リーダーとは何をする人か?半導体、液晶テレビ事業の衰退はなぜ起きたかに学ぶ〜経営共創基盤CEO 冨山和彦

本記事は、2020年2月に行われたグロービス経営大学院特別セミナー「両利きの経営に求められる経営リーダーシップ」の内容を書き起こしたものです(中編)

日本全体が半導体産業を失った

冨山和彦氏(以下、敬称略):一方の日本側はというと、半導体の工程で働いていた人たちは皆、終身雇用の正社員として頑張って長年働いてきた。『電子立国日本の自叙伝』というNHK番組がありましたけれども、「日本がそこまで来たのは、働く人たちのクオリティが高く、きちんとTQCをやって歩留まりを高めていったからだ。それで、インテルやTI(テキサス・インスツルメンツ)にも勝ったんだ」という話になっているわけで、まさにその功労者です。その何千人か何万人の功労者に、「すいません。状況が変わってしまったので、皆さんは明日から台湾の会社に転籍してください」となってしまう。

そこで、いろいろな思考が止まるんです。さすがに、いきなりそれをやるのはあんまりだろう、と。だから一生懸命落としどころを考える。「そこまで過酷にせず、何かやりようがないか」と、大きな会社は、割といつもそういうことを考えるでしょ(笑)。で、そういうときは、だいたい合弁から入ろうかという話になります。「いきなり売っちゃうのは酷だ。でも、いきなり過半数を持たせても何をされるか分からない」と。だから、まずは先方がマイノリティの状態からはじめます。20%ぐらいからはじめて、何年か後には20%を34%、34%を49%、そして49%を51%という風に、しきい値を超えるタイミングを決めつつ、10年ぐらいかけて少しずつ移行するストーリーを描きます。

私も、そういう合弁スキームを一生懸命つくっていました。それが出来あがって、合意した瞬間は「俺もいい仕事したな」と思ったりしていたんです(会場笑)。一応まとまったんだから。その後、日本のDRAMに何が起きたか。全滅しました。そうやって10年もかけて、ちんたらちんたら事業を移管する時間的猶予を、DXは与えてくれなかった。全滅するということは、全員ではないにせよ大半が仕事を失うということです。で、最後まで残った最も競争力の高い広島のDRAM工場は、今も米マイクロン・テクノロジーという会社の傘下で動いていますが、結果としては多くの日本企業が、日本全体が、半導体産業の中核を失いました。

今から振り返ってみて、どうすべきだったか。もし僕がタイムマシンに乗って、あの時代に戻れるなら、たぶん答えは2つです。1つはスパッとファブレスに移行して、回路設計と営業だけで勝負をする。当時、インテルはそういう選択をしてファブレスに移行しています。あるいは、当時日本の半導体メーカーは全体で世界シェアの半分を握っていましたから、大同団結です。裏を返せば、ほとんどの会社は撤退。誰かに売るということだから。もし中心がNECならすべてNECに事業を売却。東芝が中心なら東芝に。そのどちらかなんです。「あれか、これか」です。

でも当時、私も含めて電機メーカーの主要な人たちは、あれも選べずこれも選べず、あれのようなこれのような(笑)、「あれもこれも」の摺り合わせに進んでしまった。これが敗因です。少し時間差があって、液晶でも同じことが起きました。ですから当時はいろいろな会社を廻りました。今から約20年前、そこで電機メーカートップの人たちはどんな話をしていたのか。「俺たちはすげーんだ」という話が半分で、残りの半分はなんだったか。

会社の意思決定プロセスには欠陥がある

当時既に色々な産業で同じ負けパターンが繰り返されていたわけです。せっかく日本の会社がインベンションを起こしても、それで産業を大きくすると日本企業のシェアが下がるということを繰り返していた。で、当時は「液晶も同じでは?」という状況だったわけです。だからトップの人たちも、「本当にダメになっちゃう前になんとかしようというのは、我々も分かります」と言うんです。それに対する1つの答えはコンソリデーションですよね。国内で何社もやっている場合ではないから。ただ、そうなると大半の会社は撤退という話になりますが、要は撤退できないんです。「話は分かった。たしかにDRAMのときとまったく同じだと思う。同じ道を辿りたくないから、やはりオールジャパンで1社に統合すべきだと思う」。

「だけどね、うちは売りませんから」と、皆、言うんです。「だからよそで売り手を探してきてください」と。でもM&Aは買い手だけでは成り立たちません。だから「どうしてですか?」と聞くと、「冨山さんね、日本の会社というのはね」という話がはじまる。「うちは会社がはじまって以来、前年比で売上が成長し続けている事業、それもこんな大きな事業から売却撤退した先例がない」と。実際、シェアは落ちていましたが、2001~2002年頃の液晶では、どの会社もまだ前年比プラス成長はしていました。また、スカスカだけど、「赤字にもなっていないんだ」と。それで、「売上が伸びていて、かつ黒字の事業というのは、当社創業以来、売ったことはないんだ。撤退したこともないんです。だから、それを売却なんてしようとしたらね、ひょっとしたら自分のクビが飛ぶかもしれない」と。社長でさえ。絶対にコンセンサスが取れないから。

役員会や取締役会でも激しい議論になってしまって、賛成と反対で分かれてしまう。で、そういうときは、だいたい皆が反対に回ります。なぜか分かりますか? どの事業部も「明日は我が身だ」と思うからです。「ここで売却されちゃうと、次は俺だ」と思うから、皆が反対する。で、「そんな、めちゃくちゃなこと言う独断専行のク◯社長は交代だ」という話になります。それがリアルなんです。「社長、それなら、どうなれば撤退できるんですか?」と聞いたら、「それはね、液晶テレビの赤字が何千億円になってね、会社の屋台骨を揺るがすようになったら売却できます」って。

その通りになっちゃった(会場笑)。プラズマをやっていたパナソニックを含めて。ここで出てくる問いは何か。もう、このパターンをずっと繰り返しているんですよ。それほど歴代の経営者は馬鹿だったのか。馬鹿じゃないですよ。皆、勉強していたしMBAも取ったりしていました。それより、会社の基本的なものの決め方や構造に欠陥があるんです。だから同じ過ちを繰り返す。だから、一生懸命留学に行かせてスタンフォードやハーバードでMBAを取らせたって答えにならないんです。だって、そうじゃないフォーメーションのなかで社長も仕事をさせられちゃうわけだから。だから、私はやはりガバナンス改革をやらなければ変わらないと思いました。ただ、残念ながらガバナンス改革の意味が分からないという人も多いので、ちょっと微妙な方向に行ってしまっている部分もありますが(笑)。

結局、ここでの問いは、突き詰めると「リーダーとは何をする人か」ということです。日本の会社の良き意思決定プロセスとして、古くからある日本的経営の教科書に何が書いているか。「現場主義」「ホウレンソウ」「カイゼン」「ボトムアップ」。では、現場主義で、ホウレンソウをちゃんとやって、ボトムアップで、コンセンサス方式でやったとき、液晶から撤退できますか? 絶対、できません。ファブレス、絶対できないですよ。当事者は反対するに決まっているじゃないですか。これは改善・改良マターでなく、擦り合わせをすべき話ではないんです。

こういう状況下で目の前にあるストラテジック・ピボットでは、「あれか、これか」をトップが孤独に決めるしかないんです。「現場に聞いてみよう」はだめです。現場に聞くなら、現場の立場というよりは、現場のことが本当によく分かったうえで、10年後や20年後を考えられそうなタマを1人見つける。で、そいつを本当の味方にして、誰も知らないところで1対1で聞かなきゃいけない。人間は立場でものを言わざるを得ないから。

そういうことができるリーダーとはどういう人か。裏を返すと、オペレーションの世界で真面目に改善・改良、コンセンサス、ホウレンソウをやっていると、そういうことができない人になっちゃう。やっていることは逆ですから。報告も連絡も相談もしないで決めるんだから。でも、ホウレンソウを20年もやっていると、それなしにモノが決められない人間になってしまう。ときどき、うちにもそういうのがいて困ります(笑)。「そんなの俺に報告しないで決めろよな」みたいな。とにかく、どうも日本の会社におけるリーダーのつくり方というのは、構造的にいろいろな問題があるということです。

オープンイノベーションはなぜうまくいかないのか

オープンイノベーションの話も少しします。ここまでお話ししたような問題を解消しようと思って、多くの企業がオープンイノベーションということを言い出します。でも、オープンイノベーションは基本的にうまくいきません。なぜか。自分自身が、かなり痛みの伴うトランスフォーメーションをする覚悟を決めないと、うまくいかないからです。

たとえば、大企業にベンチャービジネスの技術評価をさせるとするでしょ? パナの人やNECの人を連れてきて。それで、その技術をよーく知っている、極めて近しい事業部の技術者に評価をさせると、ほぼネガティブになります。理由はいくつかあります。まず、ベンチャーの技術というのは長所で勝負しています。でも、実際にその事業をオペレーションで回している人にとって技術の長所はどうでもよくて、大事なのは短所です。実際に回すんだから。社会実装をするならロバストじゃなきゃ困るんですよ。だから短所を見にいくと、ベンチャーの技術ってツッコミどころが満載なんです。

それで落とすでしょ? それで、その技術が3年後か5年後、短所は誰か別の人に補われたうえで、一気に出てきて大企業側の技術をぱっと凌駕する。そういう例をいくらでも知っています。「冨山さん。あの話はね、実は5年前、ウチに来ていたんですよ」って。「じゃあ、そのときに買えば良かったじゃん」という話なんですが、「いや、こうなるとは思っていませんでした」って(笑)。そんな話がたくさんあります。

そもそも評価させる人を間違っているんです。でも、経営者が自分の判断に自信がないと、部下に振っちゃう。気持ちとしては、そうなりますよね。先ほど言った通り、ホウレンソウ型の経営者なら。「いろいろな人に相談して、いろいろ聞かないとまずいんじゃないか」と考えてしまう。でも、少なくとも、孫正義さんが部下にそんな相談をしているとは思えないですもんね。

理由はもう1つ。ベンチャーの技術は、本格的であればあるほどパラダイムが違うんです。今、日本の画像認識でダントツにトップのパフォーマンスを出しているのは東大発のOllo(オロ)という会社です。顔認証に関しては、精度もスピードも大手の電機メーカーはここには敵いません。しかも、それを大手より遥かに小さなコストでやっている。カメラなんて、その辺で売っている製品ですよ。それで、世界各国で開催されている画像認識コンテストでも、すべて日本1位。世界では、だいたいテンセントと1位を争っています。やっているのは、26歳ぐらいのお兄ちゃんたち。「なぜ、こんなにすごいことができるの?」と聞いたら、彼らも普通の人だから偉そうには言わないけど、(小声で)「いや…、僕たちの頭がいいからです」って(会場笑)。

なぜ、できるのか。既存の総合電機メーカー系の人たちも画像認識を何十年とやっています。でも、Olloはそのアプローチがまったく違います。たとえばカセットテープの時代、カセットテープの音質をずっと高めてきたというのは、これは凄いこと。そこにベンチャーが出てきても、カセットテープの音質に関しては、おそらく当時やっていた会社に勝つのは不可能です。でも、そこでぽっとCDが出てきたとき、CDの音質を高めるというのは、それまでと違うゲームになるわけです。

それはカセットテープの世界からは評価できない。種目が変わっているから。ずっと野球だけしかやってこなかった人であれば、サッカーを見たって誰がうまいんだか、分からないですよ。Jリーガーもメッシも、「みんなうまい」にしか見えない。特に破壊的イノベーションのフェーズでは、そういうことが起きます。ですから、こういったオープンイノベーションの問題は、なにかこう、「目利きの人を探しましょう」とか、そんな話ではなく、もっと根深い話なんです。会社自体の意思決定のあり方とか、人の採用のあり方を変えなければいけない。

「ゲームチェンジ」の時代、会社はどう変わるべきか

なぜ、トップのAIエンジニアの子たちが大企業に入りたがらないのか。今はパラダイムが変わっていますから、最先端のAIをやっているドクターの子たちに勝てる人間は大企業に1人もいません。ゲームが変わっているんです。彼らはサッカーのプレイヤーで、大企業には野球のプレイヤーしかいない。でも、大会社に入ると何をやらされるか。分からないものだから、「君、とにかくサッカーの論文を読んで、それを俺に報告してくれ」となっちゃう。そういう仕事をさせるんです。でも、彼らはサッカーをやりたいわけでしょ? サッカーがうまいんだから。それなら、最先端開発の予算をどかんと付けて、サッカーをやらせてあげればいいじゃないですか。

当たり前の話ですが、野球をやって20年、今45歳という研究科長や所長のおじさんは、悪いけどサッカーでは役に立ちません。それなら、40過ぎのおじさんではなく、25~26歳下のPh.D.の子にたくさん給料を払ってあげればいいじゃないですか。それができないんですよ。だから入ってこない。当然、その子が本当に力を発揮したら、その会社が今までやってきたことの全否定になりますよ? 彼らから見たら今やっていることはバカにしか見えないんだから。「それを正々堂々と、NECやパナや日立のなかで通せますか?」という問いになるんです。

ですから、これは会社の基本的な形を変えようという話なんです。あるいは基本的な組織能力を変えなさいということを、今は問われている。そして、それが「両利きの経営」の本質になります。

現状では、ちょっといいニュースもあります。というのも、自動車、重電、機械、旅行、運輸、さらには医療もそうですが、すべてリアルでシリアスです。ですから、ソフトやクラウドの世界だけでできることは限られます。ハードウェアも変わらないとイノベーションは実現しません。これは、アップルがやりたかったモデルに近い。アップルは、iOS上のソフトウェアやクラウドといったサービスと、iPhoneというハードを組み合わせて初めてイノベーションを起こしましたが、それがもっとシリアスになります。

自動運転なんて、Googleが当初言っていた話であれば、カルフォルニアで2020年には無人運転の車が走りまくっていた筈ですよ。でも、今、走っていないでしょ? まだ検証をしています。理由は簡単です。これが、純粋にネットのサイバー世界なら、どんどん社会実装をして、どんどん事故を起こして、どんどん問題が起きて、それをどんどん修正して、今頃は実用化している筈です。でも、同じことを車でできますか? 社会実装実験の時点で何百人や何千人という人を殺せますか? ノーです。医療も同じ。相当慎重にプロセスを積み上げてハードも改良していかないと実現しません。

そうしたリアル×シリアスに、今はインターネット革命やデジタル革命によるビジネスの中心が移ってきている。だから、日本の企業および産業クラスターは今、世界から意外と注目されています。というのも、気がついたら今先進国で真面目にハードをやっているのは日本とドイツぐらいしかなくなっていたから、「彼らと組まなければ、そうしたイノベーションが実現しない」と。個人としても、ハードをやっている会社に行かなければ、そういうことを実現できない状況になっています。だから、アメリカでロボティクスの至宝と言われていたギル・プラットという人もトヨタに来ました。ヨーキー・マツオカという、Google Nestをつくった方が最近パナソニックに来たのも、そういう理由です。

ですから、ちょっといいニュースではありますが、それですべてうまくいくかというと、「しかし」となります。それだけでは戦えません。ハードウェア大量生産的な従来型の、改良・改善型のイノベーション、あるいはボトムアップの積み上げ、現状の延長線上で物事を進めていく企業の文化・形・リーダーシップでは、なんだかんだ言って破壊的イノベーションをやりたい人たちの力を取り込めません。(後編に続く)

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