優れたビジネスプラン、提案書、社内稟議書のエッセンスはみな同じ
これまで、リスクテイク型の思考があなたの仕事の土俵を広げ、“できるビジネスパーソン”として会社にも利益貢献することを説明してきた(Vol.1)。また、リスクテイク型ビジネスが株式投資やM&A(企業の合併や買収)だけを意味するのでなく、例えばサブスクリプションモデルもこのカテゴリーに属する事を紹介してきた(Vol.2)。
但し、あなたがいかに“できる”ヒトになっても、一人のビジネスパーソンとして会社に貢献できる度合いは限定的であろう。大きな影響を与えるためには、やはりチームを組成しプロジェクトとして案件をリードする必要がある。ましてや、将来の売上高や利益の見極めが不確かな状況で先行投資型ビジネスを実現するには、事業の概要をはじめとするしっかりした説明が必要なのは言うまでもない。
説明する機会や書類の形態には様々なものがある。顧客に対する提案書、銀行や投資家に対するビジネスプラン、社内関係部署に対する稟議書(或いは、案件起案書)など。
実は、これらには「相手を動かす」共通の内容や伝え方が存在する。さて、あなたなら何を説明するだろうか?今回はあらゆる場面で通用する「伝え方」を解説する。
説明を聞く側の心理状態を意識して説明内容とその順番を考える
最も留意すべきは、あなたの説明を聞く側の立場に立ってどの様な項目をどの様な順序で説明するのが良いのか、という視点を持つことではないだろうか。ヒトの心に何かを訴え、そして納得してもらうためには、一定のルールが存在する。
筆者が考えるルールとは:
①なぜその投資事業プロジェクトを行う必要があるのか。当社にとってどの様な意義があるのか(“why”)
②具体的にどの様な方法・パートナー・関わり方で実施するのか。プロジェクトの採算性や期待収益はいくらなのか。どの様なリスクが存在し、いかにリスク低減を図るのか(“how”)
③そのプロジェクトにおいて、あなた・自社がどの様な役割を担うのか(“what”)
をこの順番で説明する、というものである(“why→how→whatルール”)。
ともすると、説明する側のあなたとしては、とにかく利益に関する情報(上記②の一部)を前面に押し出したくなるだろうが、説明を聞く側は必ずしもそれを望まない。ヒトはまずwhyを聞きたいものである。なぜならば、あなたからの説明内容をしっかりと理解するためには、その説明をどの様な心持ちで受け止めたら良いのか、更には、その説明を聞くためのインセンティブ・納得感を無意識に求める傾向があるからではないだろうか。「whyこそがヒトを動かす」のである。
具体的に考えてみよう。筆者はグロービス経営大学院で教鞭を執る以前には、総合商社に勤務し、インドネシアでの液化天然ガス(LNG)開発事業に長く携わってきた。事業開発するにあたっては、数百億円~数千億円規模の天然ガス液化設備(LNGプラント)を先行投資する必要があるため、社内においては事前に稟議申請が必要となる。
ここで、前述「why→how→whatルール」を適用し稟議書を作成することになるが、特に重要なwhy部分のイメージは以下の通りである(尚、whyの導入部分においては、ある程度のwhatの説明も伴う):
- 当該開発事業の最終的な目的は、日本の電力会社向けに安定的・長期的にLNGを供給し、日本国内の電力需要を底支えすることである(電力会社は、自社が保有する火力発電所向けに燃料としてのLNGを確保する)。つまり、インドネシアにおけるLNGプラントの建設はあくまでもこの目的遂行のための手段と位置付けられる
- LNGは火力発電所で燃焼した後には物理的に消滅するが、日本国内の発電ニーズは恒久的に続くため、LNGに対する需要は基本的に途絶えることはない(LNG開発案件の実行および継続確度は極めて高い)
- 一方、プラントを建設するインドネシアにとっても外貨収入を獲得できる貴重な国家プロジェクトであり、同国の大蔵省をはじめとする関係省庁からのサポートを得やすい環境と言える(案件の“筋”は良好であり、カントリーリスクの軽減にも寄与する)
- 当社は両国の経済発展の橋渡しをする役割・機能を果たさんとするものであり、その参画意義は極めて大きい。更に、LNGプラントの設計・機器調達・建設、開発事業資金の直接投資・融資、LNGタンカーの建造・船舶運航、LNG受入基地の建設、電力会社向け供給などLNGの産出から消費までの一連の流れ(LNGチェーン)を商圏とする“複合取引”を実現する事で、商社業界におけるプレゼンスを一層強固なものにし、今後の事業展開に弾みをつける事が可能になる
少しはニュアンスが伝わっただろうか。
説明文は極力シンプルに。但し、伝えるべき内容はしっかりと
但し、3つ留意点がある。
1つ目は、冒頭で稟議申請内容を明確に記載する(例:合弁企業設立に伴う出資金拠出、品代の前払い、直接投資など)。できれば、数行で簡潔に説明するのが望ましい。
2つ目は、whyに関する説明文が長いと聞き手の心に響かない。言い換えれば、聞き手に“刺さる”内容にするためには、極力シンプル、且つ、明解な説明文にブラッシュアップする必要がある。そのために、説明の文章を繰り返し校正し、上司や同僚にチェックしてもらい、最終的に納得感の高いものに仕上げるプロセスを惜しんではいけない。
3つ目は、自社の事業に対する関わり方(先ほどの例で言えば、プラント建設、事業資金の直接投資・融資、LNGタンカー建造・運航、LNG輸入)“以外”のアプローチも検討しておくことである(これらを稟議書に記載するか否かはケースバイケースで判断)。
「プロジェクトへの取り組み方は複数あり(例:合弁会社設立、他社を買収)、これらを多角的に検討した上で、最終的に一つを選択した」という経緯をその理由と共にしっかり説明できる準備をしておかないと、「案件の位置付けや当社にとっての取り組み意義は理解したが、そもそもなぜこの方法・形態でプロジェクトに参加するのか?他の方法と比べて、この関わり方がベターである理由は何か?」という本質的な問いに回答できない。聞き手は提案内容の「広がり(提案以外の参画形態)」と「深さ(提案の意義・内容など)」を求めるものである。例えるならば、アルファベットの大文字“T”を描くイメージを強く意識しないと「打たれ強い」稟議申請にはならない。
これらを踏まえて、稟議書のストーリーラインを整理すると以下の様になる。語弊を恐れずに言えば、冒頭の1や2でどれだけ読み手(例:稟議書の審査部門)の共感を得る事ができるかが勝負と言っても過言ではない。一旦、あなたが描く“議論の土俵”に相手を乗せてしまえば、あとはその土俵の中で自社にとってより良い条件(例:期待収益を上げる、リスクを極小化する、将来の潜在的な案件に対して布石を打つ)を獲得するための「建設的な意見交換」が可能になるからである。
幅と深さを持った稟議書、ビジネスプラン、提案書のストーリーライン(例)
上記は海外でのエネルギー資源開発に関わる事例だが、あなたが従事する個々の事業にも十分応用できるのではないだろうか。あなたが伝えたい事を説明するのではなく、相手が聞きたい事を順を追って説明する「逆算」的な思考が基本となるのである。