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DXが変える仕事や生活、知識情報社会の本質―未来予測(前編)

投稿日:2021/05/24更新日:2021/05/25

AIやDXが世の中を変えるといわれて久しいが、実際、私たちのビジネスや日常生活にどのような変化が起こっているのだろうか。最先端の技術や社会インフラに精通し、世界の変化を目の当たりにしてきた河瀬誠氏が、衝撃的な未来予測について話す。前編は、「モノ」から「知識」への価値観のシフトや、指数関数的に進化するデジタルによって何が起こるのかを読み解く。(全2回、前編。後編はこちら

*本記事は2020年1月18日に実施されたテクノベート勉強会『知識情報社会到了!今後10年で飛躍する産業と未来の組織・社会』の講演を記事化したものです。

工業化社会から知識情報社会へ

今日のテーマは、工業社会から知識社会への移行についてです。私が技術予測をするときは、16のテーマからアプローチしています。この16のテーマはどれも、ものすごい勢いで変化していますが、これからどんな産業が伸びてきて、社会がどうなっていくのかについて、考えていきたいと思います。

たった4年でインフラそのものが切り替わる

約250年前に、産業革命とともに工業社会がやってきました。当時は石炭・鉄鋼・鉄道でしたが、やがて石油・電気・自動車の時代になります。ここで最も価値があったのは、モノづくりであり、工業技術と資源が競争力の源泉でした。ところが知識社会では、モノづくりではなく、知識をつくるほうに価値がシフトします。近年、株の時価総額が最も高いGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)や中国のBAT(Baidu、Alibaba、Tencent)は、モノづくりをしているのではなく、知識をつくっているのです。

日本は工業社会の枠組みで大成功しました。平成初頭には、世界の株の時価総額上位20位中、14社くらいを日本企業が占めていたものです。それが平成の間に半分以上は知識社会に移ってしまったのです。

未来のトレンドの予測は難しい。ただし、技術の進化、人口動態といった大きなトレンドから、政治・経済・社会の変化を予測することはできます。100年先のことは分かりませんが、10年先、20年先は読むことができるのです。

1900年と1913年のニューヨークの復活祭を同じ場所から写した写真を見ると、馬車から自動車への転換がよくわかります。この頃の自動車はプライベートジェットと同じで、普通の人は手が出ませんでしたが、フォードが今の価格水準で150万円程度の自動車を発売し、急速に一般大衆にも広がったのです。フォードが生産を本格化したのは1909年ですから、実質的には4年間で変わってしまったことになります。

100年後の2009年にiPhoneが日本市場に本格投入され、2013年にパナソニックとNECが携帯電話事業をやめました。4年の間にガラケーという巨大産業がなくなったのです。4年間あればインフラはガラッと変わってしまう。このような変化がこれからも起こっていくでしょう。

「DX」によって、SFの世界が当たり前の現実になる

今は、スマホもYouTubeも当たり前に使っていますが、ちょっと前までは、パソコンもインターネットに繋がっていませんでしたし、Eメールを使っている人も少なかった。さらにその前は「コンピューターが1人1台なんてウソだろう」という話で、デジタルなんかない世界です。

その頃から考えると、今の生活の有り様は、非常識な妄想・空想のSFの世界に見えるでしょう。そして、この先もSFの実現は続くわけです。非常識だと考えられていたことが実現していくと考えていいでしょう。

最近「DX」という言葉をよく耳にしますが、多くの人はDXとITを混同しています。電話からEメールへの転換はIT化によるものといえますが、DXはこれとは全然違います。たとえば、スマホで注文した商品が、そのままロボットでつくられて無人宅配で届く。そういった既存の業務プロセスそのものの変化、いやそれ以上に消滅を意味するのです。

業務ごと、事業部ごと、下手をすると会社ごと消滅させる可能性があるわけです。ガラケーからiPhoneへという話をしましたが、iPhoneはハードウェアが優れているのと同時に、キャリア間の縛りを外してしまった。つまり産業構造を変えてしまったのです。

デジタルの指数関数的な進化がものごとを変える

デジタルの進化は指数関数的に進みます。デジタルは5年で10倍から30倍の性能になるといわれています。10年経つと100倍から1000倍。20年では1万倍から100万倍です。1から10というのは大した進化ではありませんが、100から1万への進化は圧倒的です。

1から10のときは誰も気づきませんが、たとえば、Netflixが巨大な世界最大のテレビ局になってしまったように、10倍、100倍になると、いきなりメインストリームに踊り出るような現象が起こります。これがデジタルの特徴です。

これまでデジタル化が顕著だった情報・通信とメディアの分野は、世界のGDPに占める割合は約1割でした。今後は、残りの9割を占める流通・小売、交通・移動、製造業、医療・生命、社会・国家についても、大きく変わり始めるでしょう。

「AIが仕事を奪う」のは当たり前

ロボットが東大合格をめざすプロジェクト「東ロボくん」も象徴的です。学習量が半端ないのです。5、6年前の時点ですでに偏差値57.6ですから、関東ならMARCH、関西なら関関同立に入れるレベルです。

公益的なAI研究団体の「OpenAI」がつくった「GPT-3」は、これまでは人間の能力に依存していた小論文の作成やプログラミングといった自然言語処理能力を持っています。GPT-3が書いた論文を読んでも全然違和感がありません。昨年、出てきた途端に話題になりましたが、5年後はさらにすごいことになっているでしょう。

こうした動きからもわかるように、「AIが仕事を破壊する」のは当たり前です。これまでも、仕事はどんどんなくなっていきました。私の好きな映画『武士の家計簿』では、藩の財政の立て直しのために、お侍さんたちがそろばんを弾いていますが、1975年、80年になってもそろばんは使われていました。なぜかというと電卓がなかったからです。今はそろばんを使う仕事はないと思います。エクセルの計算を全部そろばんでやりなさいと言われたらどうでしょうか。クリック一つの作業に3日はかかるかもしれません。

農業も、昔は日本人の7割が従事していましたが、今は専業の大規模米作農家は2万戸程度です。6000万人の仕事がなくなったのです。

他にもいろいろなくなります。例えば弁護士業務については、テレビに出てくるような華麗な法廷弁護士はなくなりませんが、社内にいて契約書のチェックをするような仕事はAIに置き換えられます。新聞も、一面に載るような記事はAIではまだ書けませんが、決算情報、気象情報といった定期的な記事ならば、ほぼ自動で書けます。実際、アメリカは約9割はAIが書いているといわれています。

DXで生活そのものがデジタル化

仕事だけではなく、生活も大きく変わります。中国のアリペイをご存じだと思いますが、電子マネーをはじめ生活の全てがスマホひとつで済んでしまう。3年前は、上海から東京やニューヨークへ転勤というと、中国人は大喜びでした。ところが、今は「こんな便利なところから、どうして原始時代に戻らなくてはいけないの?」と思う人が増えているとのことです。この3年間の変化は圧倒的ということです。

アフターデジタルというDXは生活自体のデジタル化を意味します。個人の嗜好や過去の購入履歴を分かったうえで最適な提案をしてくれて、おまけに他人の調整までしてくれる。OMO(オンラインとオフラインの融合:Online Merges with Offline)、フリクションレス(顧客が消費をする際に感じるあらゆる手間やストレス取り除く)で動く世界です。

さらに、コロナ禍がすべて自宅にいて完結するシャットインエコノミー(閉じこもりの経済)を加速させています。そうなると物流も「人が動いて行く」のではなく、「モノが動いて来る」といった転換が起こります。移動は、毎日の出勤のような移動ではなく、貴重な「楽しみ」に変わります。

電子マネーを中心としたサービスは広がると、顧客の多面的なビッグデータを入手・活用して、新しい投資、保険、融資といった金融サービスが可能になります。

これまで中国では、たとえば初対面で商品を買うと粗悪品をつかまされる可能性があるから、店頭で梱包を開いて現品を検証する必要があったのですが、いまはそんな話はなくなりました。粗悪品を送ると、信用情報の点数が下がるから誰もやらないのです。中国4000年来の「相手を信用しない文化」は、5年間で変わりつつあるのです。

「モノづくり」では付加価値を生み出せない時代に

工業社会ではモノづくりが大変でした。たとえば車のエンジンやテレビのディスプレイなどは、仕組みはわかっていても、精密な加工ができなければ製品にはなりませんでした。良いものをつくることは大変で、良いものをつくることができれば、黙っていても売れたのです。

ところがデジタルによって製造がすごく簡単になる。たとえば、3Dプリンタでジェットエンジンやロケットエンジンのようなハイテク製品がつくれるようになりました。すると、ものづくりの付加価値は下がり、研究開発やマーケティングといった知識労働のほうに価値が移っていくのです。

たとえば、テスラのカリフォルニア工場は、元々トヨタとGMでつくったジョイントベンチャーの工場でしたが、その後、テスラの工場になりました。トヨタのモノづくりの源泉は、訓練されたトヨタ生産方式を身につけた社員でしたが、テスラが買い取ってからは、ほぼ全部ロボットになっています。テスラは、「デジタルツイン」というシミュレーション技術によるロボットの配置を行い、生産を始めています。

また、同じような工場を1年未満で上海に「デジタル・コピー」をしてフル稼働させています。ロボットは今はすごく安くなっているので、中国メーカーはコスト面で対抗できていないそうです。いま中国では、50万円程度の小さなEV車が売れていますが、やや高い価格帯のEV車はテスラの一人勝ちです。その秘訣は、職人からソフトウエアへと価値がシフトし、工場のデジタル・コピーが可能になったからです。

エネルギーはタダ同然に

世の中を変えていく重要な要素がエネルギーですが、これも10年前と現在とでは全く別世界になっています。10年前は太陽光や風力などの自然エネルギーは高価でしたが、今は太陽光発電の価格は1/10になりました。さらにまだまだ下がっています。10年前の福島の原発事故の後、自然エネルギーが注目されましたが、今はアメリカでも中国でも自然エネルギーが伸びているのです。

中国にもアメリカにも、広大な砂漠がありますが、太陽光発電により、砂漠がエネルギー工場に変わったのです。ドイツも脱石炭を掲げて、10年後には太陽光発電にシフトすると言い始めています。

もう一つ、リチウムイオン電池も30年前に比べると約1/1000の価格になりましたが、この8年ぐらいの間にさらに85%も値段が下がっているのです。もちろん、資源あっての話ですが、今テスラが開発しているのはコバルトフリーの電池です。発電も蓄電も今から圧倒的に安くなると、実質エネルギーがタダ同然になることを意味します。

EV車が自動車のDXを加速させる

次は、話題の自動運転技術についてです。自動運転は人がプログラミングするのではなく、AIが自分で学習します。Googleの実地走行距離は、2019年は年間1000万キロに及んでいます。地球1周が4万キロなので、250周もの距離です。そして、事故を起こすのは20万キロに一回程度、計算上は地球を5周して初めて事故を起こすというレベルです。ネバダ州フェニックスでは、自動運転タクシーを毎日約400人が利用しています。

法律的に無人運転はできませんが、2020年末に自動運転のベータ版を公開して、自動運転のソフトをダウンロードできるようになりました。中国の百度(バイドゥ)も自動運転のプロジェクトを始めています。

バッテリー値段の下落で、ガソリン車はEVに入れ替わるでしょう。3年前には2030年頃からと言われていましたが、昨年は2025年あたりにシフトすると予想されています。ダイムラーやコンチネンタルは、すでにガソリンエンジンの開発をやめています。

自動運転を含めて小さいEV車がチョロチョロと走り回る、シェアリングエコノミーの社会になり、自動車産業もガラッと変わるのです。

現在の自動車産業はハードウェア頼みなので、ユーザーは自分が運転する車を買うためにディーラーに行きます。今後は、顧客(乗客)と接する位置にサービス提供者が来るという「MaaS」というサービスへと移行します。飛行機に乗るとき、航空会社をフルサービスキャリアにするか、LCCにするかは気にしますけれども、乗る機体がボーイングなのかエアバスなのかは、あまり気にしませんよね。自動車産業もこれと同じようになるのです。

またEV車は、エンジンを製造するのに比べれば容易につくれます。多くの会社が参入してくるでしょう。かつて、大型汎用機がPCになったときに、いろいろな会社が参入してきたのと同じ状況です。

医療分野のAI活用とDXの進展

医療分野のAI活用とDXも進みます。Apple Watchも活動量計がついていたり心電図が取れたりしますが、血糖値や摂取カロリー、脈拍を常にモニターしてビッグデータとして蓄積し、それに基づいた医療を提供するように発展していくでしょう。

知識量はAIが人に勝ります。たとえば、イギリス政府が後押ししているスマホアプリBabylon Health(バビロンヘルス)は、患者であるユーザーがスマホと対話をしていくと、考えられる病名をあぶりだし、必要な場合は医師とのビデオチャットにつなぐというシステムです。患者は診察のためだけに病院に行く必要がなくなりますし、医者も問診が不要になり在宅診断も可能になります。中国でも自動の無人診療所で血圧を測ったり薬を処方したりといったサービスが出ていていますし、GAFAも当然ながら参入して社会実装を行っています。

また、AIは画像診断が得意なので、この分野ではすでに専門を凌駕しています。

知識社会で欲求は「自己実現」へ

農業社会では、食欲と最低限の生活が得られればOKでしたが、工業社会になると、地位、お金、ブランドといった物欲に走るようになります。ところが、今の若い世代の人たちは、モノが溢れているので、あまり物欲はありません。そうなってくると、マズローの欲求段階の5段階目と、その次の新しく出る6段階目、つまり自分自身の可能性を追求したいという欲求が出てきます。

後編に続く

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