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「世界のKitchenから」のマーケティング整合性に学ぶ

投稿日:2009/03/13更新日:2019/04/09

3月2日「世界のKitchenから」のマーケティング整合性に学ぶ

JR東京駅構内のコンビニ「NEWDAYS」。先日ふらりと立ち寄ってみると、飲料棚で一気に7フェイスを確保している飲料があった。キリンビバレッジの「世界のKitchenからとろとろ桃のフルーニュ」。昨今のゼロカロリー、お茶ブームの中で、ひときわ異彩を放っている。いったいどんな戦略が裏側にあるのだろうか。

「とろとろ桃のフルーニュ」は2009年2月17日に、昨年3月以来の商品リニューアルをした。「煮こんだ桃とマンゴーを増量し、ますますとろとろおいしく贅沢になりました」とうたい、新発売時以上に力を入れた展開をしている。

「世界のKitchen」の共通コンセプトである「世界の母さんがつくる料理からインスピレーションをうけたレシピ」という独特の仕上がり。「桃のフルーニュ」は乳原料を用いているので、乳酸飲料に似ていて、フルーツカルピスやヤクルトの一種にありそうな味ではあるものの、そのどれとも違う。

商品の独自性は根強いファンを生んでおり、そのクチコミを促進すべく専用のWeb「セカキチファンクラブ」まで作られている。「世界のKitchen」の世界観が音と映像で丁寧に表現され、ファンのクチコミやレシピの元になった国の市民の感想が読める。

桃のフルーニュではハンガリーの街角で拾った感想が紹介されているが、みなが口々に言うメッセージは一つ。「うまい」。

飲料は常に新しい商品が上市されているが、「とにかく美味しい」というイメージを持つ商品が思い浮かぶだろうか。例えて言うならアイスクリームのハーゲンダッツのような。恐らくないだろう。

昨今の飲料市場における動きは、「緑茶カテゴリーの成熟〜衰退」と「炭酸飲料の伸長」が特徴だ。「緑茶戦争」ともいわれ、多数のバリエーションや高級ラインの展開など、様々な工夫がなされたが、消費者の嗜好は「ゼロカロリー」の登場によって炭酸飲料に流れた。

当たり前のようだが、市場にはもともとノンカロリーであるお茶や、甘みがあるがゼロカロリーの炭酸飲料を求めるセグメントだけが存在するわけではない。カロリーよりも、飲料としての「味わい」を優先する層も確実に存在する。

しかし、紅茶や果実、乳飲料などのカテゴリーはメインストリームではないため、目新しい商品はあまり開発されてこなかったと言える。

そこをキリンビバレッジはついた。

「カロリー優先ではなく、美味しい飲み物が飲みたい」という層の「ニーズギャップ」を「世界のKitchen」シリーズは独自のポジショニングと世界観ですくい取ったのだ。

世間の大きな流れに惑わされず、顧客のニーズをしっかりと見極める。マーケティングの基本に立ち返り、これほどまでに明確にポジショニングした飲料系商品、見当たらない。

しかも、売り方もうまいのだ。ポジショニングをうまく生かした施策がとられている。

■フェイスを確保せよ

マーケティングミックスの定番フレームワークである4Pで考えてみよう。

■Product(製品戦略)

味はもちろんのこと、パッケージにも徹底的にこだわっている。刺繍をモチーフにした、どこか家庭的で、可愛らしいデザインだ。

■Price(価格戦略)

商品の量目とも関連しているが、320ml入りのペットボトルで150円(税別)。量的に少々割高だが、逆にそれが高級感の演出につながり、「手が込んでいる感じ」が伝わってくる。

■Place(流通戦略)

「桃のフルーニュ」の大きなポイントだ。

320ml入りのペットボトルは細身で棚のフェイスがおさえやすい。通常のペットボトル6本分で7本収まるので通常より1フェイス多く置ける。7本も揃っているとなかなか壮観だ。消費者もつい手に取りたくなる。店もそれを狙って、多フェイス設置に協力する。

もう少し大きな視点で考えると、「世界のKitchen」シリーズの多くは「期間限定」や「地域限定」で展開している。「期間限定」は限定感という販促的な効果以上に、過剰生産・過剰在庫を持たないという、バリューチェーン上のメリットは大きい。

また、「地域限定」は一気に全国展開をするのではなく、「市場の反応を見て順次展開する」という飲料においては手堅い戦略の常套だ。期間限定と地域限定を組み合わせ、製品リニューアルを繰り返す。すると、常に新しい商品ということで、コンビニなどの流通チャネルの棚も確保しやすくなる。

■Promotion(コミュニケーション戦略)

棚確保にも小さなところで工夫が見られる。「桃のフルーニュ」はペットボトルに貼られたシールPOPが3種類あり、「おまたせしました」「ますますとろとろ」「とろあまずっぱい」と色違いで展開している。最低でも店頭の棚を3フェース確保するためのだろう。

コンビ二のフェイスを押さえたりするなどの工夫がどうポジショニングと整合するのかと思われた読者もいるかもしれない。だが思い返してほしい。あくまで紅茶や果実、乳飲料などのカテゴリーはメインストリームでないのだ。「美味しい」と主張したところで、コンビ二の店長を納得させるのが難しいことは想像に難くない。当然リスクもある。

それしたダウンサイドのリスクを最小限に抑え、いかに棚を確保するか。徹底的に考え抜かれた戦略であることが、浮かびあがってくる。

環境の変化を的確に捉え、ターゲットとそのニーズをすくい取るポジショニングを固める。そのポジショニングを実現するために、4Pの要素を組み上げる。その一連の整合性こそが力の源泉となるのである。

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