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業界キーパーソンの予測はなぜ外れるのか?

投稿日:2015/11/10更新日:2019/04/09

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業界予測などをする際に、その業界のキーパーソンの話を参考にすることはよくあることです。例えば、アパレル業界の将来を予測するのであれば、アパレル業の経営者や幹部に話を聞くなどといったことです。筆者も、コンサルティング業界にいた頃には、リサーチの一環として、よく業界のキーパーソンに話をうかがいに行きました。

しかしそうした業界キーパーソンの予測は本当に当たるのでしょうか?個人的な経験でいえば、過去や現在の話に関しては、彼らの話は本当に参考になります。しかし、いざ将来のこととなると、当たることもあるけど、当たらないこともあるというのが正直なところです。全く業界に土地勘のないアウトサイダーの意見に比べればまだましではあるのですが、重大な意思決定の根拠にするほどの信頼性があるかといえば、そんなことはありません。

以下に、業界キーパーソンの予測が外れた有名な例を紹介します。
「15社もの外国車メーカーがすでにいるというのに、日本車がアメリカ市場でシェアをとれるとは思えない」
-ビジネスウィーク、1968年8月

「個人が家庭でコンピュータを持つ理由なんてない」
-ケン・オルセン、DEC(当時の大手コンピュータ会社)社長、1977年

「彼らの音楽はダメだね。ギターのグループはもう流行りじゃないよ」
-ビートルズをオーディションで落としたデッカレコードの幹部、1962年

「iPhoneのようなものが流行るわけがない」
-スティーブ・バルマー、マイクロソフトCEO、2007年

(最初の3つの例はPaul J.H. Schoemaker, Sloan Management Review Winter 1995より引用)

もちろん、将来の不確実性を考えれば、未来予測がすべて当たるわけではないのはある意味当然かもしれません。それにしても、その業界のことに詳しいはすの「プロ」がなぜこうも誤った未来予測をしてしまうのでしょうか?

1つの理由としては、業界にどっぷり浸かってしまったがゆえの視野狭窄があります。ほとんどの人間は、過去の延長線上に未来があると考えがちです。過去のトレンドが、なんとなくそのまま線形で(直線を延長したように)続いてしまうと考えるのです。

ましてや業界の権威ともなれば、その業界の「過去に起きたこと」は知しつしています。技術開発や商品開発の難しさとか、顧客がどのように振る舞ったかということです。そうした知識が豊富であるがゆえに、それまでの「世界観」に染まってしまい、全く新しい世界のあり様に想像が至らなくなってしまうのです。

たとえば、プロ野球の世界では、1995年に野茂選手がメジャーに移って大活躍をし、さらにイチロー選手が2001年にメジャーに移ってからは、日本人選手が毎年のようにメジャーに移り、一部の選手はかなりの活躍をするようになりました。

しかし、このことを1990年ごろに予測した関係者は筆者が知る限りほとんどいませんでした。以下のような意見が多数だったのです。

「日本の球団が主力選手を手放すわけがない。戦力面でも営業面でもダメージが大きすぎる」
「日本でも稼げるのに、一流選手がそんなリスクを冒すはずがない」
「日本のファンが喜ばない」
「日本人の体力ではメジャーの試合数をこなすのは無理」
「日本人はパワーがない。ピッチャーはまだしも、打者は全然ダメだろう」

しかし、今から考えれば、当時すでにBS放送などで日本に居ながらにしてメジャーの試合を楽しめる下地はできていましたし、筋力トレーニングの進化などもあって、日本人の体格や体力も大きく向上していました。日本人がメジャーに挑戦する条件はある程度揃っていたのです。

ただ、野茂選手がメジャーに行くまでは基本的に日本人のメジャー選手はずっとゼロでした。過去の世界観に染まった「業界のプロ」は、そのゼロという数字が線形でずっと続くと思い込んでいたのです。

業界のキーパーソンの予測が外れる理由でもう1つ大きいのは、彼らが往々にして既存の業界秩序を好み、自分に都合のいい楽観的な予測をするということです。

業界のキーパーソンというのは、多くはその業界での成功者です。企業であれば経営者や幹部ですし、アナリストであっても、過去の業界常識の中で成功を収めた人たち、あるいは、過去にその業界において企業幹部と良いリレーション構築をできた人々です。

先のスティーブ・バルマーの例でいえば、彼はマイクロソフトという、主にパソコン(PC)向けのOSビジネスで成功を収めた企業のCEOでした。しかも、マイクロソフトの成功は通常企業の成功とはケタ外れの大成功だったわけです。

その彼が、PCを代替するような製品がどんどん流行することを歓迎するわけはありません。(実際のところは本人に聞かなければわかりませんが)おそらく、彼の頭の中には、「こんなに値段が高い商品がそうそう売れもしないだろう。PCも安くなってきていることだし、PCがIT業界の中心であるという状況はそうそう変わらないだろう」という読みがあったものと思われます。

後になれば、我々はバルマーのことを非難することはできます。しかし、もし皆さんが既存の業界の成功者だとしたら、はたして自分の願望抜きに客観的な未来予測ができるでしょうか? おそらく、無意識に既存の秩序が続くことを願いながら、楽観的な見込みを持つことが多いはずです。実証研究でも示されているのですが、頭が良い人や、成功者ほど、往々にして楽観的な前提を好むのです。

もちろん、世の中には成功者でも謙虚に世の中の動向を見据え、ゼロベースで未来を予測できる人間はいます。ソフトバンクの孫正義社長などはそうしたタイプのように思えます。しかし、そうした存在は決して多数派ではありません。

激変する時代においては、未来の予測を踏まえた上で、逆算的に戦略を構築する必要があります。しかし、皆さんが根拠としている業界キーパーソンの予測は本当に信用できそうなのか、あるいは自分自身の予測は本当に客観的なのか、そこに何かしらのバイアスが入っている可能性はないのか――ぜひ健全な批判精神をもって疑っていただきたいと思います。

  • 嶋田 毅

    グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

    東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
    グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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