシーンも多いでしょう。「うーん、A案の方が好みかな」などと条件反射的に答えられている方も多いと思います。しかし、そのように答えてしまうことは、実は大きな罠に陥っている可能性があります。今回はそれについて解説します。

そこで陥っているかもしれない罠、落とし穴は、他にも選択肢や可能性があるにもかかわらず、「AもしくはBしか選択肢や可能性はない」と考えてしまうということです。たとえば、「この仕事はAさんにお願いしましょうか、それともBさんにお願いしましょうか?」という質問だったとします。この2人の顔や現状の仕事の忙しさなどを思い浮かべながら、「今回はBさんで」などと答える人は少なくないでしょう。

しかし、冷静に考えれば、他にもCさんやDさんにお願いする、あるいはその提案をしてきた人に自分でやってもらうという選択肢もあるわけです。「Aさんにお願いしましょうか、それともBさんにお願いしましょうか?」という質問は、そうした可能性を頭から排除させてしまう可能性が高いのです。

さらに言えば、他の選択肢の中でも、違う次元の選択肢を考えるという思考パターンが阻害されてしまうというマイナス面もあります。違う次元の選択肢とは、上記の例で言えば「そもそも、その仕事はそれほど重要じゃないからしなくてもいい」あるいは「別の仕事をする方が良い結果が出るから、そっちを誰かに任そう」といった選択肢です。

冷静に考えればそうした別次元の選択肢があるのは当然なのですが、「Aさんにお願いしましょうか、それともBさんにお願いしましょうか?」という最初の問いかけがある種のフレーミングやアンカーとなって、「その仕事を誰かに割り振らなくてはならない」という範囲でしかその問題を考えられなくしてしまうのです。

フレーミングとは「枠付け」、アンカーとは「思考範囲を制約する碇」のことです。フレーミングの例としては、「どうやってコストを下げて利益を出そうか?」といった問いかけがあります。利益を大きくするのであれば、他にも売上げを上げるという方法もあるわけですが、上記のように問いかけられると、そうした発想はなかなか出てきにくくなります。

アンカーの例としては、商品・サービスの定価があります。コンビニのように定価からの値下げがないようなビジネスであれば別ですが、BtoBのビジネスなどでは価格交渉をするのは当たり前です。ポイントは、価格交渉をする際に、どうしても最初の定価に頭が引っ張られてしまうということです。実証研究では、交渉の際、売り手側が高い売値を最初のアンカーとして提示する方が、最終的な妥結価格も高くなることが知られています。それほど最初の条件設定に人間の思考範囲は影響されてしまうのです。

こうした落とし穴は、相手に悪意がなくても無意識にはまってしまう場合もありますし、交渉やセールスなどの場においては、相手にとって有利な選択肢を奪ってしまうテクニックとしても用いられる可能性があるのです。

もっと卑近な事例で言えば、子どもにお手伝いを頼みたい時に、「掃除をする、それともお使いに行く?」などと声をかけるシーンがあります。子どもの立場としては、どちらにするか考える前に、「お手伝いをしない」という選択肢もあるのですが、このように聞くことで、その選択肢を頭から消せることがあるのです。

言い方を変えると、もし子どもにしっかりお手伝いを頼みたいなら、「お手伝いしてくれる?」と最初に聞くのはやや効率が悪いと言えます。相手にYESかNOかを考える余地を与えてしまう結果、実際にNOと言われてしまい、説得が面倒になってしまう可能性が増すからです。

話をビジネスに戻すと、相手のそうしたペースに簡単に乗せられてはいけません。客観的な立場で自分が置かれた環境を眺め、「他の選択肢はないのか」を冷静に考える姿勢が重要です。また、そうした余裕が持てるよう、意識して時間を作ることも必要です。テーマにもよりますが、誰かに相談するのも有効な方法です。

「他の選択肢はないのか」という問いかけの有効性は、今回紹介した落とし穴の回避に止まりません。よくビジネスパーソンが陥ってしまうのは、ある課題があったときに、最初に思いついた対応策やアイデアで思考を止めてしまうというパターンです。「これならうまくいきそうだから、まあこれでいいか」という発想です。

しかし、本来、世の中には無限の可能性があるはずです。私がよくクラスでも言うのは、「あなたが5分で思いついたアイデアは、ライバルも多分5分考えれば思いつく」ということです。厳しい経営環境が続き、タフな競争に勝ち残らなくてはならない現在、それではライバルを出し抜くことはできません。重要なテーマになればなるほど、「ライバルもここまでは考えていないだろう」と思えるレベルまで考えることが必要なのです。

RELATED CONTENTS