テーマと出演者
テーマ:「『日本を良くする』G1への質問・要望なんでも受けるよ!」
発言のポイント
G1をはじめたのは2009年2月になる。僕が2000年代前半からダボス会議へ参加するようになって見えてきた風景は、‘Japan Passing’さらには‘Japan Nothing’。世界における日本の存在感低下だった。そこで日本を良くしたいと考えた僕は3つのことを考えた。1つ目は信頼できる親しい政治家を応援すること。2つ目は正しいと思うことを社会に発信していくこと。そして3つ目は、僕自身が英語力を高め、ダボス会議やフォーブスの会合等、世界のありとあらゆるカンファレンスに登壇し、日本の存在感を高めるということだった。
さらに考えついたのがダボス会議の日本版を開催するということだった。それでダボス会議主宰のクラウス・シュワブに話をしたら、いろいろ理由があって日本ではできないということだったが、一方で「お前が日本で開催すればいいじゃないか」とも言われた。それでつくってみようと考えたのがG1だ。
G1のコンセプトは、まずはマルチステークホルダー。起業家、学者、政治家、官僚、スポーツ選手、社会起業家、文化人等々、多様なマルチステークホルダーを集めようと考えた。2つ目は、年齢が離れていると遠慮してしまうところがあるので、年齢が近い人たちを集めることにした。そんな風にして僕が46歳のときにG1サミットをスタートさせたときの主要メンバーが、ノーベル賞受賞前の山中伸弥さんや世耕弘成さんらになる。
そのうえで、G1の理念として決めたことが3つある。1つ目は「批判よりも提案を」。無責任な批判だけで終わらず、常に提案を行う。2つ目は「思想から行動へ」。提案したことは実際の行動にしていこう、と。そして3つ目は「リーダーとしての自覚を醸成する」だ。多くの人は「政治家が〇〇をやってくれない」といった批判を言うけれど、その政治家を動かすのは僕ら。また、政治家でなくともリーダーとして議論を行い社会に影響をおよぼすことはできるし、政治家を応援していくことで方向性を変えることもできる。それによって僕らの世代が日本を良くしていくことにしっかりコミットしていこうと考えた。
そのなかで、もう1つ、どういった行動をすれば日本が良くなるのかという明確なビジョンも必要であると考えた。それで2011年7月にスタートさせたのが「100の行動」プロジェクトだ。100の「提案」でなく「行動」によって日本を良くしてこう、と。1つひとつの行動にチェックリストを設けたうえで100の行動を形にしていった。それで4年後の2015年に「100の行動」をWebで公開したほか、2016年には書籍の形でもパッケージ化して、現在に至るまで、徹底的にオープンにしたうえで日本を良くしていくべく議論と行動を進めている。
Q) 日本を良くするために今大切だと考えている課題は?堀) 改革が進まないのは抵抗勢力が大きな領域だ。たとえば今は社会保障給付費が医療や年金で年間120兆円に膨れ上がり、これが高齢化に伴って2040年には70兆円増えるとの試算もある。従って、年金の支給開始年齢引き上げや医療費の3割負担といった転換が不可欠だと考えるが、そこで高齢者の方々の反発がある。政治家の応援演説に集まるのはほとんどが高齢の方々。そこで政治家が「高齢者向けの社会保障を減らします」と言ったら選挙に勝てない。だからこそ我々がしっかり声をあげて政治家を応援し、世論を形成する努力をしないとけない。
Q) 経営者や政治家でない人々をどのように改革に巻き込んでいくべきか堀) G1は強固な信頼関係を持つ仲間がコアメンバーになったうえで、プロジェクトごとにミッシングピースとなるような人々を仲間に加えていくイメージだ。たとえば水産の研究部会では、まず20人弱のメンバーが集まって「どういった法律をつくるべきか」等の議論を進めた。その後、最終的に法律ができるぐらいのタイミングで、漁業関係者含め影響を受ける人々を集めて「G1海洋環境・水産フォーラム」を開催している。こちらには北海道から九州まで全国からおよそ200人が集まった。こうした取り組みを可能な限りオープンに進めていく。
Q) 地方再生についてどのように考えていけば良いか堀) 2015年から「水戸ど真ん中再生プロジェクト」に取り組んでいるが、やはり簡単ではない。特に地方では優秀な人材が流出しているケースが多い。だから相当なエネルギーを使うし、明確なビジョンを持つ必要がある。水戸はそこでメディアづくりや路面電車の復活を掲げている。こういうときはアーリーサクセスが大事になるし、4つか5つのプロジェクトを同時多発的に進めていくのが良いと思う。また、官にも頼らず、税金も使わない。そこまで考えると、ある程度は自分が力を培ってから取り組むのが良いと思うし、地元への貢献を掲げて所属する会社を説得するのも1つの方法かもしれない。
Q) 「日本は政治家が三流で官僚が一流」と言われていたが、そうした構図についてどう思うか堀) 政治家が三流とは見ていない。すべての人が優秀という前提で、政治家でも官僚でも経済人でも、優秀でやる気があり、マインドを同じくする人とともに改革を進めたい。その意味では企業のプロジェクトチームと似ている。チーム内で役割分担をして進めていく。いずれにせよ、現状を嘆いても仕方がないし、明るくポジティブに行動を起こすことが大切だと思う。
Q) 道州制で人々の生活はどう変化してくと考えているか堀) 非常にハードルが高いけれど、「地方はどうあるべきか」と考えれば考えるほど、道州制が一番良いという考えになる。どうしても今は東京一極集中が是正できないので。だから各地域で核となる都市を置いたうえで、小さくなっている県を州にしたうえで、1つの市町村を20~30万人規模にしていく。そうすると、かつての三百余藩のようになっていくのではないかと思う。
Q) これまでのG1@Clubhouseで特に印象に残っている回は?堀) すぐ思いつくのは女性活躍推進の回。森会長の発言を受けてキャシー松井さんと議論した。そこで参加していた為末大さんにキャシーが言ったのは、「黙っているのは賛同と一緒ですよ」ということ。その翌日に為末さんも行動を起こしたし、そのさらに翌日に森会長は辞められた。あと、安全保障や地政学に関する議論も関心が高い分野だったので、神保謙さんと三浦瑠麗さんとお話ができたのは良かった。また、落合陽一さんと安宅和人さんをお招きして、2050年の未来についてSF的仮説を立てて議論した回も面白かったし、茂木健一郎さんとの議論も楽しかった。このほか、音声メディア、動画メディア、テキストメディア等、メディアの議論ができたことも、考え方を整理できて良かったと思う。
Q) 世の中の大多数を占める一般の人にはどんな行動を期待している?堀) 明治維新やロシア革命によって国家が動いた歴史を振り替えてみると、重要なポイントが3つあったと思う。1つ目はリーダーの存在。そして2つ目は思想的なビジョンだ。明治維新でも水戸学から生まれた尊皇攘夷が伝播していった。そして3つ目はパワー。かつてそれは武力だったが、現代の民主主義国家におけるパワーは武力でなくコミュニケーション。そんな意図もあり、G1は可能なかぎりオープンに発信している。だから、「一般の人」という表現が良いのかどうか分からないが、皆さまにお願いしたいのは、僕らの発信に賛同していただけるのなら、ぜひSNS等さまざまな手段で声を拡散していただきたいという点になる。また、「こういうことをして欲しい」「僕はこういう行動をします」といったご意見もどんどん寄せて欲しい。
Q) 現代社会はメリトクラシーゆえの生きづらさもあるように思う。その点についてどう考える?堀) シンプルに考えている。能力のある人が正当に評価され、正当なポジションに就いて、正当な報酬を得るのは良いことではないかな、と。能力を高めることでさまざまな機会を得ることが、世の中全体の活性化につながっていくと思うので。僕も裕福な家庭に生まれたわけではないし、能力を鍛えるということを懸命にやってきた。その結果として、資本金80万円でグロービスを立ち上げ、ここまで来ている。能力主義とかメディトクラシーという言葉を使うと悪く捉えられてしまうこともあるかもしれないが、能力を高めることで評価を得ていくのは健全なことだと思う。
Q) G1の宇宙部会について詳しく伺いたい堀) 宇宙飛行士の山崎直子さんをはじめ、堀江貴文さんやispace袴田武史さんら宇宙分野での起業家、さらには平将明さんや小泉進次郎さんらに入っていただいている。そのうえで、宇宙法の枠組みのなか、もっとスタートアップ等が入った形で活動できるようにしたり、安全保障や防衛の視点で現実に即した宇宙開発推進の議論をしたりしている。宇宙の利用法に関する日本のポジションについて包括的に、さまざまな角度で議論と提言を行っている状態だ。
Q) 日本独自の「和をもって尊しとなす」文化や減点文化は、改革の妨げにならない?堀) 日本の美徳や文化がマイナスに働くと考えたことはあまりない。もし自分が何かしら抵抗を受けて物事が進まないことがあるとすれば、社会等外側に要因があるのでなく、自分の能力やコミュニケーション手法、またはアプローチや戦術に原因があるのではないかと考える。むしろ、「和をもって尊しとなす」は素晴らしい文化だと思うし、少なくとも僕自身が減点を恐れたことは一度もない。すべてのことは変えられると信じている。
Q) G1@Clubhouseで堀さん自身にはどんな学びがあった?堀) かなり自信がついたと感じる。自分が得意でない分野についてもモデレートしなければいけないということで、自分の頭で理解するまで徹底的に物事を調べたりしていたので。リスナーの方々は面白くて、かつ分かりやすいものを求めている。だから、具体的なデータに基づき、どんな論点で議論するかを明確化していた。それで3つの論点を設けて、自分なりの見解も持ったうえでいろいろと話を聞いていくと、すごく面白い話ができると分かった。
Q) 日本を良くするために僕らは何ができる?堀) 世耕弘成さんや西村康稔さんや河野太郎さん等、多くの方に僕自身が同じ質問をしている。すると、だいたい答えは1つか2つ。まず、「発信して欲しいし、正しいと思うことはぜひ応援して欲しい」と言われる。メディアは誤解や曲解をする恐れもあるし、それで人々が扇動されてしまうこともあるので。それを変えていくのは僕らリーダーの役割でもあると考えている。また、「自分たちだけが考えていても限界があるので皆さんも提案をして欲しい」ということもよく言われる。
Q) 日本の公教育および義務教育に期待すること堀) 高校までの教育は結構良いと思っているし、あまり不満は持っていない。部活動を含めて心身ともに鍛え、高い倫理観や勤勉さ、さらには協調性を育みながら社会的な生き方を学ぶことができるからだ。公教育にすべてを委ねているわけでもない。家庭でやるべきことを公教育で負担してもらおうと思うと不満が出ると思う。その点、たとえば我が家では囲碁と水泳をやらせていた。頭を使うし、集中力も身につくし、負けたことを人のせいにせず、乗り越えていく力も育てることができる。
Q) 親が働く姿を、子どもが間近で見れるような仕組みづくりができたら良いと思う堀) グロービスも以前そういうことをやっていたし、またやりたいなと思う。僕も一度、親父が働いているところに連れて行ってもらったことがある。「あ、こういうところで働いているんだ」というイメージが湧いた。また、インターンのような感じで働く体験をさせてみるのもいいと思う。僕が高校のときに留学していたシドニーの学校では、企業で1週間働く体験のプログラムがあって、すごく勉強になった。
Q) 税制優遇等にとどまらない日本なりの手法で東京をアジア最大の金融都市にして欲しい堀) 金融都市となるために最も重要なのは、優秀な働き手や企業が来てくれるかどうか。その意味では、やはり税制面の優遇等は鍵になると思う。ただ、それ以外の部分でも東京は多くの価値を提供できる。近年は日本の魅力が海外でもすごく取り上げられているし、コロナが収束したらまた大勢の方が来てくれるのではないか。社会全体がきれいで安全というのもアドバンテージだと思う。
Q) 留学生の起業家が増えている。彼らに地域の創生とグローバル化を担って欲しい堀) とてもいいと思う。グロービスでは20ヶ国および30~40人の外国の方が活躍してくれている。留学やJETプログラムで日本に来たのち、日本が好きになり、母国に帰らず日本に移住している人も多い。今後は彼らがエキサイティングだと感じるような仕事を地方でも増やすことが大切になっていくと思うし、その辺は「水戸ど真ん中再生プロジェクト」でも取り組んでいきたい。
※ G1は、「日本を良くする」ことを目的に、「批判より提案を」「思想から行動へ」「リーダーとしての自覚」を理念に「100の行動」を実施中。
・100の行動 CREATING A VISION OF JAPAN
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