まだ日本にはVertical AIで勝てるチャンスがある
——ご著書『アフターAI』が、グロービスとflier共催の「読者が選ぶビジネスグランプリ」において、グロービス経営大学院賞を受賞されました。受賞されての感想をまずお願いします。
シバタ:かなりニッチな本だと思っていたので、こんなにも売れるとは思いませんでした(笑)グロービスさんは「テクノベート(テクノロジー×イノベーション)」という言葉をよく使われますが、イノベーションによって生まれた新しい技術(テクノロジー)は世の中に浸透して初めて人の役に立つものです。2026年はAIの社会実装・ビジネス実装が更に進んでいく、テクノベートな1年になるはずです。そういったタイミングで手に取っていただける指南書のような存在になってほしいと思っています。
――読者からの反響で、印象的なものがあれば教えてください。
シバタ:一番驚いたのは、NHKから出演依頼をいただいたことです。お声がけをいただいた理由は、私が「まだ日本にはVertical AIで勝てるチャンスがあるかもしれない」といった発信をしている、おそらく唯一の人間だからです。ただ、私があまりにもポジティブであることに皆さんが驚き、感動してくれているのに一番驚いています。
——たしかに、世の中にはAIに対して、ネガティブな空気感が漂っていると感じることも多いですね。
シバタ:パソコンが登場して以来、日本はずっと欧米が作ったものを買い続けてきました。つまり「デジタル赤字」の状態で、今となっては皆さんが使っているスマホも、ソフトウェアに関してはほぼ100%海外製のものを使っているのが現状だと思います。
AIの普及は、過去のスマホやクラウドの登場よりも大きな変化だと言われていますので、大きな恐怖感を持つのは、人間として合理的な行動だとは思います。ただ一方で、そこに非常に大きなチャンスもある。恐怖を感じる一方で、新しく生まれるチャンスに飛び込んでいく人が増えてほしいと思います。
数十から数百のAIエージェントが「部下」になる

――AIの進化によって、ビジネスパーソンの職場環境や日常生活は、どのような方向に変化していくとお考えでしょうか。
シバタ:会社で働いていると、上司や部下といった上下関係があります。これからAIが浸透していくと、社員一人ひとりが「上司」の立場になり、その部下として1人あたり数十から数百単位の「AIエージェント」が動くことになるはずです。
すると、それを好むか好まざるかにかかわらず、部下であるAIエージェントを使い倒すことは必須スキルになっていくでしょう。これはホワイトカラーだけでなく、ロボットが導入されるブルーカラーの方々にとっても同じです。そうなると、皆さんは「自分の上司」や「一つ上の役職」が担っているような仕事を、自分自身でこなしていくような働き方に変わっていくのです。
――そうしたなかで、マネジメント層や経営層の役割はどのように変わっていくと考えられますか。
シバタ:社員一人が数十から百のAIエージェントを部下に持つという構造になれば、組織の階層(レイヤー)はもっと減らせるはずです。また、マネジメント層は、いかにして意思決定に必要な質の高い情報を集められるかが勝負になります。
通常、会社が大きくなればなるほど、現場の出来事が経営層に伝わるまでに時間がかかります。報告の過程で大事な情報が抜け落ちてしまうこともあります。だからこそ、現場に足を運び、フォーマルなレポートには決して上がってこないような「生のデータ」を集めに行く。これこそが、これからのマネジメント層や経営層にとって最も価値のある時間の使い方だと思います。
マネジメント層や経営層が現場を知っているからこそ、その場で素早く決断を下せる。そして改善のサイクルが早まる。そうした機動力を持つ会社こそが、AI時代の勝者になると思います。
「課題先進国」だからこそある日本のAIチャンス
――最も注目しているAIテクノロジーやスタートアップを挙げるとすれば、どのようなものがありますか。
シバタ:勢いのあるAI企業はたくさんありますが、例えば本書でもご紹介したのはSierraです。Sierraは、カスタマーサポート業務における回答のプロセスを自動で行うAIエージェントを開発しています。
カスタマーサポートという非常に労働集約的な領域をすべて自動化するというミッションで動いており、米国では各業界の超大手企業がこぞって顧客になっています。日本では、国内で独自のサービスが育つのが先か、Sierraのような海外企業が進出してくるのが先か、という状況でしょうね。
――海外企業が日本でローカライズする際や、日本企業がサービスを考えていくうえでの障壁はどんなことでしょうか。
シバタ:AIには、言語の壁はほとんどありません。それよりも大きな障壁になるのは規制の違いです。例えば、ヘルスケアや金融(フィンテック)は、国によって法規制が大きく異なります。こうした分野は依然として障壁が大きいですね。あとは、商習慣の違いです。扱うものは同じでも、業界特有のビジネスの進め方やルールが日本と海外で大きく異なる場合、そこが導入のハードルになるだろうと思います。
HRについては、欧米の採用は完全にスキルベースのジョブ型です。よって、海外のHRテックをそのまま日本に持ってくるのは難しい。逆に言えば、そこは日本独自のサービスが勝ち残る可能性がある分野かもしれません。
――ご著書に「解決すべき課題がどの国よりも多いからこそ、日本には可能性がある」と書かれていたのが印象的でした。日本企業の可能性について、あらためてお伺いできますか。
シバタ:客観的に見ていると、日本では明らかに「みんなが少しずつ我慢する」だけでは解決できないほど人材が不足して困っている場面が顕在化していると感じます。我慢で済む範囲を超えてしまっている領域には、優先的にAIを導入するべきでしょう。
また、日本では、ビルのメンテナンスから高速道路の橋梁点検まで、あらゆるインフラの劣化が進んでいます。そこに従事する若い人手も足りません。そうしたインフラの検査や簡単なメンテナンス、清掃などをAIとロボットで行う。これらの課題は諸外国ではまだ顕在化していないかもしれませんが、日本ではまさに喫緊の課題になりつつあります。オフィスワーカーがいかに書類仕事を減らし、生産性を上げるかという視点ももちろん重要ですが、決してそれだけではないのです。こうした領域にこそ、AIを活用して日本の存在感を示してほしいですね。
自分が徹底的にハマれるものを探そう

――最後に、若い読者へ向けて、これからのAI時代を生き抜くためのメッセージをお願いします。
シバタ:最近、若い人には、「何でもいいから、自分が徹底的にハマれるものを見つけよう」と伝えています。スポーツでも料理でも、あるいはプラモデルづくりでも何でもいい。長期間やり続けても、自分が「楽しい」と思えるものを見つけることが、何より大切なのです。なぜかというと、AIは何かに「熱中」することはできないからです。
例えば、子供の頃から料理が大好きで、ずっと料理をしていれば最高にハッピーだ、という人がいたとします。そういう人は、AIでは生成できない発想をします。それは料理そのものの工夫かもしれないし、何か別のものと掛け算して新しい価値を生み出すことかもしれない。そうした「好き」から生まれる創造は、AIが苦手とする領域です。もちろん、その過程でAIを使い倒すのは大賛成ですが。
例えばPinterest(ピンタレスト)の創業者、ベン・シルバーマン氏は、昆虫を集めるのが子供の頃からの趣味だったそうです。大人になっても昆虫採集が趣味というのは、少し変わり者だと思われるかもしれません。でも、彼がそれをずっとやり続けていたからこそ、インターネット上で「綺麗な画像を集めて並べる」というアイデアに繋がり、アメリカで上場するような巨大なSNSをつくることができたわけです。
もし自分の子供が大きくなっても昆虫採集に夢中だとしても、親は否定しない方がいいでしょう。人と違っても、ハマれるものがあるというのは素晴らしいことです。共通テストで点数を取るとか、就職活動で有利になるとか、そういったことだけが世界のすべてだと思わないでほしい。それが、私から若い人への一番大きなメッセージです。
――本日は貴重なお話をありがとうございました。
『アフターAI 世界の一流には見えている生成AIの未来地図』
著者:シバタ ナオキ 発行日:2025/8/8 価格:2,420円 発行元:日経BP
シバタ ナオキ氏登壇!セミナー開催のお知らせ

近年、AI技術の進化は目覚ましく、多くのビジネスパーソンがその可能性やビジネスへの影響に注目しています。
シバタ氏は、これからのAIの主戦場は、人間と対話するチャットボットから、業務プロセスそのものを自律的に遂行する「AIエージェント」や、特定の業界に特化した「バーティカルAI」へと移行していると指摘します。
本セミナーでは、シリコンバレーの最新潮流と、そこから見えてくる「日本企業の勝ち筋」について伺います。 不確実な未来をただ悲観するのではなく、「技術の進化」と「自社の強み」を掛け合わせ、どのように新しい価値を生み出していくか。そのための未来地図を描くヒントを得る場にしていただければ幸いです。
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