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「売れ続けるために変わり続ける」をメリットシャンプーの歴史に学ぶ

投稿日:2015/07/23更新日:2019/04/09

花王の「メリット」といえば、シャンプーのブランドとして知らない人はいないであろう、堂々のロングセラー・定番商品である。何と発売は1970年というから、45年間も栄枯盛衰の激しい市場の中で生き抜いているのだ。しかも、単に生き残りを果たしているだけではない。化粧品業界紙「週刊粧業」が全国の消費者から化粧品・日用品の買い物レシートを集めて行っているランキング調査において、メリットはランキングトップの常連である。つまり、今も「売れ続けている」のである。そのヒミツを探ってみよう。

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メリットシャンプーの変遷

前述の通りメリットシャンプーの発売は1970年。田中裕子が花嫁である友人に「フケ・かゆみをおさえてお幸せに」と、とぼけたスピーチするCMが印象的だった。

メリットのロングセラーのヒミツの一つは、そのターゲットとポジショニングを巧みに変えたことだ。当時のターゲットは若い女性であり、「フケ・かゆみをおさえられる」という極めてストレートな利点を、「ジンクピリチオン配合」という効果を実現する成分訴求のキャッチフレーズで示し、ポジショニングを明確にした。若い女性の「お悩み解決商品」として、当時注目を集め、一気にトップブランドに駆け上がったのだ。しかし、その後、「フケ・かゆみに悩む若い女性」というターゲットは減少し、それよりも「もっと髪をサラサラにしたい」とか「ダメージを受けた髪を修復したい」というようなニーズに分散しつつ変化していった。まして、若い女性向けシャンプーは最新の成分を配合し、華やかな広告で訴求する新しい商品が目白押しだ。そのままでは恐らく、メリットはターゲットニーズに合わない古くさい商品となっていたであろう。

だが、メリットは2001年に「弱酸性メリット」と製品改定をし、長年市場で培われたネームバリューを「安心感」と置き換え、フケ・かゆみをおさえるという効能に、さらに「地肌と髪の潤いを保つ」という効果を加えて、「家族全員のためのシャンプー」と、ターゲットとポジショニングシフトしたのだ。CMに保阪尚輝・高岡早紀夫婦(当時)を起用して以来、その後も2010年まで仲村トオル・鷲尾いさ子夫妻、藤井隆・乙葉夫妻と、これでもかの家族シリーズでポジショニングを明確にした。女性の様々な髪へのニーズに対応したヘアケア商品は数多あるが、「家族のための」というユニークなポジションはもはやメリットがしっかりと握っており、そこに同質化をかけてくるようなブランドもない。

メリットが実行した命懸けのポジショニング変更

ポジショニングの変更は、ブランドにとって「命懸けのジャンプ」であると、マーケティングの大家・フィリップ・コトラーは著書「コトラーのマーケティングコンセプト」のポジショニングの項で記している。メリットがロングセラー商品の地位を確たるモノにしたヒミツは、その賭けに果敢に挑み勝利したことであるが、その後も「売れ続けている」ヒミツは、慎重、かつ確実な商品展開にあると筆者は考える。メリットは1970年のシャンプー発売に続いて1975年にリンスを追加している。さらに、1991年にリンス成分配合の「リンスのいらないメリット」を発売した。この製品追加は70年代に「シャンプーした後はリンスも必要」というような市場の流れに乗ったものであり、同様に91年の新商品も各社からリンス・イン・シャンプーが発売されたことに対応したものだ。しかし、その後、メリット製品ラインナップの追加はなりを潜めた。「家族のシャンプー」として、みんなで同じシャンプーやリンスを使うというポジショニング上、あまりラインナップの細分化は整合性がないからであろうと思われる。

しかし、2010年の調査で面白いデータがある。リビング新聞のウェブサイト「えるこみ」が全国の既婚女性に対して行ったWEBアンケートであるが、「家族みんなで共用するシャンプーは、「ある」は77.8%」「家族で共用しない自分専用のシャンプーが、「ある」45.3%。「ない」54.7%と、ほぼ半々」という結果が出ている。「家族のシャンプー」は普及しているが、ママ層が「自分専用」を使い始めた傾向が見える。その市場の動きに呼応してか、メリットも家族の中でも「母子共有」(つまり、パパは除外)という商品を2009年に発売している。「メリット さらさらヘアミルク」という「親子で使えるトリートメント」というコンセプトの商品だ。商品は細分化させつつ、「家族」というポジショニングを外していないという点だけでなく、その市場環境の変化の捉え方が出色なのである。

ターゲットである娘の方は、幼稚園や小学校に通う女児で、当時はセミロングが5割を超す勢いであったという。となると、問題は子どもの髪の「絡まり」だ。花王は女児を持つ母親にアンケート調査を行い、娘の髪に対して、「くし通りや指通りの悪さ」「絡まる」などの不満があることを抽出し、その原因が女児の頭髪は太さや固さが成人女性の半分程度であり、細くて柔らかく絡まりやすいことにあると突き止めたのだ。そうした母親の未充足ニーズに応えることにより、当時トリートメントを使用する女児は2割に留まり、8割が白地であるという大きな市場を手に入れることができたのである。

次なる新商品が展開されたのは2013年。リンス・イン・シャンプーにメントール(清涼剤)を配合した「リンスのいらないシャンプー クールタイプ」である。ここでも花王は市場のニーズを的確に拾っている。2012年に男性を対象に調査を行い、「アタマの臭いが気になっている男性は81%に上る」という事実を突き止めた。そこで今度は「父と息子のための商品」を展開。父親が混んだ電車の中で汗をかいたり、息子がスポーツ時に汗をかいている姿をCMでは描いている。

その次の展開は2015年の「メリット ピュアン モイスチャー 地肌クレンジングシャンプー」の発売である。この商品は若い女性向けのイメージが強く、メリットブランドとしてはいささか違和感がある。しかし、考えてみると、家族共用のシャンプーから娘が独立するのは中高生ぐらいからであろうか。だとすれば、その離脱を防止し、囲い込むことが必要である。CMのキャラクターは現役女子高生であり、モデル・タレント・女優の中条あやみ 18才。ちょうど家族のシャンプーから離脱を図る世代にとっては雑誌『Seventeen』の専属モデルでもある彼女はあこがれ的存在だろう。

「メリット ピュアン」が若い女性を狙えるには実は意外なワケがある。現在のシャンプー市場で一つの潮流となっているのは「ノンシリコン」である。髪をしなやかにする成分であるシリコンは現在、多くのメジャーブランドに配合されている。それに対して、非シリコン配合の方が髪に良いというような論が起こり、新興ブランドがいくつも立ち上がって新たな市場を形成するに至っている。そして、メリットは実は発売以来、ずっとノンシリコン製品であるという、この新たな流行に対応した大きな訴求点を持っていたのである。もちろん、メリット本体商品もノンシリコン訴求を現在行っているが、その新しい価値が最も刺さるのはママ世代よりも若い娘世代であろう。そこに、新商品をぶつけてブランド内への囲い込みを図っているのである。

1970年に若い女性向けの商品として発売されたメリットは、「家族のシャンプー」へと命懸けのジャンプであるポジショニング変更を行って定番の地位を獲得し、その後も時代と環境の変化に合わせて商品を分割していき、ぐるっと一回りして再び若い女性向けの商品ラインナップも持つようになった。かくして、「メリット」というブランドは、家族の中の母と娘、父と息子、大きくなった娘など色々なメンバーが安心して使える「アンブレラブランド」として、個々の商品をとりまとめる役割を担うようになったのだ。

「売れ続ける」ためには、定番だからといってそのままでは生き残れない。環境変化に合わせ、また、新たなチャンスを無駄にせず変わらねばならないのだ。メリットの45年間の歴史は売れ続けるヒミツを体現していると言えるだろう。

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