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コロナ禍で見えたキーワードは「エッセンシャル」「ウェルビーイング」「潔癖」~安部敏樹×石川善樹×三浦崇宏×若新雄純×鈴江奈々

投稿日:2020/12/07更新日:2021/11/29

本記事は、G1-U40 2020「コロナショックを機に変える「社会」 ~コロナと共生して未来を生きる社会の希望とは?~」の内容を書き起こしたものです。(全3回 前編)

鈴江奈々氏(以下、敬称略):本セッションでは、コロナを機に皆さまが考えたことや、そこから見出した希望といったテーマで議論したいと思います。別セッションで松本(恭攝氏:ラクスル株式会社代表取締役社長CEO)さんがおっしゃっていた通り、メインストリームが空いたなか、今どのようなビジョンが描けるのか、あるいは実際に描いているのか。まずは事前にキーワードを挙げていただいたので、それをもとにお話しいただきたいと思います。では、三浦さんから。キーワードは「エッセンシャル」ですね。

「本当に必要なもの」以外はいらなくなった

三浦崇宏氏(以下、敬称略):そうですね。今回のコロナを通じて「エッセンシャルワーカー」という言葉が出てきたでしょ? 僕は広告の仕事をしていてコピーライティングも数多くやっていますが、これは素晴らしい言葉だと思っています。今までの「ブルーカラー」や「ホワイトカラー」というのは、少しヒエラルキーを内包したような、あまり良い言葉ではないなと、ずっと思っていたので。それに対して、たとえば流通や清掃や飲食といった現場において、「それがなくなったら社会が運用できなくなってしまう仕事」に従事する人々を、エッセンシャルワーカーという言葉とともに横軸で切り取っていった。これは素晴らしい言葉の力だと思います。

エッセンシャルという言葉が今後のテーマになるというのはどういうことか。今は消費も冷え込んでいます。ただ、それを「不景気」と言うと、まるでそのあと景気が戻ってくるような、波の状態であるように感じてしまいます。でも、今回のことは震災後やリーマンショックとは違い、ある種、消費意識・行動に変化を起こしたと思うんですね。

具体的に言うと、本当に必要なもの以外はいらなくなったと、皆が改めて気づいた。ここで言う「本当に必要なもの」とは、生活必需品のような、あるいはドン・キホーテや100円ショップで買うようなものとは真逆のものです。「俺にはこれがどうしても必要だ」「月に1回はこういうおいしい食事をとらないと楽しくない」「私はこのブランドの服を着ないと人生に張り合いが出ない」といったものですね。そんな風に、最低限の生活必需品と、それとは別の「自分自身を肯定するために絶対必要なもの」に今は2極化していて、それがエッセンシャルな消費の対象になっていくと考えています。

情報量が7,000倍になったと言われる時代のなか、僕たちは今まで、無駄なもの、いらないもの、どうでもいいものに目を惑わされがちだった。でも、今回のコロナを通じて、自分にとって本当にエッセンシャルなモノ、人、時間とは何かを問い直すことができたのは、ある種の希望だったのではないかと思っています。

鈴江:たしかに、「外」にあった関心がどんどん「内」に向かっていったというのは皆さんも実感としてあると思います。

若新雄純氏(以下、敬称略):僕もそうやっていらないものを削ぎ落としていったら、最後に1番大事だと思ったのは結局自分のことでした(会場笑)。まじめな話、最後に残った自分と向き合うというのは結構大変じゃないですか。それまでは職場とか仲間とか、いろいろなものがあったから自分の重たさを忘れることができていたと思うんです。でも、今回は皆が暇になって自分と向き合ってしまった。それで今は「哲学できなくて悩んでいる」みたいな人が増えてきているから、エッセンシャルに教養が必要になるというか。自分と向き合う力というようなものは学校で学ばないじゃないですか。

三浦:そうですね。自分の判断軸というか、「このイベント、本当に出る必要があったのかな」とか、「この仕事って、僕にとって本当に必要だったのかな」とか、消費だけでなく生産のプロセスでも自分のことを定義し直す時間になったと感じます。

鈴江:では、続いて石川さん。キーワードは「ウェルビーイング」ですね。

日本の予防医学の構造はとにかく長い

石川善樹氏(以下、敬称略):僕は予防医学という分野で皆さんの健康やウェルビーイングを守るということをしています。そんな僕がコロナで何をしているのか話すために、まずはこの国の予防の構造がどうなっているのかという話をさせてください。「みんな大好き、構造」の話をしようかな、と(会場笑)。別セッションでは小林史明君(衆議院議員)が「ポリシーデベロップメントとポリシーデリバリーは少し違う」という話をしていましたよね。政策をつくることと、それを届けることは違う、と。これ、予防医学の分野に当てはめると、たとえばUCLAの津川友介さんらが、まさにデベロップメントをやっていらっしゃいます。一方、僕がやっているのはデリバリーのほうです。

日本の予防医学は、まず国があって、次に都道府県があって、次に市町村があって、最後住民に落ちていく構造になっています。で、市町村が見ているのは国民健康保険に入っている3,000万人ぐらい。自営業者や無職の方々ですね。ただ、国、都道府県、市町村、住民の方々という風に、なかなか降りていかない。たとえば消費増税があったじゃないですか。あの増税が何に使われているかというと、「もう少し予防をしっかりやってくださいね」といったことに予算が付けられたりしています。それで、たとえば保険者努力支援制度というものに、今年はプラス550億円が付きました。国から都道府県および市町村に「予防に使ってください」ということで降りたわけですね。

でも、使っていないところが結構あるんですよ。なぜか。理由はいろいろあります。1つには意図が伝わっていない。あいだに人を挟むとコミュニケーションがうまくいかないことがあるわけですね。これ、役人あるあるだと思いますが、役人の方というのは、必ず「○○等」と書きます。「この補助金は糖尿病“等”の対策に使ってください」と。すると、現場は「あ、高血圧には使えないのか」と受け取るんですね。“等の壁”というものがあって(笑)、それで意図が伝わらなかったりしています。

また、現場が忙し過ぎて使えないということもあります。たとえば、福岡県は「予防に使ってください」というお金を使わないと判断しました。「職員が皆コロナ対策に手を取られていて予防に回る人材がいません」と。さらに言うと、予防というのは外部からの“応援”が少ないんですね。たとえば、国としてそういうことをやっているという話が都道府県や市町村の議員さんに降りていないんです。ですから、せっかく予算が出ているのに、それについて「もっと使え」といった議員さんからの応援もない。ですから、そうした状況をなんとかしようということで、たとえば小林史明君は自民党の青年局長として、国がやろうとしていることをしっかり落とすという仕組みをつくっています。

そういう構造のなかで僕らは何をしているか。今から12年ほど前にキャンサースキャンという会社をつくりました。これはG2C(Government to Consumer)をやっている会社です。それで、今は日本全国で1/3前後となる500ぐらいの自治体、人数で言うと半分ほど、被国民健康保険者の数で言えば3,000万人のうちの半分ぐらいについて僕らは予防活動を見ています。そのなかで、今コロナによって何が起きているかというと、「隠れたパンデミック問題」が起きています。今、皆がコロナのほうを向いている一方、たとえば糖尿病の方が治療を中断しているということが起きている。「病院に行くと感染してしまうのでは?」と不安になって控えているんですね。これは日本のみならず世界中で起きている問題です。

そこで僕らがどういったサポートをしているのか。実は、今は治療を中断された方が医療のレセプトデータから分かる時代なんですね。それを見つけて、「あ、この方は中断していらっしゃるな」ということで、医療機関のキャパシティも見つつ、「そろそろ受診なさってはいかがですか?」といった働きかけを行っています。いずれにしても、とにかく予防の構造が日本は長い。国、都道府県、市町村、そして最後は住民に落ちるという、その長いプロセスを加速させるということをやっています。

鈴江:コロナを機にそうした構造が改善した部分はありますか?

石川:ありますね。デジタルで住民の方々とコミュニケーションすることがすごく大事になります。それまではどうしていたかというと、基本、自治体は住民と紙でコミュニケーションをしていました。これは「一通入魂主義」と言われていて、紙1枚にすべての情報を盛り込んでお届けするわけです。この一通入魂主義では情報量が多過ぎて伝わらないのですが、スマホならどうか。携帯で連絡すれば早いじゃないですか。「健康診断を受けてください」とか。ですから、住民の方の携帯番号を聞くため、僕らは健康診断会場に出掛けて住民の方々一人ひとりにご挨拶をしつつ、「携帯の番号を教えていただけませんか?」とお話ししていました。そのうえで、「来年度からは健康診断受診のお知らせを携帯でさせていただけないでしょうか」と、めちゃくちゃ手のかかることをしていたんです。ただ、今回を機にいろいろな人がデジタルに慣れてくれたので、デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)が予防分野でも一気に進んでいきそうだという匂いはしています。

三浦:フィジカルだと送料も馬鹿にならないですよね。税金を使うわけで。

石川:そうなんです。一方でそれによって地元の会社が潤うという構造も今まではありました。

鈴江:そうした非効率な点が少しずつにせよ変わってきていて、「そのなかでウェルビーイングも高めていくことができたら」ということですね。では、続いて若新さん。提言するキーワードは「潔癖」です。

白黒をつけるのではなく「良いグレー」を見つける

若新:タイトルを少し読み間違えていました。「潔癖にしたい」という意味ではなく、「これを機に潔癖というものを変えたらいいのでは?」という意味で挙げています。皆がめちゃめちゃ手を洗うようになったし、今回はキレイ好きもすごく加速したと思いますが、肉体的な習慣は心にも影響すると思うんです。もともと曖昧なものが許せなかったり、人のミスを許せない感じがあるなとは思っていたけど、これを機にそちらのほうへさらに進むと超辛いというか。少なくとも自分は生きていけない(笑)。おそらく、今会場で頷いている人はそういう人生を送ってきたのだと思います。

先ほどは「メインストリームが空く」といった話もありました。僕も個人としては主役になりたい人だから、もちろん空いたメインストリームに自分が入ることができたら最高だと思います。ただ、メインストリームを新しい誰かがバシッと固めてしまうと、それ以外はまた入れなくなるから、本当なら次はメインストリームをぽっかり空けておくような社会をつくったほうがいいと思っています。でも、皆キレイ好きだから、「次は誰になるの?」「次はどういう仕組みになるの?」「どれが正しくてどれがダメなの?」と、また白黒をつけようとしている。そうでなく、誰が入っても大丈夫なようにメインストリームは空けていて、その周囲を固めるような状態にする。そのためには「きっちりし過ぎない」という部分を残したいんですが、このままいくと一層きっちり感が出てくるな、と。

三浦:皆、白黒つけたがりますよね。リモートワークとオフラインの話でも、「出勤するのか、それともオンラインにして出勤しなくていい形にするのか」と。たまたまTwitterやGMOがすべてオンラインにして、「(フィジカルに)出勤しなくていいです」と、バシッと白に振り切った結果、「御社はどうします?」なんていう風に、白と黒で結構固められるようになりました。

でも、別にどちらかにしなければいけないわけじゃない。サイバーエージェントの藤田社長は、「うちはITなのですべてオンラインにできます。業態的にはリモートワークとすごく相性がいい。ただ、社風を考えてみると、うちは見ての通り “ウェーイ”ってやりたいから」といったことをブログで書いていました。だから毎週月曜日はすべてリモートにして、火・水・木・金は出勤。「ただし、9人以上の会議はフラットにしたほうがいいから、会議室ももったいないし、すべてリモートにします」というわけです。すごく考えた結果、オンラインとオフラインのあいだにあるグレーの、良い落とし所を見つけている。それがうまくいかなければ、トライアンドエラーでまたやればいいわけだし。

震災のときにクラウドになったように、今回のことで「通勤しなくていい」ですとか、いろいろ社会変化はあったと思います。ただ、そちらに振り切るのが正しいのか、元に戻すのが正しいのかという議論は結構ナンセンスだと思っていて。若新さんが言ったように、潔癖にブラック・オア・ホワイトで片を付けるのでなく、それぞれの業態、産業、個人、家族のなかで良いグレーを見つけることが求められている気がします。

若新:そう。だから今日は皆さんと一緒に「反対の言葉」を見つけて帰ることができたら超ラッキーだと思っていました。「キレイ好き」の反対を調べたんですが、どれも今ひとつ、僕が言いたいことにぴったりな言葉がなかった。不潔という話ではないじゃないですか。汚いままでいいわけじゃない。でも、今はたぶんキレイ好きの反対は「汚い」と皆が思ってしまっている。それで曖昧にすることは不潔なんだと思い過ぎて、「早く決めようよ」「どっちかにしようよ」という風になっていると思うんです。でも、不潔ではない心地良さがあるというか、キレイにし過ぎないことで新しい人も入ることができるし。でも、そこで「メインストリームが空いたから」と、誰かがそこを獲ってしまったら、また次の人がそこに入れなくなって、永遠に多様にはならない。だから、そこはうまいこと空けたいと思っています。一方で、僕個人はぶっちゃけ、そこで主役になりたいという複雑な自己矛盾もあるんですが。(中編に続く。後編はこちら

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