コロナ禍で先行き不透明な中、テクノベート時代の新たな価値創造に取り組んでいるDeNAヘルスケア 研究企画開発グループマネージャー 西沢隆氏へのインタビューの後編です。「がんになっても不安のない世の中をつくる」という大目標を見つけ、転職をした西沢さんに人生100年時代についてお聞きします。(全2回、後編。前編はこちら)(文=竹内秀太郎)
ワークとライフの区切りが曖昧になる
竹内:コロナ禍に直面して、どんな変化を感じていますか。
西沢:完全に在宅勤務になったのが一番大きな変化です。今まではオフィスに行って仕事をして、家に帰って生活があるという感じでしたが、いまは働く空間と生活する空間が同じで、2つを区切ることがかえって不自然なような気がしてきています。境界線が不明瞭というか、日常と仕事がつながっている感じです。
竹内:それは西沢さんの取り組まれていることにも関係するのでしょうか。
西沢:僕の人生のテーマは「がんになっても不安にならない世の中を作る」ことです。そのためのサービスを考えるということは、生活のことを理解しないと始まりません。仕事だけでサービスを考えていると、どうしても提供者側の目線で考えてしまう気がして、良いサービスのイメージがわかなくなる。家で食事をしながら、妻と介護とか独居老人問題の話をしていて、彼女の何気ない一言から、新しいサービスのアイディアが浮かぶこともあります。「そうあって然るべきなのに、なんでそうなってないんだろうね」みたいな。
四六時中、仕事のことを考えているようで、一方で今まで以上に生活を楽しんでいるようにも感じています。会社からずっと仕事のことを考え続けよ、と言われてやっているわけではないので苦痛でもなく、自然な感じですね。
竹内:これからの働き方において、会社というのはどんな存在になると思いますか。
西沢:僕が会社にいて良かったと思うのは、全力で取り組める仕事を提供してくれること。個人として「こういうことができます」と言っても、そこで任される仕事はたかが知れています。
一方、会社だとブランドがあり、その価値のもと、さまざまな仕事のオファーが来て、やりたいと思う人も集まってくる。仕事をやり遂げるにあたり、会社はリソースを提供し、納期と予算を区切り、やっていいことといけないことみたいな価値観を示す。その上で、どういう風にアウトプットを出すかはプレイヤーに任せてくれる。この会社が心地いいと思う仲間と、同じ価値観で全力で仕事にぶつかっていける。
こういったチャレンジし続けられる場に身を置いていたいと思います。もしかしたら5年後には違う場所にいるかもしれませんが、次も行くならそういう会社がいい。場合によっては自分で起業して、そういう場を作ることに悪戦苦闘しているかもしれないですね。
竹内:学び方についても、これから変わっていくと思うことはありますか。
西沢:かつての自分にとって、「学ぶこと」とは、目の前の壁を乗り越えるための一時的な取り組み、という感覚がありました。ですが、最近は「学ぶこと」が一時的なものでも特別なことでもなく、人生において、ずっと続けるものだと感じています。学ぶというと、お金を出して、どこかに通ってという感覚を持っていましたが、それも違うかなと最近は感じていて、例えばマンションの自治会とか、子供の運動会とか、どこからでも学べる要素はある。様々な場面で質の高い学びを得られるようになることが、人として成熟していくということなのかもしれないな、と思い始めています。
自分のテーマを持っていれば、やることはいくらでも出てくる
竹内:人生100年時代と聞いて、どんなことをお考えになりますか。
西沢:ワークとライフを区切ってワークが苦行だと感じる人には、長く働き続けなければいけなくなるのは辛いことかもしれません。僕は「がんになっても不安にならない世の中を作る」という目標ができてから、ワークとライフの境目がなくなりました。目標を目指して働く中で、自分自身の知見がいろいろな方向に広がっていくのを感じます。そういった広がりが、結果として、自分の生き方を豊かにしてくれているように感じているので、ワークを取り上げられて、ピュアにライフだけで20~30年過ごせ、と言われたら逆に苦しいかもしれないです。
竹内:生涯現役でいたいと。
西沢:身体が動く限り、働き続けたいと思っています。「がんになっても不安にならない世の中を作る」という大目標が実現したら、僕のワークはなくなるのかもしれませんが、そう簡単には実現しません。達成に向けてチャレンジを続けていると、また新しい課題がどんどん湧いてくるので、仮に100歳まで生きるとして、いまちょうど40歳なので、あと60年。
60年では実現できないかもしれないですね。でも、足りないかもと思うからこそチャレンジしがいがありますし、テーマ的にこういうのもなんですが、なんともワクワクします。できれば200歳ぐらいまで生きて、目指す世の中を作っていきたいなと思っています。
竹内:これから自分の望むキャリアを歩んでいく上で何か心がけていることはありますか。
西沢:人生をかけて達成したい大目標を意識すること。日々の縁を大切にすること。それから、当たり前と思えることをしっかりやり切ることですね。
竹内:先の見えないこのコロナ禍の中で、自身のキャリアについて悩んでいるビジネスパーソンに何かアドバイスをいただくとしたら。
西沢:まずは何でもいいので一歩、半ば強制的にでも踏み出してみることが大事かと思います。踏み出すと風景が変わります。同じところからキャリアという捉えどころのないものを考えていてもぐるぐるすると思うので、少し違った角度から考えてみるのがいいのではないかと思います。