東京ドームに対する三井不動産の株式公開買い付け価格1300円の算出方法と妥当性

三井不動産が東京ドームを買収するまでの経緯

三井不動産は、11月27日東京ドームに対して株式の公開買付け(買付価格は1株当たり1300円)を行うとともに、読売新聞グループ本社との間で資本業務提携契約を締結すると発表しました。

東京ドームと言えばすぐに読売巨人軍を思い浮かべますが、巨人軍は都市対抗野球のため東京ドームを使えずに、大阪の京セラドームを本拠地として日本シリーズを戦わざるを得なかったことは皆さんの記憶に新しいのではないでしょうか。ソフトバンク・ホークスを含め自前の球場を持つプロ野球球団が多い中で、読売新聞グループは東京ドームを保有していなかったためです。

三井不動産そして東京ドームの発表資料からは、以下のような背景と経緯が読み取れます。

この株式公開買い付けですが、本年1月末に、香港の投資ファンドであるオアシス・マネジメントが東京ドームの株式の9.6%を取得するとともに、経営改善を行うために東京ドームに買収提案を行ったことに端を発しています。オアシス・マネジメントは、「東京ドームは、その保有する資産を十分運営できておらず、宝の持ち腐れ状態である」とし、東京ドームの業績改善にむけ、デジタルサイネージの導入、命名権契約の締結、技術面への投資、飲食販売戦略の刷新、現状のホスピタリティ(プレミアムシート)の見直し、イベント運営日程の最適化、等々の経営改善策を提案しました。

オアシス・マネジメントの経営改善と買収提案をうけ、東京ドームは中長期的な観点からの経営課題として、

①東京ドームシティの施設の老朽化
②京ドームシティ内の各施設の相乗効果の発現
③グループの事業間の相乗効果の創出
④経営体制のさらなる透明化(ガバナンス強化)
⑤コロナ禍の影響長期化を見据えた対策

をあげ、長期的な目標として東京ドームシティ全体の再整備が必要と判断しました。けれども、折悪く新型コロナ禍が深刻化し、単独での経営改善は困難と判断し、読売新聞グループ本社と連携しながら事業戦略パートナー候補企業の選定に入りました。

最終的な事業戦略パートナーとして残ったのが三井不動産でした。東京ドームの100%買収完了後、三井不動産はその株式の20%を読売新聞グループ本社に譲渡し、資本業務提携解約を締結することになっています。三井不動産は「東京ミッドタウン」「東京ミッドタウン日比谷」「日本橋再生計画」「LaLaport」等々、オフィス・商業・住宅・ホテル等を複合化した再開発事業を数多く手掛け、東京ドームシティ全体の再開発に必要なノウハウを持っており、さらには読売巨人軍を保有する読売新聞グループ本社との資本業務提携により、東京ドームの一体的な運営を通じてシナジー効果を出しやすいことが決め手となったものと思われます。なお、三井不動産のTOBには、オアシス・マネジメントも賛同して応募する旨を発表しています。

買い付け価格の算定法と妥当性

公開買付株価ですが、東京ドーム側はGCAアドバイザーズ、三井不動産側はPcWアドバイザリーに買い付け価格の算定を依頼しています。

公開買付価格の妥当性:

(1)東京ドーム側:GCAアドバイザーズによる株価の算定
1)市場株価平均法:802円~897円
2)DCF法: 687円~1304円

(2)三井不動産側:PwCアドバイザリーによる株価の算定
1)市場株価基準方式:802円~912円(11月26日を基準日とした東京ドーム株式の、①基準日終値897円、②直近1週間の終値単純平均値909円、③直近1カ月間の終値単純平均値892円、④直近3カ月間の単純平均値830円、➄直近6カ月間の終値単純平均値802円➅直近1週間の出来高加重平均値912円、⑦直近1カ月間の出来高加重平均値903円、⑧直近3か月間の出来高加重平均値836円、及び➈直近6カ月かの出来高加重平均値809円)

2)DCF方式:931円~1356円 (東京ドーム提供の2024年1月期までの事業計画、その他資料を前提として、2021年1月期以降東京ドームが将来生み出すと見込まれるフリー・キャッシュフローを一定の割引率で現在価値に割り引いて算定した株式価値。但し、本件取引によるシナジー効果については、現時点において見積もることが困難なため加味されていない

3)修正簿価純資産方式: 1187円~1374円(2020年7月31日現在の東京ドームの連結貸借対照表の簿価純資産額に、不動産および動産の含み益を反映させた修正簿価純資産の金額を算出し、株式価値を算定)

三井不動産は、上記の算定結果に、①過去の買付け等の価格決定に付与されたプレミアムの実例、②東京ドーム取締役会による本公開買付けへの賛同の可否、③東京ドームの直近6か月間における市場株価の動向を、総合的に勘案し、東京ドームとの協議・交渉の結果等を踏まえ、最終的に1300円とすることを決定した、としています。また、公開買付け公表日の前営業日である11月26日の終値897円に対して44.93%、直近1ヶ月間の終値単純平均値892円に対して45.74%、直近3ヶ月間の終値単純平均値830円に対して56.63%及び直近6ヶ月間の終値単純平均値802円に対して62.09%のプレミアムを加えた金額と、最近の株価に対して大幅なプレミアムを加えている旨を強調しています。

確かに、公開買付け発表前の株価を基準にすれば大幅なプレミアムですが、公開買付価格の算定結果、特にシナジー効果を含まないDCF法による算定、そして単純に含み益を加算した修正簿価純資産法による算定株価から判断する限りでは、将来のシナジー効果はさほど加味されていないようにも思われます。

ただし、新型コロナによるインパクトを一過性とみるのか、それとも長期的なダメージがあると考えるかによって、今現在の株価の見方も変わってきます。DCF法によるシナジー効果を含ない評価の下限である700円から900円が新型コロナの長期的ダメージを加味した現時点での適正株価と考えるのであれば、1300円の公開買付け株価はシナジー効果を十分に含んだ株価と言えるかもしれません。1300円での公開買付けを発表しても三井不動産の株価は殆ど変化していません。株式市場は、公開買付け前の東京ドームの株価は、新型コロナの長期的ダメージを前提とすれば適正であり、1300円の株価ではシナジー効果は殆ど東京ドーム側に吸い取られてしまい、三井不動産側には恩恵は無いと判断しているようです。

RELATED CONTENTS