グローバル企業の「リーダーの役割」と「リーダーを育む仕組み」とは?〜安渕聖司氏

本記事は、グロービス経営大学院 特別セミナー2018「グローバル企業の世界基準の仕事術~リーダーの役割とリーダーを育む仕組み~」の内容を書き起こしたものです。

安渕聖司氏私はこれまでいろいろなグローバル企業に勤めてきましたので、本日はその学びを皆さんにシェアしたいと思います。テーマの1つ目が「グローバル企業の経営の特徴」について。2つ目が「グローバル企業のリーダーの役割」。3つ目が「リーダー育成の方法」。4つ目が「変化をどうやってドライブしいくか」についてお話ししたいと思います。また、最後にまとめとして、リーダーに必要な10項目についてご説明したいと思います。

グローバル企業の特徴

グローバル企業にはどんな特徴があるのだろうと何年か考えてきたのですが、いくつかの特徴がある事に気が付きました。まず1つ目は、「人を中心とした経営をしている」ということです。私のリーダーとしての仕事も、優秀な人材に来てもらったり、優秀な人材を育てていったりすることです。人に関する最高責任者というのは、常にCEOが責任者です。従って、重要な採用は全てCEOが面接を行います。これはどういうことかというと、私は当時、日本のVisaの責任者として入社したわけですけれども、最終面接はグローバルのCEOなのです。サンフランシスコに行って、グローバルのCEOに会って、1時間程度いろいろな話をして、「この人だったらいいだろう」と認めさせないと承認が下りません。つまり、人をしっかり見たいという気持ちが非常に強いのです。従って、重要な研修にも必ずCEOが出てくる。そういった形で、人に関する最高責任者は、人事の担当ではなくて常にCEOなのです。

それから組織。例えばいろいろな日本の会社のWebサイトを見ると、組織図が出ています。その組織図を詳しく見ると、その会社がどう構成されているかがよく分かるわけです。ところが、グローバル企業のWebサイトを見ても、ほとんど組織図は出ていません。それは2つ理由があります。1つは、組織は人に合わせてどんどん変わってしまうからです。例えば、1つの部門のトップが辞めて、そこの部門に適任者がいなければ、部門を2つに分けてしまおうとか、いろいろな理由で頻繁に組織を人に合わせて変えています。そのため不動のものとして、組織図を提示するのは極めて難しいというのが1つ。

2つ目は、組織図そのものが戦略を示しているからです。他社にそれを見せることによって、例えば◯◯自動車本部とあったら、その自動車に注力していることが分かるわけです。分かってもいいと思えばいいのですけれども、やはり会社が注力している部門が組織を動かしているのも事実なので、そこは開示しない方が良いという考えがあります。

人の評価は「What」と「How」の2軸

人の評価は「What」と「How」の2軸でやっています。つまり実力主義です。実力主義というのは、Whatだけではありません。Whatというのはゴールに対する達成です。Howはどのように達成するか。例えば、社員として行動基準に沿って、どういう形で仕事をするのが好ましいかということが、2軸で評価されます。どんなにWhatが優れていてもHowが全く駄目であれば評価が下がってしまうのです。

また、優秀な人材は離職しても追跡しています。例えば今ですとLinkedInとかで繋がっていれば簡単にフォローできるので、何か新しいポジションが空いた時には社内だけではなくて「過去にいたこの優秀な人、今どこにいるのだっけ」ということでコンタクトをして、また戻ってきてもらうという事をやっています。

それから職務内容について言うと、よくジョブディスクリプション(職務記述書)に沿って仕事をしなくてはいけないとか、採用をしなくてはいけないという話を聞かれると思いますが、これも実は、人に合わせて変えています。この職務はもう少し大きくしたいから、こういうジョブディスクリプションでやってみようとか。全く同じジョブディスクリプションをずっと使っているということはないのです。そこも人に合わせて、今度欲しい人はどんな人かということに合わせて、適宜、変更修正したりしています。あとはそれに沿って、社内公募システムでどんどん人を動かしていくということをやっています。

「リーダーシップ」「専門性」「多様性」

グローバル企業のリーダーにどういった強みが必要かと言えば、一番大切なのは「リーダーシップ」と「専門性」です。この2つは縦横軸みたいな関係で必要とされます。最初に縦にリーダーシップを掘り下げてから横に専門性を広げていくパターンが多いです。グローバル企業ではいろいろな部門を経験するということはほとんどないのですが、ある程度のランクになると、社内公募で違った仕事をやりたいということも言えるようになってきますし、横に広げることができるのです。

また、リーダーには「多様性」が求められます。なぜ多様性が大事なのかというと、グローバル企業ではそれが競争力の源泉だと認識されているからです。どこのマーケットに行っても、優秀な人に来てほしい。だから自分の会社が多様性を否定することによって、働いてくれる人の数が減ってしまうということは避けたいのです。もう1つの多様性が大事な理由として、イノベーションが生まれやすいということです。多様性をしっかり受け入れることで、さまざまな意見、見方というものができ、そういったものをぶつけ合うことによって、新しいものができます。その点、私はインクルーシブネス(受容性)の方がますます重要になってくると思っています。ダイバーシティは作れるのです。いろいろな所から人に来てもらったり、会社を買ったりすればすぐにダイバーシティができるのですが、そのダイバーシティを生かすためには、それをいかにインクルーシブに受け入れることができるかということなのです。それは、全く違った考え方に対して、リーダーがどれくらいちゃんとそれを聞けるかということなのです。

例えば、社員が「こんなこと、できませんか?」と言った時、「それはできるはずがない」とか「そんなことは無理」とか言った瞬間に、イノベーションの芽が一つ死んでしまうわけです。そういうことをやっていると、結局は何か言っているだけで、実はダイバーシティを生かすつもりはないのだという会社に対する評価になって、なかなか斬新なアイデアが出てこないということになってきます。

フラットでカジュアルな企業文化

グローバル企業は、非常にフラットで、カジュアルな企業文化です。フラットというのは、強い上下関係がないということです。つまり年齢とか勤務年数とかは関係ありません。社内で誰をリーダーにするか、もちろんそういう話はしますが、その時に候補者A、B、Cといて、この人たちにどんな強みがあるかと分析はしますが、その時に年齢は全く参考にしません。私はGE時代、社員の年齢を知りませんでした。なぜ知らないのかというと、知る必要がないからです。この人が25歳で、この人は45歳だからって、それは何の意味もないのです。何ができる人なのか、具体的にどうできる人なのかということが重要であって、年齢とか勤務年数は全く関係ないのです。

このフラットな企業文化にも理由があって、強い上下関係があると、結果、インクルーシブネスが弱くなるのです。目上の人の言葉を、みんなが尊重しすぎることによって、違う意見が言いにくくなるのです。ダイバーシティを受け入れるためには、フラットな企業文化が必要なのです。
それから、グローバル企業は大抵、服装は365日ビジネスカジュアルです。御社のドレスコードは何ですかと聞かれたら、dress appropriately(その場所に適した服装)と答えて、そういった感じでやっています。

いろいろな意味で社員が主役です。要するにリーダーシップということは、別に仕事だけではないのです。例えば「こんなイベントを社員同士でやったら、一体感がより強くなるのではないか?」といったことを、社員がどんどん発案してきて、「そのためには幾らかかるから予算を立ててください」という話になります。従ってリーダーは、新しいアイデアや変化に常にオープンで、受け入れ度を高くしていかないと、会社のマネジメントはできないです。

それからリーダーは社会に目を向けることが大切です。私もいろいろなボランティアをやっていますが、アメリカ人コミュニティでは非常にボランティア活動が盛んです。これはキリスト教の教会が関係しているかもしれません。そういった形で社会との接点を仕事以外にも求めていく。例えば休暇を取って、ボランティアに行くとか、そういうことはグローバル企業では奨励されています。

リーダーの5つの役割

よく「代表取締役社長というタイトルがついている安渕さんって何をする人なのですか?」という質問を受けることがあります。これはおそらく皆さんの会社でも、社長に対して疑問を抱いたことがあるのではないでしょうか。「社長ってなんか偉そうにしているけど、あの人、毎日何しているのだろう」と。それはきちんと説明しなくてはいけないということで、私の場合は5つのことを非常に重要な自分のタスクとして位置付けています。

まず1つ目が「ビジネスの大きな方向性を決める」ということです。全体が見えるのはどうしても私のポジションだけなので、経営資源をマネージしながら、全体の方向性を決めていきます。

2つ目が、その方向性に対して、経営目標やそこに至るまでのプランというのが出てくるので、そのプランを「着実に実行していく」ということです。実行が伴っていないと、戦略だけいくら作っても駄目なのです。

3つ目が、「行動基準、倫理基準を社員に浸透させること」です。それを組織の隅々まで浸透させていくことが非常に重要なリーダーの仕事です。

4つ目が「ブランディング」です。これはメディアの取材など、自分の会社をいろいろな所に行ってお話しし、より多くの人に知っていただき、より良いインパクトを与えて、理解者を増やしていく。そういった意味でのブランディングです。

5つ目が、一番重要で「人材育成」です。優秀な人に来てもらって、その人を元気付けたりコーチングしたりしながら、成長を助けてリーダーになってもらう。この5つの仕事をやっています。

この5つを決めておくと何がいいのかというと、これに当てはまらないことはやらないでいいのです。「ここに今、頼まれ事がある。これはこの5つのことのどれに役立つのだろう」と考えて判断する。プロボノとかボランティアは別ですが、仕事の面ではこの5つを中心に自分が何をすべきかを組み立てていくことができるのです。

リーダーに必要なのは「鳥の目」と「虫の目」

次に、リーダーはどのように行動すべきか。船の船長であれば、まずどこに到着したいのか、目的地を決めないといけないわけです。つまり、方向性やゴールを明確に示していくことが必要です。次に、いつまでに到着したいのかという、計測可能な目標を決めます。計測可能な目標はデータとファクトが大事で、それをロジカルに議論する必要がありますが、議論をいつまでもしている時間はありません。どこかで不完全情報でも素早く意思決定をしていかなければならない。意思決定をしないことはリーダーにとっては最悪の罪なので、とにかくどんどん意思決定をして、次々に物事を起こしていく必要があります。

意思決定には2通りあって、「後戻りできる意思決定」と「後戻りできない意思決定」があります。例えば、これを決めると10年間はこのシステムで行かなければいけないとなると、少し慎重に考えないといけない。ところが、例え失敗しても3カ月で畳んで次をやればいいということであれば、失敗しても後戻りできるので、まずはやってみようと意思決定ができるのです。

また、リーダーには「鳥の目」や「虫の目」の視点も必要になります。例えば皆さんが森の管理人だとしましょう。通常、森はあまり近くだと見えないので、鳥になって森全体を見渡します。ところがある日、一本の木の色が変わっていることに気がつきます。それを見た瞬間に、これは単にその木だけの問題なのか、あるいは森全体に影響するようなことが起こっているのかどうかを見極めなくてはいけない。そうすると今度はそこにズームインしていって「虫の目」で見ていく必要があります。

会社でいえば、コンプライアンス違反が起こった時に、たまたま意識の低い人がいたのが原因なのか、それとも会社全体でそういった問題を起こさせるような原因が根底にあるのかどうかというのは、大きな違いです。近づいたり離れたりしながら「鳥の目」「虫の目」で見ながら実行していくのがとても大切なのです。

まず悪い情報を報告してもらう

大体、部下に業務報告のレポートを作成してもらうと「これはうまくいきました」「やりました」「できました」というのがほとんどになってしまいます。でも重要なのが「何がうまくいっていないのか」「何が問題なのか」「何が倉庫の後ろで燃えているのか」という事なのです。

だから、悪い情報を持ってきてくれた人に対して、最悪のパターンは「なんでこんな事になっているのだ」というリアクションです。「一体これは誰の責任だ?」と言っていると、二度と誰も報告に来てくれません。そうではなくて、会社としてはまず悪い情報を上げてもらう。そうするとそれに対して対応がすぐに取れるので、悪い情報を上げてくれた人に対して言うべきことは実は「ありがとう」なんです。早く分かったので早く対応が取れるということを社内で繰り返していくと、悪い情報がどんどん上がってくるのです。

ある時期、私もやったことがあります。この時期までに似たようなミスの事例があったら、一切それに対して怒ったりしないから、とりあえず出してといって全部出させるのです。すると、「こんなミスも実はありました」みたいな案件がポロポロと出てきました。そういったことを繰り返していくと、ミスそのものよりも、早く出さなかったことの方が罪であるというふうに社内の文化が変わってくる。そうすると非常に経営者としては実行がやりやすくなってくるのです。

最後にリーダーに必要なのは、常に自分のコンディションを意識する事です。ビジネスパーソンの皆さんも、自分のコンディションを意識されることがあると思います。私は1日に十数件の会議に出ますが、1つ1つの会議に出る社員たちはその会議のためだけに、たくさんの準備をしているわけです。そこで私が退屈そうだったり眠そうだったりしていると全く意味がないので、自分のコンディションをしっかり保って集中できるように、そういったことを心掛けています。あとは、オープンな姿勢で人の話をよく聞くこと。これは非常に難しいです。どうしても自分で何か言いたくなってしまうのですが、やはり人の話は最後までしっかり聞くということです。皆さんもやってみるとお分かりになると思いますが、3分間でもいいから人の話をじっくり聞いて、他に気をそらさないというトレーニングをしてみると、3分間でも結構難しいのです。1分経つと「この次の会議は何だっけ」とか考えてしまう自分がいたり「そろそろ昼かな」と思ってしまったり、意外に人の意識というのは、それやすいものです。なので、1つ1つに集中するトレーニングをして、人の話をじっくり最後まで聞くことを常に心掛けています。そして最後まで聞いてから「それで、あなたはどうするのが一番いいと思うの?」と判断を押し付けないことも大切です。

リーダーシップは全社員が持つべきもの

一般的に「リーダー」と言った瞬間に、ナンバーワンとか、社長、本部長とか、そういう組織の長という概念が浮かびがちなのですが、そうではないと思っています。私は「Everyone is a leader」ということを心掛けています。全社員が持つべきものがリーダーシップなのです。

つまり、リーダーシップとは、地位とか職位に付いてくるポジションパワーではないのです。そうではなくて、全くポジションがない人でも持つことができる影響力、巻き込む力、周りに何かを訴える力、みんなを動かす力、そういったパワーがリーダーシップだと思います。自分のやりたいことを周りに伝えていって、小さなグループを作ってやっているうちに、それが徐々に広がっていく、そういうイメージです。そういった力をみんなが持っていると、いろいろな問題に対して「これは何とかした方がいいのではないか」と誰かが声を上げることにつながります。やがてそれは、必ずしも今の自分の仕事ではないかもしれないけれども「会社にとって、これはやった方がいいよね」と動き出す。こういったリーダーシップのある会社の方が、全体としては良くなるというふうに思っています。

リーダー育成3つのポイント

一般的には「スキル」「経験」「専門性」「知識」「学習能力」でリーダーとかリーダーシップというのが定義されていることが多いと思います。ところが、こういったものを全部集めても、これだけではリーダーにはなれないと私は思っています。これらの中心に、高い「倫理観」とか「行動原則」などがしっかりないといけないと思います。そうしたものを身に付けた人がはじめてリーダーになれる。

では、どうやって具体的にリーダーを育てるのか。これには3つのポイントがあります。
1つ目のポイントは「チャレンジ&ストレッチ」です。できる人には、より難しくレベルの高い仕事を、あるいは、より高い目標にチャレンジしてもらう。一定のバーを設けて、そこを全員が飛べればいいのではなくて、高く飛べる人もいるはずです。その人の能力の伸び方に応じて、仕事の出し方も変えていく必要があります。従って、すごく早く成長して、早く組織を駆け上がっていく人もいるし、長年かけてじっくり作り込んでいく人もいます。そういった人に対して、いろいろな違った形でアサインメントを出していくということが大切なのです。

2つ目のポイントは「自分の頭で考えてもらう」ことです。リーダーは限られた情報から意思決定をしないといけない。いろいろな視点から物事を見ないといけない。自分の意見を明確に主張しないといけないのです。だから例えば、何かのプロジェクトを行う時、リーダー候補の部下には、ある一定の経営資源を渡して、あとはスケジュールと経営資源も管理してもらい、ある一定の目標まで任せてしまい、自分の頭で考えさせるのが非常に良いのです。いろいろな打席に立つ回数を増やしていくことで打率が上がってくるみたいな、そういった話です。

3つ目のポイントは「自分磨きを促す」ことです。自分が必ずしも得意ではないことをよく理解してもらうことが大切だと思います。結局スーパーマンみたいに、自分一人が全部、何でもできるということはあり得ません。仕事はチームでやっているものなので、チーム全体を強くしていかないといけない。そういったことを自覚させ、現状に満足しないで、どんどん変化、進化を続けてもらう。そのためにも常に知的好奇心を持って学び続けていくことがとても重要だと思います。グロービスに来られている方はそういう方ばかりだと思います。学び続けるというのは、長い長いジャーニーだと思います。こういった機会を与えていくことによって、リーダーという自覚が育まれていくのです。

変化をどうやってドライブしいくか

これだけ世の中が変わってくると、変化にどんどん対応していかなくてはいけません。不確実で非連続で複雑、VUCAの時代です。過去の成功が未来の成功につながらない。一体どのレバーを引けばどこに繋がるのかが、なかなか分からない。また、いわゆるAかBかという選択肢だったのが、AとBの間があったり、Aが途中でAダッシュに変わっていったりします。今はそういった世の中になっているということです。従って、その中で変化というのを見ていく。

この変化の例として、走り高跳びのオリンピック記録で説明したいと思います。最初の頃は「正面跳び」という跳び方です。バーに向かって正面から乗り越えるように跳んでいくわけです。高く跳べるわけがないですよね。従ってあまり記録は伸びていないです。1m90cmもいっていないです。
次に、バーを体に巻くように、お腹を回して跳ぶ「ベリーロール」という跳び方が誕生します。そうすると、バーを超える瞬間に、頭が一番上になくても越えられるということに気が付いたのです。これにより、だいぶ記録も伸び、2mを超え始めます。
ところが1968年、メキシコオリンピックで、ディック・フォスベリーという選手があみ出したのが、「背面跳び」という跳び方です。全世界に衛星中継されていた時代なので、皆が驚愕したわけです。なぜならば、そもそも走り方もおかしい。普通みんなはバーに向かって真っ直ぐに走っていくのに、突然「えっ!」という感じです。ところがこの背面跳びは素晴らしいイノベーションで、2m 45cmとかまで出るようになったのです。
ここで面白いポイントが、それぞれの跳び方で金メダルを取った選手は、次の新しい跳び方には全く対応できなかったのです。なぜならば、その時々の跳び方というのは、それぞれ違った体験なのです。筋肉の作り方も全然違います。昔の選手と比べて、今の背面跳びの選手の方がはるかにスリムでしなやかな筋肉という感じです。昔は100m走の選手みたいな体型だったのです。

では、これをビジネスに例えれば、今の皆さんのビジネスはどれなのでしょうか、ということです。ものすごく進化してきていて、うちの会社は背面跳びまで来ているから大丈夫だということなのか。でも、ひょっとしたらどこか分からないところで、全く新しいテクノロジーが生まれて、今一生懸命作っているものがまったく無価値化してしまう、そんな恐れもあるのです。「それは理論的には分かるけど、なかなかそこまではないでしょ」と思うかもしれませんが、それは現実にあるのです。

例えばこれは一つの事例として、2016年の記事に「線虫でがん早期発見」というニュースが出ました。線虫というのは糸のような細い虫で、がんの匂いを嗅ぎ分けることができます。がん細胞に独特の匂いがするということは、外科医はみんな知っていました。がんにかかっている人の尿と健常者の尿とを置いて、線虫を置くと、線虫はすべてがん細胞のほうの尿に集まっていくということが分かったのです。これを応用して、がんを早期発見ができないかということが、2016年の段階です。そして、2年後の2018年には、この実験をもとにバイオ関連スタートアップのHIROTSUバイオサイエンスという会社が設立され、東京に進出しています。そうすると、今までレントゲンとかCTとかを一生懸命撮っていたのは「あれは何だったのだろう」となります。われわれはどうしてもテクノロジーの話をしていると、ハイテクからしかイノベーションは来ないように思いますが、決してそうではなくて、自然界から来ることもあるのです。

だから自分たちがどこにいるかを常に意識して、広く高くアンテナを持って考えていないといけないです。意外なところから5年後には全く聞いたこともないコンペティターに、全く違った方法で、今やっている仕事が奪われることがあり得る世界。そういうことを常に考えていかなくてはいけないということです。

今、お話ししてきたようなことを、10項目にまとめてみます。

①高い倫理観を持ち、自ら示し実践する

例えば取引の時、営業担当者が「コンプライアンス的にはどう見てもグレーだが、儲かるので、この取引をしたい」と言ってきた時、高い倫理観を持って「いやいや、コンプライアンス的にグレーなことは、うちはやらないよね」といって止められるかどうかです。
ニュースペーパーテストというのがあります。何か私がやった時に、明日そのやったことが新聞に出て報道された時にどう思うか、どう思われるかということです。そういったことを考えながら、自ら実践していくということです。

②自信(Self confidence)+自覚(Self-awareness)

2つ目が「自信と自覚を持つ」ことです。過去に何を達成したのか。「自分はこれが得意なのだ」と自信を持って物事をやっていくことはとても大事です。しかしながら、自分がどういうふうに見られているのかを常に意識し、いろいろな形で自分のことを自覚することが大切です。
アシミュレーションというやり方があります。これは例えばマネジャーとか管理職になって、3~4カ月たった時に、部下だけに集まってもらって、そのマネジャーについて部下の意見を集約します。大体4つぐらい質問があって、例えば、次のような質問です。

1問目)安渕さんについて知っていることを挙げてください。
2問目)安渕さんについて知りたいことを挙げてください。
3問目)自分たちについて知ってほしいことを挙げてください。
4問目)安渕さんに変えてほしいこと、変えてほしくないことを言ってください。

3~4カ月、一緒に仕事をしていますから、大体お互いの雰囲気は分かっています。私はその質問の場にはいなくて、人事の人がファシリテートをして、大体2~3時間、自分の直属のチームが質問に答えます。やがて、私が呼び込まれて入っていくと、壁に人事の人の字でいろいろと書いてあるのです。誰が書いたのかが分からなくなっている。1問目の「安渕さんについて知っていること」という質問の回答に対しては、これは正しい、正しくないが実際はこうですという話をする。2問目3問目も同様に進めますが、問題は4問目です。「安渕さんに変えてほしいこと、変えてほしくないこと」です。そうすると、その中には「悪い情報を持っていくと、途中から顔が曇るのは止めて欲しい」「議論の途中にキレることがある」とか書いてある。それを受け止めた上で、自分の行動を変えていくしかないのです。何か言われた時にこういうふうにしようと、どんどん変えていって、それを習慣にしていく。そういうことをやっていくと、自分自身が変わる。だから、「自分の性格とか本質は変えられません」という人がいますが、性格とか本質を変えるのではなくて、行動を変えてくださいという話なのです。

③好奇心を持ち、幅広く学び続ける

スティーブ・ジョブズが、ブラブラしている時にカリグラフィーを勉強し、そのカリグラフィーが後々Macの綺麗なフォントになっていったというのは有名な話です。世の中、何が役に立つかは分からない。興味のあることは積極的に学んでみるということだと思います。自分の役に立つことだけを学ぼうとすると、今役に立つことだけを学ぶことになってしまいます。今役に立つことは、いつかは役に立たなくなることもあるので、幅広く、関係あるかないかは分からないけれども、このエリアに興味があったら広く学んでみる。そういったことを続けていくことによって、関係性も分かり、いろいろ蓄積してきます。そういった中から、ある時に気がつく瞬間が訪れる、ということだと思います。

④自分の頭で考えて不完全情報下でも意思決定をする

これは先ほども説明しましたが、非常に重要です。

⑤変化を恐れず、変化をドライブする

自らが変化を起こしていく。会社でもよくありますが、今までこういうふうにやっていましたが「それを変えてみましょう」と、自ら変えてみる。この会議はいつも1時間の定例でやっていますが、それを45分、30分に短縮してやってみましょう、と。最初はメンバーみんな「えー」とは言うのですが、会議というのは、短くすれば結構できるものです。1時間を45分にすると決めれば、大抵45分でできるようになります。実は効率が上がっていくということは、どんどん変化を起こしてみると化学反応が起こり、結果、効率も上がっていくものです。

⑥言行一致(Say/Do ratio)

これは私がアメリカ人に学んだ言葉なのですが「Say/Do ratio」というものがあります。言っていることとやっていることが一致しているかどうかの比率です。この比率を上げていきましょうという話です。
これの身近な例でいうと、例えば皆さんの中にはお子さんがいらっしゃる方がいるかもしれませんが、子どもにお父さんもしくはお母さんは「ちゃんと勉強しなさいよ」とよく言いますよね。でも、勉強しなさいよというお父さんお母さんが何をしているかというと、子どもを部屋に追いやって、自分はテレビを観ているわけです。子どもは何となく、絶対損していると思う。では、何をすればいいかというと、お父さんもしくはお母さんはテレビを消して「今日、私は勉強する日だ」と本を出して読み始めると。「何か今日、おやじ、ちょっと違うな」と子どもは思って驚くわけです。子どもは親の行動を見ていますから、お父さんがビールを飲んで野球を観て「おー」とか言って「勉強はどうなっとる?勉強しているのか?」といってもほとんど効き目がない。これは実は会社も全く同じです。自分がやらないことを人にどんどんやれと言っても、なかなかそういうふうに人は動かないのです。自分が何かやりましょうと言ったら、それは自分もしっかりやるということです。

⑦しっかり計ってリスクを取る

これもとても重要なことです。やはりリスクを取っていかないことには、なかなか成功に辿りつけません。「ノーペイン、ノーゲイン」という言葉もありますが、しっかり計ってリスクを取る。計らないで取ると痛い目に遭いますから。

⑧強いチームを作り、人の成長を助ける

自分より優れたところがある人を集めて、全体として強いチームをつくる。悪いやり方は、全員を平均化してしまうことです。弱みをみんな見つけて、それをみんなでここまで強くしましょうとやると、みんな同じぐらいの人になってしまうのです。そうすると、あまりチームとしては強くなりません。

⑨Passionをもってリードし、常に勝利に向かう(Never Give in)

リーダーのパッションはすごく大事です。リーダーは最初から負けモードで「しょうがないよね」みたいな、そういう話は絶対せず、常に勝利に向かっていくことが大切です。「Never Give in」というのは、負けた状態を認めないで、負けたというところから、さらに先に向かっていきましょうということです。「敗北に甘んじない」という意味です。ギブアップとはちょっと違う言葉です。

⑩感謝の心を忘れず「Giveする人」であり続ける

自分一人でできているわけではない。できたたことのほとんどは、自分の社員とかチームがやってくれたことです。社長とかリーダーが、自分がやったことで何か商売をしているわけではないので、常に周りに感謝する。その感謝をしっかり示していく。そして、常にGiveする人であり続ける、そういったことが非常に重要です。

以上の10項目が、私が今までいろいろ学んできた中で思う、リーダーに必要なエッセンスかなと思っています。

これからの時代を生き抜くためのヒント

最後に、これからの時代を生き抜くためのヒントについてお話したいと思います。1つは「ビフォアインターネット、アフターインターネット」です。もう世界はモバイルへの道に進んでいますから、インターネット以後ということで、世界の変化を取り入れるということです。極端に言うと、よほど古典とか名著は除いて、インターネット以前の経営書はあまり読んでもしょうがないです。人に関するものは、ある程度真実を得ているとは思いますが、ビジネスモデルの話とかは、90年ぐらいの本を読んでもほとんど役に立たないです。だからインターネット以後の時代に私たちは今、生きているということを常に自覚することです。

それから「多様性」「イノベーション」、それから「複数のネットワーク」がますます重要になります。リアルとデジタルの複数のネットワークを使っていくということです。そこで生きてくるのが「Giveする人」です。Giveする人であると、そのネットワークにきちんとつながれるようになってきます。

それから「自分の好きなこと」と「自分の得意なこと」について考える。自分が今やっていることは、得意なことなのか、好きなことなのか。この2つが一致していればいいのですが、必ずしも一致していない場合が多いと思います。では、その両方が一致できることは何だろうかということを考える。何か新しいことをやる時に、私は今、好きなことをやろうとしているのか、それとも得意なことをやろうとしているのか、あるいはその2つを一緒にしたものを自分は作ろうとしているのか。そういったことを常に意識しながら、新しい仕事に取り組むことをやっていかれるといいと思います。 

最後に、これは私の母校であるハーバードビジネススクールのウェブサイトに載っていますが、優れたリーダーになるための最初のステップは「Knowing」です。知ることです。今日はいろいろなお話をしましたけれども、リーダーはいろいろなことをまず知ること。こんなこともやらなくてはいけない、こんなことはどうしようかと考え続ける。

次のステップが「Doing」です。実際に自分がやってみて、アクションを起こしてみる。それを一生懸命やることで最終的には「Being」になるということです。自分が自発的にやっていくことで、リーダーシップというものが自然と身についていって、意識しないでも、ある程度ロールモデル的な行動が取れるようになる。これは簡単なことではありません。このKnowingからDoing、そしてBeing、この動きを頭の中に常に置いておくと、まだDoingをやっていないなとか、もっと自然にやれるようになるためには、繰り返していって自分のものにする必要があるなとか、わかってくるはずです。今日は皆さん、ありがとうございました。(会場拍手)

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