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金利ゼロの負債の不思議 ―転換社債型新株予約権付社債(CB)

投稿日:2008/07/04更新日:2019/04/09

ヤマダ電機によるリキャップCBの真意について検討した前回に引き続き、金利がゼロでも投資家がCBの購入に動く理由を解説する。

「当社は財務体質が良くないので社債を発行すると金利が高い。このため、転換社債を発行することにした。なぜなら金利がゼロだから」という企業経営者が多い。なぜ普通社債だと1~2%の金利を支払わねばならないのに、CBだと金利はゼロとなるのであろうか?「この世の中にただのものはない」、「ただほど高いものはない」という格言があるが、ファイナンスの世界では通用しないのであろうか?

そもそも、なぜCBは金利ゼロでも投資家は購入してくれるのであろうか?これを解く鍵は「CBとは何か」にある。

CB(Convertible Bond)の正式名称は、「転換社債型新株予約権付社債」と長い。これは、「新株予約権」の付された「社債」であり、「転換社債」の形態をとったものである、ということを意味している。それぞれについて考えてみよう。

普通社債と転換社債の差異とは

まず、「社債」であるが、これは企業等が発行する借入金で債券の形をとったものである。国が発行する債券は「国債」といわれ、企業が発行するものは「社債」と呼ばれる。

通常、債券は一定の期間ごとに利息を支払い、満期日には元本が支払われる。これを「利付債」といっており、社債券面上に元本の金額(これを「額面金額」という)、年間の利子率(「クーポンレート」という)、そして満期日(「償還日」という)に元本額を返済する旨の文言が記載されている。

一方、一定期間ごとの利払いがなく満期日に元本を一括して返済する形態のものを「割引債」という。このような割引債は、満期までの期間の利息相当額を額面金額から予め差し引いた価格で販売される。つまり満期までの期間の利息を割引いた現在価値で販売されることから「割引債」と称される。手形の割引と同じ原理である。

次に「新株予約権」であるが、これは発行会社の普通株式等を一定の期間の間、予め決められた価額で購入する権利を意味する。例を挙げれば、ある企業の発行日現在の普通株式の株価が1000円だった場合、発行日以降5年の間、例えば1100円で発行会社の普通株式を購入できる権利である。この1100円の株価を「行使価額」と呼んでいる。株価は常に変動しており、将来株価が1100円以上に値上がりした場合、この新株予約権を行使すれば利益が実現できる。

「転換社債」は、上記の社債部分と新株予約権部分が不可分の一体をなしており、新株予約権を行使すると、社債の元本部分が株式取得の払込金に充当されて株式に変わることになる。

以上から、「転換社債型新株予約権付社債」とは、「予め決められた株価で株式に転換できる権利のついた社債」ということになる。これは権利であり、義務ではない。したがって、株価が上昇すれば転換権を行使して株式を取得し、市場で売却することで売却益が得られる。一方で、思惑が外れて株価が上昇しなかった場合には、新株予約権は放棄し社債の満期に元本を受け取ればよいことになる。

ここまで説明すれば、普通社債であれば金利を支払わねばならないのに、CBであれば金利を支払わなくともよい理由が理解できよう。新株予約権は将来株価が上昇すれば行使して利益を得られる権利であり、したがって価値があるからである。普通社債であれば2%の金利を支払わねばならなくとも、この普通社債に支払い金利と同等の価値を持った新株予約権を付帯させれば、投資家は買ってくれる。つまり、上記の例であれば、CBは「2%の投資利回りとなる普通社債(割引債)」部分と「CBの発行価額とこの普通社債(割引債)の価額との差額に等しい価値を持った新株予約権」部分とで構成されていることになる。

ヤマダ電機の例に見る「ただほど高いものは無い」理由

前回のコラムで見たヤマダ電機のCBを例にとってみよう。ヤマダ電機は1500億円のCBを5年物と7年物の二つのCBに分けて発行した。5年物CBの発行内容は以下の通りである。

(1)社債の名称:株式会社ヤマダ電機2013年満期ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債

(2)社債の総額:700億円

(3)発行価格:本社債の額面金額の103%

(4)新株予約権の割当日および社債の払込期日:2008年3月14日

(5)新株予約権を行使することができる期間:2008年3月28日から2013年3月14日まで

(6)償還期限:2013年3月28日

(7)転換価額:14,175円

(8)発行条件決定日(2008年2月26日)における株価(東京証券取引所における終値):9,450円

転換価額は発行条件決定日の株価終値のなんと1.5倍となっている。読者は5年間のうちにヤマダ電機の株価が本当に1.5倍になるか懐疑的に思うかもしれない。

それでは、この新株予約権の価値を計算する方法はないのであろうか?オプションの価値決定理論として「ブラックショールズ・モデル」なるものがある。このモデルは簡単に言えば、当該株式の株価が将来上昇し新株予約権が行使された場合に得られるであろう利益の予想額を推計するものである。このモデルを使って上述のヤマダ電機の新株予約権の価値を試算すると、1株当たり1630円*1となる。行使に際しては1株当たり1万4175円分の社債を放棄して株式を取得しなければならないので、この放棄/取得額に対する予想利益額の割合は11.5%(1630円/1万4175円)となる。

ヤマダ電機のこのCBは額面の103%で発行されているので、額面100万円のうち11.5万円が新株予約権の価値、そして残りの91.5万円(103万円-11.5万円)が普通社債の価値となる。この普通社債は利払いを行わず、5年後の満期に額面金額である100万円で償還されるので割引債の形態をとる。この割引債の利回りは年率1.792%(5年後の100万円を現在に割引いて現在価値が91.5万円となるような割引率が1.792%)ということになる。この時点での5年物国債の利回りが0.966%*2であったので、国債の利回りに0.826%のスプレッドが乗せられていることになる。この同期間の国債の利回りに対する上乗せ幅を「スプレッド」と称しているが、これは信用度の極めて高い国債に対して一般の社債は信用度に劣るため、信用度の格差に応じた金利の上乗せを要求されるためである。したがって、信用度の低い社債ほどこのスプレッドの幅は大きくなる。

社債発行企業の信用度の尺度として「格付け」というものがあるが、ヤマダ電機はA+の格付け(日本格付研究所:2008年2月26日現在)となっている。この時点でのA+債の平均的なスプレッド幅は0.352%*2であったので、ヤマダ電機債は今回のCBの発行に当たって、この平均的スプレッドをかなり上回るスプレッドを乗せていることになる。この差額部分は投資家が当該CBを買いやすくするための一種の甘味料といえるが、理論的には、上乗せされている実質的なスプレッドの幅から見て、今回の資金調達に当たってはCBではなく普通社債と新株予約権をそれぞれ別々に発行したほうが全体的な発行コストは低くできたはずである。前回のコラムで見たように、事業リスクと株主構成の変更等々、コスト以外の目的もにらんでのCB発行といえよう。

以上からみて分かるように、ヤマダ電機は新株予約権という価値のあるものを社債にタダで付けたので、利払い額をゼロとすることができたわけである。やはりこの世の中には(無償の愛を除き?)「ただのものはない」といえるようだ。

*1 ブルームバーグ推計のヤマダ電機株式の90日ヒストリカル・ボラティリティ値48.59%(2008年2月29日)に基づいて算定したコールオプション・プレミアム。過去90日間のボラティリティ(株価の変動幅)がかなり大きいため、コールオプション・プレミアムの推計値もかなり大きくなっている。将来、ヤマダ電機のボラティリティがこれよりも低くなることが予想される場合には、当然コールオプション・プレミアムの価値も小さくなり、これによって普通社債(割引債)部分の利回りも低くなる

*2 日本証券業協会発表「公社債店頭売買参考統計値」(2008年2月26日)から算定

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