AI活用率92%へ 全社横断の「AI戦略会議」で何が変わったか
――今回、テクノロジーでビジネス変革を牽引する先進的なCIO(Chief Information Officer)や国内企業を表彰する「CIO 30 Awards Japan 2025」にて「Leadership Award」を受賞しました。
鳥潟 幸志(グロービス・デジタル・プラットフォーム マネジング・ディレクター):グロービスは2017年、次世代経営教育モデルを研究するグロービスAI経営教育研究所(通称GAiMERi:GLOBIS AI Management Education Research Institute)を設立し、10年近くAI×教育の領域で様々な取り組み・実装を続けてきました。ただ、技術革新や社会の価値観の変化が続くこの領域には、まだ正解があるわけでもない。そんな中で走り続けてきたところ、ひとつ客観的な評価をいただけたことは、会社としての自信になったと思います。
末永 昌也(グロービス CTO):今回、IT戦略やDX推進に顕著な取り組みを行った企業に授与される「Leadership Award」という枠での受賞でしたが、グロービスはAIで生産性向上のみならず「新プロダクト創出を視野に入れた、全社的なAI活用推進を行っている」点が選考理由になったようです。教育のあり方そのものを変えようとしている点が認められたところは、グロービスとしても本当に嬉しいことですね。
――グロービスでは2025年に掲げた全社方針(AI/Global/Innovationの頭文字を取り「AGI」と呼称)のひとつとしてAI活用に取り組み、それまでも進められてきたAI活用のギアがもう一段上がったように理解しています。具体的に何にどう取り組んだのか改めてご説明いただけますか。
鳥潟:中心となったのが、「AI戦略会議」という全社横断型の会議体です。そもそもグロービスはそれぞれ現場でAIの取り組みを進めていたので、分散状態にあったものを集約し、議論・意思決定する役割をここで担うことを目的としています。
組成にあたってはまず、ミッションと3つのビジョンを決めました。

組織構造としては、意思決定機関の下に、各ミッションにフォーカスしたワーキンググループを設置していきました。例えば生産性向上にフォーカスしたワーキンググループ(AIアクセラレートプロジェクト)では、各部門の主要業務へのAI導入支援や、全社共通の生成AIガイドラインの策定・アップデート、AI問い合わせエージェントの構築、資料作成やセキュリティチェックの効率化などを推進し、結果全社のAI利用率を40%程度から92%まで向上させることができました。

スピーディな変革を支えた「組織体制」と「仮説検証」
――AI活用率の向上には悩む企業も多いのではと思いますが、具体的にどのような取り組みの結果、こういった成果を得られたのでしょうか。特に効いたとお感じのことがあれば教えてください。
鳥潟:「AIを使いましょう」「AIで変革しましょう」と言っても、それぞれが思い描いているイメージはバラバラです。まずはその考えを集約し、共通理解をつくる。そのうえで、現場のリアルな声を聞き、取り組みやすいところからひとつずつ前に進めていきました。
生産性向上にフォーカスしたワーキンググループ・AIアクセラレートプロジェクトでは、各部門から代表に参加してもらい、彼らを経由して「誰がどのような業務を担当しているのか?」「どこに課題があるのか?」をヒアリングし、やるべきことをあぶり出していきました。現場でナレッジ共有をしたり、部門単位では解決できない課題を吸い上げて改善につなげたりするにも、この体制は役立ちましたね。
また、現場からは「(AIの学習データとして)何の情報を入れていいのか、入れてはいけないのかがわからず不安だ」という声が多かったので、そこを解消すべく、社内の推奨AIツールの決定、およびAI利用ガイドラインの設定・周知などを行いました。これでかなり利用が進んだように感じています。
その他、教育手法の革新や新しいプロダクトの開発については、前述のGAiMERiほか研究チーム(ファカルティ・グループ)、やデジタルプロダクトチームの開発組織が中心となり、以前からの動きを整理し、どう活用するかを議論していきました。知財関連も重要で、この点では経営管理部門の皆さんとも相当な連携をしていきました。こんな活動体制を、1~2か月ほどで固めていきましたね。
――かなり短期間で進められたのですね。そのスピードを維持しながら目的を実現するにあたって、意識した部分や議論を重ねた部分はどこでしょうか。
末永:1年前の時点では、AIでどこまでできるのかが明確に見えていなかった部分も多かったと思います。そこで意識的に行っていたのが、ミニマムな仮説検証です。たとえば、Geminiだけを使って対話型の体験がどこまで実現できるのか、簡易的なプロダクトの中で仮実装するとどうなるのか、といった検証ですね。いきなり大きなシステムをつくるのではなく、まずは小さく試して当ててみる。このプロセスを繰り返せたことは、プロダクトづくりの観点でも良かったと思います。
鳥潟:最初の段階で「独自LLMをつくるべきではないか」という意見も出ていたのですが、ここはかなり慎重に議論を重ねました。専門家へのヒアリングも行い、独自にすべてをつくる場合と、そうでない場合を徹底的に比較しました。
結論としては、私たちのような事業体であれば、独自LLMをつくることよりも、質の高いデータセットを整えること、あるいは既存の技術を活用して、できるだけ早くAIを使った学習体験を受講生に届け、フィードバックを得ながら改善を回していくほうが現時点では価値が高い、という判断になりました。「今、本当に我々がやるべきことは何か」を改めて問い直していったんです。
末永:結果として、グロービスが提供すべき価値として重要なところにパワーを集中できたのは良かった点ですね。状況に応じて、かなり臨機応変に動いていくことになりましたが、スピードとフレキシビリティを重視した進め方ができる企業風土があったことは、大きかったと思います。
全社で生成AI活用に踏み込んだ「危機感」「ワクワク感」
――世の中では「AIを使おう」という動きは広がっているものの、部門単位や一部の取り組みに留まってしまうケースも多いように思います。グロービスが全社でここまで踏み込んだ背景として、生成AIによる変化をどのように捉えていたのでしょうか。
鳥潟:ひとつは、やはり強烈な危機感だったと思います。AIがもたらす変化は非常に大きく、私たちの日々の仕事のあり方はもちろん、教育という営みのプロセスや本質そのものが大きく変わり得ると感じていました。
たとえば、私たちは現在定額制動画学習サービス「GLOBIS 学び放題」を通じ「動画で学ぶ」という価値を提供していますが、5年後にその形がそのまま残っているのか、と考えると決して自明ではありません。そうなったときに、何が本当の価値となり、グロービスとして何をもって世の中に貢献できるのか――その問いに対する強い危機意識がありました。
だからこそ、誰も正解が分からない中で、まずはとにかく早く使ってみる。自分たちが誰よりも先に試し、「ここまでできる」「ここはまだ難しい」と体感を持って理解する。そのスピードこそが何より重要だ、というマインドセットがあったと思います。
もうひとつ大きかったのは、トップである代表 (堀 義人)の強いメッセージです。トップが自らAI活用の重要性を発信し続け、可視化し続けたからこそ、全社として動けた。影響は非常に大きかったですね。
鈴木 健一(グロービスAI経営教育研究所 所長):研究所でも、危機感はもちろんありました。ただ、それに加えて、新しい技術が登場する中での「面白さ」や「楽しさ」も大きなエネルギーになっていたと思います。
新しい技術を使えば、これまでできなかった学びを創造できるかもしれない。何かを根本から変えられるかもしれない。そんなポジティブな好奇心も、組織の中に息づいていると感じています。
全社AI活用の先にグロービスが見据えているのは、こうした教育のあり方そのものをAIによって変える挑戦だ。後編では、AIと共に学ぶ未来の教育を考える。
(次回に続く)

























