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飛躍する産業と組織、中国で変わる地政学―未来予測(後編)

投稿日:2021/05/25

最先端の技術や社会インフラに精通し、世界70カ国の変化を目の当たりにしてきた河瀬誠氏が語る、衝撃的な未来予測の後編。爆速で成長する中国の動向や知識情報社会の進展から、近未来を占う(全2回の後編。前編はこちら)。

*本記事は2020年1月18日に実施されたテクノベート勉強会『知識情報社会到了!今後10年で飛躍する産業と未来の組織・社会』の講演を記事化したものです。

シェア・エコノミーであらゆる資産を共有

山口周さんの著書『ニュータイプの時代』によると、工業社会の価値軸は、高機能でお得、つまり日本製品がとても強いのですが、知識社会の価値軸は、自分にとっての意味に移っていきます。なので究極の無駄ともいえるイタリア製品の価格が高いままなのです。

モノをつくることが難しい時代は、モノを持つことに価値がありました。ところがモノが溢れてくると、必要に応じて使えればいいというシェア・エコノミーの考え方になります。シェア・エコノミーの王者は、たとえばメルカリとヤフオクです。

今までITが使えなかったので、膨大なデマンドとサプライとをマッチングさせることはできませんでした。今では超ニッチな趣味を持っている人たちが100人集まれば、ITによってサプライとデマンドをマッチングさせ、ビジネスができるようになる。今までは無理でしたが、ITの力で実現しています。

モノ以外にもあらゆる資産が共有できるようになります。もっとも大切な資産といえる時間、スキル・知識・創造力の共有によって仕事もどんどん変わってくる。昔はできる人に希少価値があったので企業は囲い込み、固定的な組織・制度ができていましたが、今やあらゆる資源がダイナミックに再結合する世界へと変わってくのです。

知識社会で成長する「自己実現」産業とSDGsによる「自己超越」産業

知識社会では、健康、スポーツやアート、生涯学習といった「自己実現産業」が伸びます。特に「人生100年時代」になると、良い大学を出て良い職業に就くところまではよくても、その後の80年は全く保証されません。学習を継続しなくてはならない。そういう意味からも自己実現産業は、まだまだこれから伸びると予想されます。

SDGsこそ自己超越産業で、これから伸びる産業のメインストリームです。国連は、昔は「援助してください」という言い方をしましたが、今は「ここで社会解決をするビジネスをして、稼いでください」というように転換しました。会社を経営するとは、社会課題の解決のためのものです。ビジネスで稼いで、問題を解決してくれたら、自分も相手も、お互いに利益供与があるというわけです。

これからは水、農業、食料が大問題になりますから、SDGsで日本企業が大きな貢献ができます。日本企業の技術と新たなニーズを組み合わせれば、いろいろなことができるはずです。

知識情報社会の組織の在り方とは?

旧来の資本主義は機能しなくなり、格差が拡大する

次は、知識情報社会の組織のあり方についてです。資本主義とは、成長する市場や産業に投資してリターンを得るシステムです。これまでは新大陸や中国など、新興国や新しいフロンティアがたくさんありましたが、そこでは設備投資によってリターンを得ることができました。

金利は1990年代から徐々に下がり、2020年になると、ほとんどゼロになりました。つまり、お金の価値がどんどんなくなっている状況です。その反面、格差が増大しています。高度成長の時代は、会社も、従業員も、投資した人も豊かになっていきますが、現在は投資家しか儲からない。そうなってくると、富める1%と残りの99%というふうに、圧倒的に格差が生じるのです。

知識社会では教育が大事になりますが、教育を受けられない人は無用階級になるしかありません。今までは機械ができない仕事を人が担いましたが、AIが進化すると、人間にしかできない仕事がどんどん少なくなります。これまでは普通に稼げた製造業の職人や事務員の仕事が消滅するのです。ベーシックインカムも現実的な施策になるかもしれません。

中国は爆速で変化している

これから新しい社会システムをつくろうとしている国が中国です。現在、爆速で成長しています。中国は、1978年の時点では貧しい国でした。私が大学を卒業したのは1986年ですが、この頃、中国に行くと車は1台も走っていません。高層ビルも皆無でした。今は全然違う世界で、まさに明治維新と高度成長が一気に来たという感じです。

上海の浦東なんて、昔は砂浜でした。深圳(シンセン)も、田んぼしかなく主要産業はザリガニの養殖でしたが、現在は人口2,500万人の都市になりました。まさに、超高度成長です。

中国は建国から、毛沢東、鄧小平から江沢民を経て胡錦濤と続きますが、胡錦濤までは改革開放・民主化路線ですごく分かりやすかった。要は日本が辿った道と同だったわけですが、今の習近平政権は正直、よく分かりません。なぜかというと、全く新しいものを目指しているからです。彼らの5カ年計画は「一帯一路(いったいいちろ)」(詳細は後述)とイノベーションです。また、社会信用体系を構築して新たな文明社会を猛スピードで構築中です。中国というのは、我々の世代以上からすると「官僚主義」と思いがちですが、国を動かしているのはアメリカ留学組で、競争社会を生き抜いた優秀な人たちです。

知識情報社会のKPIは教育

製造業の社会では、生産量がひとつのKPIになります。しかし、知識情報社会では教育がKPIになります。アウトプットでいうと、理系の博士数を見るのが一番早いと思います。日本は2000年から増えておらず、逆に減っています。アメリカはやはり大きく、ドーンと伸びているのが中国です。

ユニコーンというのは、数年以内に10億ドル規模の急激な成長を遂げた知識情報社会系の企業ですけれども、ほとんどが中国とアメリカです。インドも5年ぐらいたつとユニコーン数が伸びると思われます。20年前は東大がアジアのナンバーワンでしたが、今は北京大学のほうが上です。

欧州・アフリカにまで通じる「一帯一路」で変わる地政学

中国の「一帯一路」は、日本ではあまり評判が良くありませんし、うまくいっていないと思われていますが、そんなことはありません。ヨーロッパと中国は、すでに一緒になっていると思ったほうがいいでしょう。中国・西安からロンドンまで一気通貫しているのです。だから地政学は一気に変化しています。中国とドイツも蜜月関係です。フォルクスワーゲンの電気自動車を中国でつくっているし、中国の電気自動車もドイツのモジュールを使っています。こういうことは日本から見ているとよく分からないのです。

一帯一路はアフリカにまで通っています。アフリカ諸国にとって、ヨーロッパは植民地支配をしてきた国々ですが、中国は豊かにしてくれるのです。支配の基本は、資源や奴隷ではなく、インフラを建設して経済圏を形成することです。それによって、アフリカはものすごく成長していますが、アフリカは中国の実質的な支配下に入りつつある、と言って過言ではないかもしれません。

「他人を信用できない国」から、「相手を信用できる国」へ

中国政府の社会信用体系(デジタル・マオイズム)は、税金の未納や破産、犯罪情報などの公的情報を一元管理するシステムです。信用情報に近いかもしれませんが、全て連結しているので、税金を払っていないと新幹線や飛行機には乗れません。監視カメラは4億台ありますが、まだ増えています。これによって顔認証をして、誰がどこにいるかはすぐにわかるようになるのです。

すると、軽犯罪がなくなります。車も一台一台認証していますから、スピード違反もなくなります。中国では、以前は当たり前だった駐車違反も、今はほとんどありません。タクシーの中で忘れ物をしても、ネコババしたら分かってしまうので、確実に戻ってきます。

面白いのが、政府の情報も開示されていることです。強権なんだけれども、意外と開かれているのです。先ほど言った通り、他人不信がベースだった中国文明が大変容したのです。お互いを「信用できない」文明が、とりあえず「信用できる」となったのです。中国の人民は大歓迎ですよ。

中国はコロナ対策の「戦勝国」

コロナ対策で負けている国は毎日5,000人が亡くなっているアメリカです。中国は勝っています。発生源となった国ですし、初動管理には失敗しましたが、現在はほぼ死者ゼロです。

コロナ発祥の地・武漢では、プールサイドで水着になってパーティをしています。なぜこんなことができるかというと、管理が成功したからです。上海や北京の繁華街も人が戻って、誰もマスクをしていません。

アリペイが発行するQRコードは、グリーンだったらOKで、どこに行ってもいいし、マスクもしなくていい。しかし、赤だと一歩も外に出られない。黄色は、「可能性があるから出るな」です。地下鉄は車両ごとに、誰がどこに行くかが見えるようになっています。そこまでやっているという話です。

もし発生したら都市ごと移動を封鎖して、ホテルを予約した人にはキャンセルの通知が即時に来るそうです。予定変更も、アプリも全部コントロールされています。ここまでデジタルで動かしているのです。

もう一つの超大国インドもデジタル・プラットフォームを構築中

インドのモディ政権も、デジタル・プラットフォームを構築中です。インドは民主主義国なので中国と違って動かしづらいのですが、2016年以降、銀行振り込みも含めてお札が使えなくなっています。なぜかというと、現金というのは、不正の温床になるからです。500ルピー以上の紙幣を全廃する。日本だと、千円札以上が消えたという話です。

もう一つ必要なのはIDです。インドはもともと戸籍がないので、把握できない人民が2億人いるといわれていました。そこでIDを付与しました。貧困層向けの補助金支給などはIDがないと受け取れません。今まで貧困層向けに政府が手当をしても、地元の役人のところに入ってしまっていたのですが、目の虹彩の生体認証によるマイナンバー制度を始め、世界最大の生体認証システムができているのです。

中国やインドは、西欧的な個人主義をベースにした文明とは別の方向を探索しているといえます。

世の中は「小国寡民」へ向かう?

2019年に世界的ベストセラーになった『ホモ・デウス』という本があります。本書には、認知革命、農業革命、産業革命に続き、現在進行中なのが「機械の知能」の革命、まさに知識情報社会のことですが、それが起こっていると書いてあります。「チンパンジーの集落」が未来の社会では「高機能な蟻塚」になるというふうに表現しています。

我々の脳はネアンダルタール人に比べて小さいのですが、その理由は、ネアンデルタール人はサバイバルするために、弓矢の作り方や動物の捌き方などをすべて一人でやるために覚えていないといけなかったので、ものすごい知能が必要だったからです。ですが、分業が進んだホモ・サピエンスの社会では、そんなに頭を使わなくても生きていけるので、脳は小さくなりました。

また、著者のユヴァル・ノア・ハラリさんが言うとおり、コロナ禍によって監視社会は一気に進みました。「全体主義的監視か市民の権利か」というテーマは、今後、世界的規模で議論されていくと思います。

中国の古代思想家の老子は国家の理想像として「小国寡民」を唱えましたが、東洋は西洋的な個人主義よりもそちらの方向に進むことを選んでいくかも知れません。

今起きつつある転換期

世界の転換点は、20年〜30年ごとに訪れていると思います。1945年の第二次世界大戦終了後の20年間は米ソの対立、1965年からはパックス・アメリカーナと日独の高度成長が始まった。産業としても、1945年から石油と自動車の事業が本格的に始まりましたが、1965年から半導体の時代、エレクトロニクスの時代が始まった。日本はここから爆速成長しました。

日本は1965年から95年までは世界で最も活力のある成長国でした。

1989年にベルリンの壁が壊れて冷戦が終了し1995年になるとネットの時代が始まりました。日本はここから人口減少と経済の停滞が始まりましたが、中国は世界の工場となり大躍進を始めます。2025年になると、中国は超大国化するでしょう。

この頃には、車の電動化、自動化も終わっています。エネルギーは実質的に無料になります。3Dプリンタやロボットの普及でモノづくりが簡単になり製造業の価値は低下します。

こうした未来が変化予測されるなか、日本も従来と同じように頑張っても効果ありません。新しい世界に対応して、変化を先取りして、産業構造を変え、リバイブしていきましょう。

というのが今日のお話でした。

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