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MBAから始まったマネジメントキャリア -樋口泰行氏

投稿日:2006/10/16更新日:2019/04/09

第2回目は、先般、ダイエー社長を引いた樋口泰行氏に、技術者から経営者に至るキャリア形成にMBA取得がどのように寄与したかを聞いた(記事は、樋口氏が社長を公表される直前となる、2006年7月21日に開催された「グロービス経営大学院大学記念講演」を再編集したものです)。

「ブランドが欲しい」がきっかけMBA取得は人生の転機に

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樋口氏はユニークな経歴の持ち主である。松下電器産業の技術者からボストンコンサルティンググループのコンサルタントを経て、アップルコンピュータへ。その後コンパックコンピュータに入社し、合併で誕生した新生・日本ヒューレット・パッカードの代表取締役社長を務めた。そして2005年5月、その経営手腕が高く評価されてダイエー代表取締役社長兼COOに抜擢された。

今も多くの経営者が手本にする故・松下幸之助氏が創設した企業に入社したこと、同社の社内留学制度で米国Harvard Business Schoolの学位を取得したこと。こうした経歴をみると、樋口氏は名経営者になるべく計画的に着々と階段を上ってきたかに思える。

ところが樋口氏は「MBAの取得が人生の転機になった」としながらも、「経営に興味があったとか、経営者になりたいという理由で留学したのではない。動機はもっと不純だった」と、意外なことを口にする。では、ビジネススクールへの留学に駆り立てた本当の動機はなんだったのか。

この疑問に樋口氏は、「MBAというブランドが欲しい、学位を取りたい、それだけだった」と正直に打ち明ける。同氏はもともと理系出身で「(性能の)良いものを作れば売れる」と信じていた純粋な技術者。相手の発言を遮ってまで自己の考えを主張するような“ステレオタイプ”のリーダーシップも、どちらかというと苦手にしていた。幼少期は「友人が遊んでいるのを見るばかりで、自ら積極的に参加するタイプではなかった」そうだ。

それだけに留学した当初、樋口氏は多少の戸惑いを感じることもあった。

ハーバード時代の同窓生は楽天の三木谷浩史氏やローソンの新浪剛史氏などそうそうたる顔ぶれ。同窓生が持ち前のアグレッシブぶりを発揮する様子を目の当たりにして、「日本人は英語を話せないから落第する人が多いと聞いていたが、落ちるのは自分みたいなタイプだろうなと思った」と当時を振り返る。

ビジネススクールは経営を学ぶ圧力釜キャリア構築を加速する

当初から刺激に満ちた留学経験は、樋口氏の価値観を変えるきっかけになった。具体的には、「安定した活動より、不安定でも刺激的なほうが面白い」との考えが強くなった。「どうも、ビジネススクールに入ると刺激を求めるようになるみたいだ」(樋口氏)。

新しい刺激を求めて松下電器を退社した樋口氏は、ボストンコンサルティンググループ、アップルコンピュータと外資系企業でのキャリアを積む。その過程で社員の能力を年齢などに左右されず正当に評価しようとするフェアーな経営体質に直に触れ、「徐々に経営に興味を持つようになった」という。

元来、正義感の強い性格。失敗を部下のせいにするような同僚を見ると、「自分が何とかしてやりたい」と考え行動し、自身の部下からは「樋口さんと一緒に働いていると楽しい」と言われる機会が増えた。そうするうちに、「小さな会社でもいいから、社員が生き生きと働ける会社を作りたいと思うようになった」。

そして経営者としてのキャリアをスタートさせると、ビジネススクールでの経験が経営者として基本的な資質を養い、随所で経営の舵取りに生きていることを実感するようになった。

樋口氏は数多くのケーススタディを通じて短期間でいくつもの経営課題を疑似体験するビジネススクールを、短時間で調理できる「圧力釜」に例える。そして経営を学ぶ圧力釜の効用を次のように説明する。「ストレス、プレッシャーがかかるのでしんどいけれども、経営者として必要な経験や知識、人間的な厚みを早回しで身に付けることができる」。

さらに、色々な人と出会って議論できることや、経営に取り組む素地が身に付くことも、圧力釜の大きなメリットとして挙げる。

樋口氏がそうだったように、「一般に技術者は特定の技術や工場のことに詳しくなれるが、幅広い視点で経営感覚を習得するのは難しい」。ところが経営の圧力釜の中では、「高い意欲を持った異分野の人材と多く接することがで、自分のスコープを広げられる」。加えて、経営の基本を広範にわたってみっちり学ぶことで、「(経営の実践の場面で)経営課題を解決するための勉強に取りかかりやすくなり、吸収力も高まった」。

「普通の私でもできた」とビジネスパーソンにエール

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樋口氏は、技術者から経営のプロフェッショナルになった自らの経験を踏まえ、「私のように普通の人でも企業経営はできる。『それなら自分にもできそうだ』と思ってもらえればうれしい」と、後に続くビジネスパーソンにエールを送る。また、自身の“情けない体験”も披露し、学びの壁にぶつかるビジネスパーソンに勇気も与える。

例えば、こんなことがあったそうだ。ある日、欧米の学生たちが親交を深めるために開いている金曜日のパーティーに参加した。しかし樋口氏は留学から間もなかったこともあり、自分で満足できるほどコミュニケーションをはかれなかった。その不甲斐なさから自然と弱気になり、気が付けば「もう帰りたい」とつぶやきながら壁に頭を何度も打ち付けていた。

樋口氏の歩みからは、リーダーシップには様々な要件があると得心する。リーダーシップについて考える際、往々にして、声の大きさやコミュニケーションなど行動面の特性にばかり目が奪われがちだが、本質はもっと根底にある。それは「頭」と「心」の豊かさである。

「昔は相手を説得することなど、行動力がリーダーシップの要件と思っていた。しかし、今は頭の構造と、軸がぶれないマインドのほうが大切だと思う」。

一人の技術者からビジネススクールへの留学を経て、異業種の経営者として成功した樋口氏。その体験談と経営者論は多くのビジネスパーソンにとって、心強い道標を示している。

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