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とにかく美味しいご飯が食べたい!高級炊飯器ブームのワケを考える

投稿日:2015/08/13更新日:2019/04/09

炊飯器の売れ筋価格がどんどん上昇していて、10万円オーバーも人気という。求められているのは、「いかに美味しいご飯が炊けるか」という極めて本質的な要素。しかし、それ以前の炊飯器に求められていた機能の経緯や、他ジャンルの商品の事例を勘案すると、ある重要な事実が見えてくるように思えるのだ。

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高級炊飯器の求められる機能の変化

「炊飯器、おいしく炊ける高額品が人気の理由 6万~8万円台が人気、1~2人用でも高額化」(週刊東洋経済)によると、以前は、「(メーカー各社は)内釜を替えることでヨーグルトができる、ケーキができるといったような争いをしていた」という。確かに2005年から2010年頃を最盛期として「炊飯器クッキング」が流行し、雑誌に特集が載ったり、ムック本が発売されたりもしていた。また、メーカー各社からはそれに対応した炊飯器も開発・発売されていた。それが今はなりを潜め、各社ともひたすら「美味しいご飯を炊く」という原点回帰をしている。ナゼだろうか。

炊飯器の「価値」とその変遷

本連載で何度も紹介しているが、今回もフィリップ・コトラーの「製品特性分析」で考えてみよう。製品の持つ価値を3つの階層に分解して、その意味合いを明確化するモデルだ。

・中核=その製品を手に入れることで実現される中心的な便益(ベネフィット)
・実体=中核を実現する上で欠かすことのできない要素
・付随機能=中核の実現には直接影響を及ぼさないが、存在することで魅力を増す要素

炊飯器の「中核」が「ご飯を炊く」であり、昨今、この中核価値をどこまで高められるかの競争になっている。それに伴って、「実体」は「美味しくご飯を炊くために欠かせない要素」として、特に内窯などの性能を高める新素材を使ったり、加熱方式を再検討したりという開発が行われ、商品に実装されている。

「付随機能」は「美味しいご飯を炊く」とは直接関係ないが、あると魅力が高まる要素ということになるが、これがまさに2005年頃の「ヨーグルトやケーキが作れる」だったわけだが、前述の通り昨今ではここには注力されていない。

プロダクトライフサイクルが成熟化していくと、本来はどんどん求められる価値が3層の外側に移行し、勝負のポイントもそこになっていく。商品化された実用的な電気炊飯器は東芝が1955年(昭和30年)に発売したというから、当然、今日は成熟期になっており、ヨーグルトやパンを作ることが考えられたのは何の不思議もない。しかし、現実的には、炊飯器メーカーはフレームワークの原則とは異なり、中核を充実させるという「原点回帰」を選んだのである。

その理由の一つは、技術的なレベル向上によって、同じ中核でも、その内容が大きく変遷することにある。一番わかりやすい例でいうなら、「時計」だ。時計の中核は「時を正確に知ること」だが、その精度は機械式時計なら月差数分、1970年代以降にセイコーが普及させたクォーツ時計なら月差数秒、そして現在多くの人が使うようになった電波時計なら、実質的にないに等しい。故に、技術の進化によって求められる中核価値が自然と向上していくということで炊飯器の場合も説明が付くかというと、そうでもない。時計の場合、精度という中核の価値が向上していると同時に、1983年に発売開始された「スウォッチ」のように、ひたすら付随機能である「デザイン」に的を絞って今日も人気を保っている存在もある。しかし、そもそもの「スウォッチの誕生の背景」を考えると、1960年代から1970年代までに市場を席巻した日本製クォーツ時計からシェアを奪い返すことを意図して開発されたという経緯がある。つまり、消費者のニーズ発というよりは、自社の戦略の方向性から付随機能が進化し、それが見事に当たって大ヒットしたという側面が強い。

登山靴(アウトドアシューズ)の場合の価値構造の変化

もう1つ別の製品の例で考えてみよう、「登山靴」や「アウトドアシューズ」を想像して欲しい。山やアウトドアで求められる「中核」は、「歩きやすさ・足の保護」などだろう。すると、それを実現する「実体」は「クッション性の良さ・丈夫な造り」となどになる。そして、主に機能が求められる商品だけに「デザイン性」などの要素は、あればうれしい程度の「付随機能」という位置付けになるだろう。

しかし、山やアウトドアにも数年前から新たなターゲットが登場してきた。山では「山ガール」、アウトドアには「野外フェスに集う若者」が姿を現すようになった。彼女ら、彼らが実現したい中核的便益には、「山や屋外(フェス会場)でもオシャレでいられること」という要素が加わった。そのため、オシャレを実現する「デザイン」は、「あればうれしい」というような付随機能ではなく、「実体」に格上げされた。そして、よりオシャレだとうれしいと思うユーザーの欲求によって、新たな付随機能として「多彩なカラーバリエーション」というような要素が加わった。大ヒット商品となった「メレル」のトレッキングシューズは、98年には黒やオリーブ、黄色の3色だけであったが、ターゲットが変化し、広がったことによって08年に、緑や青などを加え7色展開を始め、現在はさらにバリエーションを増やしている。

こちらの靴の事例は、スォッチとは異なり、価値構造はターゲットの変化によって、本来の付随機能が実体に格上げされたり、新たな付随機能が加わったりした例と解釈できる。やはり、自社は業界の技術的な製品進化や、自社の目指す戦略の方向性だけを見ているのではなく、「ターゲットと、そのニーズの変化」をしっかり見定める必要があるのである。

高級炊飯器のターゲットは誰か?

では、話を戻して高級炊飯器のターゲットとそのニーズはどこにあるのだろうか。セグメントは大きく分けて2つあるようだ。1つは「外食にあまりおカネを使わず、家で食事をする層」。炊飯器の価格は数年来右肩上がりだったが、さすがにリーマンショック直後は少し下がった。しかし、急落せず、その後の景気の低迷期も価格が維持されたのは、この「内食層」が支えたせいだと言われている。

もう1つのセグメントが、恐らく子どもが巣立った後の「empty nest」とも言われる子離れ熟年夫婦層だろう。世帯人数の変化に対応して、1~2合などの少量でも美味しく炊けるとういう点を重視するという。

ターゲットの変化と価値構造の変化

しばらく前まで、ごく一般的な消費者は今日ブームになっているほど「とにかく美味しいご飯が食べたい!」とこだわっていたかというと、実はそうでもなかったように思う。確かに美味しいに超したことはないが、大枚をはたいてまで実現したいと思っていないとするなら、それは「あるとうれしい=付随」ぐらいの価値ではなかったか。それよりも、パンやヨーグルト、その他色々な料理を炊飯器で作りることに関心が向いていた。

そこに登場してきたのが、前述の「外食に買いにお金をかけない内食重視層」「量は少なく美味しく1~2合を炊きたい子離れ高齢者層」である。彼らには、それぞれ「外食にお金をかける代わりに・・・」「どうせ量は食べられないのだから・・・」と、美味しさにこだわる確たる理由が存在する。

「製品特性分析」×「プロダクトライフサイクル」のフレームワークの原則に反して、途中から意外な中核価値一点張りへと原点回帰をした炊飯器の例から学ぶべきものは、フレームワークの原則は原則として重要ではあるが、それ以上に価値構造の変化に大きな影響を与える新たなるターゲットとそのニーズが登場していないかを注意深くウォッチする必要があることを示唆してくれている。

フレームワークはあくまでも「型」であり、それ以上に重要なのは、顧客とそのニーズをしっかり見ることなのである。

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