本記事は、2020年6月19日に開催されたグロービス法人セミナー「リモートワーク※時代のエンゲージメントとリーダーシップ~Withコロナ 人事・育成部門に求められるマインドセットとリーダー支援とは?」の内容を書き起こしたものです(全2回 前編)※本セミナーではリモートワークの同義としてテレワークと表現させていただきます。
福田亮氏(以下、敬称略)グロービスで法人研修部門のディレクターをしています福田と申します。今日は、皆さんのご関心が高い「エンゲージメント」について、株式会社アトラエの川本周様と一緒に考えていきたいと思います。
新型コロナにより9割以上がテレワークを実施
まずセミナーに参加してくださっている皆さんのここ数か月の会社の変化について、アンケートで答えていただいた結果(92名回答)を共有したいと思います。
①緊急事態宣言期間中のテレワークの状況を教えてください。
(1)原則週5日テレワークを実施・・・・66人(72%)
(2)週3日テレワークを実施・・・・・・16人(17%)
(3)週1~2日テレワークを実施・・・・・8人(9%)
(4)テレワークを実施していない・・・・2人(2%)
②緊急事態宣言解除後のテレワークの状況を教えてください。
(1)原則週5日テレワークを実施・・・・38人(41%)
(2)週3日テレワークを実施・・・・・・27人(29%)
(3)週1~2日テレワークを実施・・・・20人(22%)
(4)テレワークを実施していない・・・・7人(8%)
③テレワークの状況でマネジメントは機能していましたか?
(1)とてもそう思う・・・・・・・・・11人(12%)
(2)ややそう思う・・・・・・・・・・50人(54%)
(3)どちらとも言えない・・・・・・・22人(24%)
(4)ややそう思わない・・・・・・・・6人(7%)
(5)全くそう思わない・・・・・・・・3人(3%)
④ニューノーマルの時代に向けて組織マネジメントにおける一番の問題意識は何ですか?
(1)リモート環境下でのコミュニケーション・・・・・・・・12人(13%)
(2)リモート環境下での個人と組織のつながりの強化・・・・37人(40%)
(3)新入社員の受け入れ・ケアなどのオンボーディング・・・11人(12%)
(4)働き方が多様になる中でのチーム創り・・・・・・・・・30人(33%
(5)その他・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2人(2%)
1つ目の質問が緊急事態宣言期間中のテレワークの状況です。7割近くの企業が原則「週5日」テレワークを実施し、残りの方は「週3日」と。これで9割ぐらいですね。ほとんどの方は週のうち何日間かテレワークを実施していたということですね。
緊急事態宣言が明けてからどんな働き方になっていくかというと、それでも「週5日」テレワークを継続するという方が4割近く。「週3日」の人と合わせると7割で、「週1〜2日」のテレワークを入れると9割以上ということで、ほとんどの企業でテレワークを実施している状況が垣間見えます。
では3つ目の質問の「マネジメントは機能していましたか?」でいうと、「ややそう思う」という声が半数以上ですね。「どちらとも言えない」を足すと8割近くになりますので、うまくいっているところもあれば、うまくいかない部分もあるということでしょうか。何かしらの課題感を持ちながら、テレワークという新しい働き方を推進していかなければならない、そんな状況ではないかと思います。
最後4つ目の質問、これは1つに答えを絞るのが難しい設問だったかもしれません。回答で多いのは「リモート環境下での個人と組織のつながりの強化」。物理的に離れる時間が多くなるので、その中で個人と組織のつながりをどう強化するか、このあたりにご関心があるということですね。次に回答が多いのが「働き方が多様になる中でのチーム創り」。これはつながりとも関連しますが、より小さな組織の単位で、どうチームを作っていくか。離れている中で、いい連携をしていくためには、従来のチーム創りとはやり方が異なるだろうと、皆さんが感じているのではないでしょうか。
withコロナ時代は組織を「自立・分散」「フラット・オープン」へ
結局、今起こっていることって何なのだろうかということです。
キーワードだけ申し上げると、「自律・分散」「フラット・オープン」の方向に組織を変えていく必要性が出てきたということです。元々はデジタルトランスフォーメーションが進んで、じわじわと変わらなければいけない状況だったのが、今回の新型コロナの影響で、「働き方」のところで急速に変わる必要性に迫られ、組織が「自律・分散」にシフトしようとしています。しかし、そうはいっても組織は、この左側にあるような「ヒエラルキー・サイロ」になっている企業が多いので、この変化にどう適応していくかというのが、今起こっている大きなテーマであり、問いだと考えています。
そのような状況も踏まえ、この後の対談では、以下の2つの点についてお話していきたいと思います。
1.自律分散型にシフトしている組織に何が起こっているのか?
2.自律分散型へ適応していくための鍵は何か?
1つ目の「組織に何が起こっているか」については、アトラエ様がさまざまなデータを取っているので、この直近のデータも踏まえながらお答えいただきたいと思います。2つ目の「鍵は何か」については、エンゲージメントをどう高めるかというアクションや、やるべきことを整理する時のヒントなどをお伝えしていただけたらと思います。では、川本様、よろしくお願い致します。
川本周氏(以下、敬称略):株式会社アトラエの川本と申します。今日は2つの観点から本題について考えていければと思います。1つ目は、私たちアトラエという自社の組織運営からの観点です。アトラエは「高い意欲を持ったメンバーが無駄なストレスなく、どういうライフステージであっても生き生きと働き続けられるような、そんな理想の会社をみんなでつくっていこう」というところを非常に重要視している会社です。
分かりやすい例で言うと、出世や肩書き・役職と言う概念がなかったり、評価に関しては、自分が指名した5人からの評価によって自分の半期の評価が決まる360度の評価を取り入れていたりと、最近の言葉でいきますと「ティール型」の組織であり、まさに「自律分散型」、「ホラクラシー型」の組織を自ら運営している会社という観点がひとつあります。
2つ目が、今回のキーワードにもなっている「エンゲージメント」を簡単に可視化できるツール「wevox(ウィボックス)」を自ら開発・運営しており、様々なユーザー企業様のエンゲージメントを活用した組織改善の取組みをご支援させていただいている観点です。この2点から本日はいろいろとお話ができればと思っています。
「エンゲージメント」とは何か?
エンゲージメントとは、仕事の活動水準自体が高く、認知としては心地よく思っていて、従業員の皆さんが熱意や活力を持って、主体的に生き生きと働いている状態(下図の右上の状態)のことを表しています。
ですので、従来、重要視されてきた組織が待遇や環境を与えるという発想である「従業員満足度」でもなければ、個人そのものが感じている「モチベーション」とは異なります。「エンゲージメント」とは、会社と従業員の間に紐付く、繋がりの強さ、結びつきの強さ、ここがエンゲージメントの正体であると考えています。そのため、組織やチームのパフォーマンス向上に最も有効な指標であると言えます。
「エンゲージメント」と「職場」の関係性を数値化
私たちが提供しているエンゲージメントを可視化できるツール「wevox」は、まず、エンゲージメントを9つの要素に細分化し、「仕事に対して感じるエンゲージメント(仕事ドライバー)」と、「組織の理念や文化、環境に対して感じるエンゲージメント(組織ドライバー)」に分解します。ここから、「エンゲージメントと職場の関係性」について、いろいろなことが分かります。
まず、「離職率との関係」が分かります。
今、wevox上に保有をしているデータで、100点満点中60点後半が全社の平均点になりますが、そこに対して、15点高い層か15点低い層かで、これぐらい離職率の差があることが分かっています。
また、「生産性との関係」についても、いろんな企業様とエンゲージメントのデータを使って共同研究をさせていただいている中で、エンゲージメントを向上させていくと、「売上伸長率」や「受注率」の向上につながっていくことが分かってきました。
また、新卒1年目の社員を、いろいろな会社様のデータを取り出して、月次で分析をしたところ、4月が一番高い状態で始まって、5月ぐらいにガクッと下がって、10月ぐらいに本配属でまたガクッと下がることが分かりました。
これをさらに各社別、職場別、チーム別、個人別に追いかけていき、可視化することで、社員の仕事のパフォーマンスにつながる重要な先行指標になると思います。
また、これは数千名規模でご利用いただいている企業様と共同研究させていただいた中で、「1on1とエンゲージメントの関係性」も分かるようになりました。
1on1を1か月から2か月に1回程度実施しているチームの方が、エンゲージメントのスコアが良かったというのが分かってきました。また、1on1の中で、プライベートの話をしている方がよりエンゲージメントが高いことも分かりました。
「テレワークとの関係性」で言うと、10年ぐらい前の研究で、週に2.5日以上テレワークをすると同僚との関係性が悪くなっていくのは分かっていたのですが、それを改めて私たちのデータで研究をしますと、テレワークを導入すると、チームワークや組織への共感性が非常に下がっていくことがデータ上で分かりました。さらに、新卒メンバーや異動者など、新しい環境下のメンバーに関しては、テレワークが重なると、仕事への熱中度も下がっていくことが分かっています。
それに対しての打ち手という部分で、オンライン下であっても、1on1であったり組織方針を繰り返し明確化していくことによって、エンゲージメントを向上させることが分かってきたりしています。
まとめさせていただきますと、テレワークを導入しただけですとエンゲージメントは、チームワークや組織への共感度という部分で悪化する傾向があります。また新しい環境下、新しいメンバーといった状況が重なりますと、エンゲージメントがさらに悪化する場合があるということです。ただ、そこに対して何も打ち手がない訳ではなく、対話や目的・意義、whyの部分をしっかり伝えていくことによって、エンゲージメントの維持向上ができるというのが分かってきています。
「自律分散型」の変化に適応するための鍵は何か?
では、「鍵は何か?」というところですが、これは「自分たちのエンゲージメントを高められるチームを、自分たちでつくること」だと思います。組織という大きな括りで全てを考えるのではなく、自分の半径5メートルのような小さい区切りでいいので、自分たちのエンゲージメントを高められるチーム・職場を自分たちでつくっていくこと、これに尽きるかなと思います。
では、チームをつくったあと、どうやってエンゲージメントを向上していけばよいかと言うと、wevoxのような可視化ツールを使って見える化(Check)するだけではダメで、その見えたものに対して、「そもそもチームはどうあるべきか?」「なんで今このような状態になっているのか?」という対話や議論(Review)をチーム内で繰り返していただきながら現状を認識し課題を特定し、自己理解、相互理解を深め、「じゃあ、こういうことをやってみよう」と改善に繋がる取組みを実行(Action)することが非常に重要だと考えています。
また、注意すべき点として、会社の経営層や人事の方のみがエンゲージメントを見える化してアプローチをかけても、正直、あまりエンゲージメントのスコア向上には結び付きません。管理職やメンバーが参加して、自分たちのチームに対して「どうやったら日々いいチームづくりができるのか?」と言う対話や振り返りを繰り返している企業様の方が圧倒的によくなるというのがデータ上でも分かっているので、このような動きが自律分散化の変化に適応するためには非常に重要だと思っております。
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