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サラヤ株式会社「企業の責任を我が事とし、逃げずに向き合う覚悟と決意」――サステナビリティ経営への変革 vol.3 前編

投稿日:2024/03/06更新日:2024/03/29

サステナビリティが企業経営にとって避けては通れない課題となっています。しかし、大きなテーマであるがゆえに、日々の仕事と紐づけて捉えることが難しいテーマでもあります。本連載では、サステナビリティ経営を実践する推進者に焦点を当て、個人の志から SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)の要諦を探ります。

第 3 回は、サラヤ株式会社(以下サラヤ)を取り上げます。サラヤはせっけんや消毒剤、更には甘味料として注目を集める「ラカント」など、衛生・環境・健康に関わる製品の製造・販売を行う企業であると同時に、日本を代表するサステナビリティ推進の先進企業のひとつです。同社におけるボルネオやウガンダでの環境保全、衛生環境改善のプロジェクトに留まらない、現場での実践とは、どういったものなのでしょうか。(聞き手・執筆:山臺 尚子)

環境破壊を知らなかったことは素直に認める。でも逃げる必要などない

サラヤは 20 年近くに渡り、マレーシア・ボルネオ島で環境保全のための様々なプロジェクトを展開しています。「直接の利益にならない」「労力とコストを浪費している」「十分手を尽くしたのだから、もう手を引いた方がいい」などと、活動に対して批判的な声もある中、サラヤが取り組みを止めないのはなぜでしょうか

サラヤがボルネオの環境保全活動に関わることになったのは、テレビ番組の取材がきっかけです。「ボルネオ島のアブラヤシの農園開発が環境破壊を引き起こしている」との報道に、パーム油を原料として使う(パーム油はアブラヤシから取れる植物油)石鹸・洗剤メーカーのトップとして、更家悠介社長にコメントが求められました。

消費者からの批判やイメージダウンを警戒し、同業他社は軒並み取材を拒否していました。しかし、更家社長は出演を決意します。そればかりか森林破壊の実態を把握すべく、直ちに現地調査も開始しました。当時は現在とは異なり、原料の製造工程について、メーカー側が仔細を知らないことも多かった時代でした。

世間の批判を承知で取材を受けたこと、ボルネオでの現地調査、そして現在も続く環境保全活動について、更家社長はこう振り返ります。「知らなかったということに、少しもやましい気持ちなどありません」。「やましくもないのに逃げ回るとすれば、その方がよほど不自然」。「間接的にせよ責任があります。本当に環境破壊があるのならば、知らなかったではすまされません」。

企業の責任を我が事とし、不都合からも逃げずに向き合い、課題解決していくという覚悟と決意を感じます。しかし更家社長は一連の取り組みについて、「理想実現の活動」ではなく「ごく当たり前の感覚で判断し活動」した結果、「自然にビジネスへとつながっていっただけ」なのだと言います。サラヤでは、利益追求と社会価値向上は矛盾せず両立しうる「ごく自然な活動」なのです

サラヤの「ごく自然な活動」は、第1回「ジャパン SDGs アワード」の受賞(2017 年)他、社外からの高い評価につながっていきます。こうした高評価を更家社長は「社員への評価」だと言います。こうしたサステナビリティ推進について、どのような取り組みが現場では実践されているのでしょうか。ここからは、サステナビリティ推進本部 SDGs 推進室の牧野 敬一氏にお話を伺います。

品質管理担当からサステナビリティ推進へ。未知の領域への転身

――もともと牧野さんは試験責任者として品質管理に関わってこられました。現在サステナビリティ推進に関わるようになるまでの経緯はどんなものだったのでしょうか。

牧野:私は元々、品質部門で製品の品質管理業務に携わっていましたが、当時品質部門では、TQM(Total Quality Management:総合的品質管理)を通じた品質保証の取り組みを導入することになりました。
その後、サラヤグループはサステナビリティを推進していくにあたり、このTQM の考え方の中にSDGs の考え方も取り入れ、TQMとSDGsを統合することになりました。TQMは組織のあらゆる業務の質的な向上を全社で目指す考え方です。

サステナビリティと TQM の統合により、品質保証や管理の枠組みを超えて、全社のあらゆる事業活動、組織運営を環境保全等、社会的責任を果たし、持続可能な社会の実現につなげていくことができます。こうして、元々品質部門でやっていたTQM推進業務にSDGsの考え方を取り入れ、サステナビリティ推進本部に移行させることになったという経緯があります。私も、そのタイミングで品質部門からサステナビリティ推進本部(以下本部)に異動しました。異動して4年程になります。

また、本部に属しながら、サラヤエスビーエス株式会社というサラヤの子会社にも1年程在籍していました。そこでは、TQM の目標管理の中に SDGs の活動をどう落とし込むか、という本部でやってきた“ノウハウ”をセミナーや教育として、社外に提供していました。

その後、本部の中に SDGs 推進室が立ち上がることになり、そのタイミングで本社に戻り、現在はサラヤグループ全体のサステナビリティ推進を担当しています。

――品質管理の仕事とサステナビリティ推進の仕事では大きな違いがありそうですが、難しさはありますか。この2つの仕事の共通点や違いはどういったところでしょうか。

牧野:サステナビリティ推進と品質管理の仕事は、共通点もありますが、当初は随分と違いがあるな、という印象でした。例えば、品質ロスを軽減し、不良品をなくし、環境負荷を減らす、という目標管理の観点では共通していると思います。ただ、SDGs は 17 目標、169 ターゲット、232 指標もある非常に幅広い概念です。この広さもあいまって、サステナビリティを推進するには何をどうすればいいか、アプローチも確立されていない、まだまだ未知の領域だと思います。

環境や社会貢献に関わる相談が推進室に持ち掛けられることも多いのですが、こうした背景から、どこまでが業務範囲か当初明確ではないところもありました。部門を横断して取り組まないと解決しないこともあり、様々な知見が必要な面は難しいところです。幅広く情報収集をしながら、自分で考えて、選んでやっていくしかないと思いました。

――手法がある程度確立されたものと、そうではない未知のものという点では大きく違いがありそうですね。そんな未確立な中から、サラヤのサステナビリティはどのように進めていったのでしょうか。

牧野:サラヤでのサステナビリティの活動は、部門毎に実施するもの、部門横断で実施するもの、の2つがあります。

各部門で推進担当者を任命し、この担当者が中心となって、TQM の枠組みの中で、SDGs達成に向けた施策に取り組んでいます。本部からは、推進担当者向けにサステナビリティに関する教育や推進のアドバイスを行っています。

そして部門横断で展開しているものの中で、代表例が対外的にも多く取り上げていただいている、ボルネオの環境保全活動やウガンダでの衛生環境改善の活動です。ボルネオは 約20年、ウガンダは 15 年近く続く取り組みです。
いずれの取り組みでも、本部と各部門、部門同士が常に連携しながら進めています。各部門との連携を担う役割として推進担当者がいて、彼ら・彼女らが“キーマン”として機能していることが大事だと思っています。

サステナビリティ推進は「つなぐ」が鍵。 “キーマン”“仕事”“理念”をつなげ

――各人材に対して、サステナビリティ推進の“キーマン”として機能してもらうために、どのような取り組みを行ったのでしょうか。

牧野:“キーマン”は各部門に複数名います。各部門の部門長は推進委員長、現場のマネジャークラスは推進委員、あるいは推進委員長と推進委員を繋ぐ役割である副委員長を担っています。本部は事務局機能を持ち、推進担当者向けの情報発信や研修なども多く行ってきました。

まず推進担当者たちには、「そもそも SDGs とは何か」を知ってもらうところからスタートしました。そして最も力を入れてきたことは、自分たちの部門の仕事は何か、SDGs やサステナビリティの考えで捉え直すとどうなるのかを、自ら整理し、考えられるようになることでした。

また、様々な部門に出向いて、ワークシートを使ったり、バリューチェーン上に SDGs のゴールをマッピングしてみたりしながら、数多くのワークショップをやってきました。各部門で取り組んだワークシートは膨大な枚数になりましたが、SDGs の 17 ゴールのいずれかに、自分たちがつながっている、自分たちも貢献できている、ということは、推進担当者の皆さんに実感してもらえたと思っています。

つづく


<出典>

  • 更家悠介著『地球市民宣言 ビジネスで世界を変える』(日経BP)
  • 更家悠介著『世界で一番小さな象が教えてくれたこと ―エコロジーの時代に「清流の経営」で生きる日本企業』(東洋経済新報社)

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