堀義人のダボス会議2020速報(5)今年の5つの発見

記念すべき第50回ダボス会議が1月24日(金)に閉幕した。「持続可能かつ凝集性が高い世界に向けたステークホルダー」という統一テーマで開催されたダボス会議は、結果的には「気候変動」と「ステークホルダー」の2テーマが中心となって議論されてきた。

気候変動問題については、企業を含めて投資家等が「環境に配慮した企業姿勢」を競って披露している感もあった。マイクロソフト社が「2050年までにカーボンネガティブになる」とダボス会議に照準を合わせて発表し、世界最大の資産運用会社であるブラックロック社もESGを基準にした投資をすると宣言した。

ESGは、GPIFの水野弘道氏が率先して世界に広めてきたコンセプトだ。一方のステークホルダー資本主義は、「三方よし」に基づく日本企業そのものの考え方である。「やっと世界は日本的資本主義の良さを認識したのか」、というのが率直な感想だ。そういう意味では、日本は登壇者が少ないながらも存在感はあったと言えよう。

ただ、企業経営についての議論は、ほぼ全てがESG絡みだったのが、むしろ物足りなさを感じた。ESGとは全く関係ない「21世紀の経営」というセッションでも、企業CEOがいかに環境を考えているかを競って披露している姿は、滑稽にすら感じた。最新の経営潮流などを聞けるのかと思って参加したのに、残念であった。それもある意味では気候変動問題に対する危機意識の表れなのであろう。

ダボス会議2020で学んだ5つのポイント

今回、僕がダボス会議で学んだポイントを以下の通りまとめてみたい。

1)気候変動問題に取り組む民間企業の姿勢に比べ、CO2削減に向けた国際的な枠組みづくりの議論には本気度は感じられなかった
グレタ・トゥーンベリさんが登壇したパネルでは、10代の女性が強い口調で、大人のグローバルリーダーを叱りつけている構図だった。「今すぐ全ての化石燃料の使用をやめよ!虚しい議論は結果が出ないと意味がない。私の世代は諦めることはない」。

一方、叱りつけられた格好の大人達のパネル討論は、正直言ってがっかりした。大体以下の構図に分かれている感じだ。

・警鐘を鳴らし、何もしないことを叱りつける役割の人(ただし解決策を出さない)
・他に責任転嫁して(アメリカがやっていない等)、やらない理由を列挙する人
・ビジネスパーソンとしてやれることだけ最低限行い、満足している人
・自らは実行しないけど、もっともらしく再生エネなどの解決策を提示する財団の人

最も憤りを感じるのは、原発の議論が出てこないことだ。CO2が問題ならば、CO2を削減する最も現実的な解決策である原発を強く提唱すべきなのに。だが質問しても、「技術のことがわからない」と逃げられたり、論点をすり替えられ「核のゴミの問題があるから」と言い訳されたりして、即座にその議論は終了だ。地球環境の敵であるCO2を本気で解決する気があるのか、と強い憤りを感じた。

2)世界を牽引するリーダー国が見つからない
米国からトランプ大統領が参加した。だが、彼は一切グローバルへの貢献は語らず、弾劾裁判や米国選挙を意識してか自らの国内の実績を誇示することに終始した。そして、ダボス滞在の多くの時間を世界のトップ企業のリーダーと会うことに使い、米国への投資などへの協力を仰いでいた。全てが、「アメリカファースト」なのである。

一方の英国はボリス・ジョンソン首相が、「ビリオネアとシャンパンを飲んでも意味がない」と全大臣にダボス会議への不参加を指示したと言う。ダボス会議の参加者が大事にしているグローバリズム、つまり自由貿易・多国主義的な考え方が、世界を牽引してきた米英の現政権トップから消え去ってしまったのは、悲しむべきことだ。

米英以外の国はどうであろうか。中国は序列7番目の副首相を派遣したが、「どうせ中国のプロパガンダを、紙を読み上げて喋るのだろう」とダボスでは話題にすらならなかった。ドイツのメルケル首相が参加したが、レームダック状態で関心も低く、フランスのマクロン大統領は国内問題を優先して欠席だった。

我らが日本はというと、国会の関係で大臣の参加者はゼロである。今年のG20の議長国は、カショギ氏殺害やジェフベゾスのハッキング事件で揺らぐサウジアラビアだ。

世界を牽引するリーダー国が見当たらないのが、残念なところだ。

3)ダイバーシティがさらに増し、パワーや信頼が分散している
今回目についたのは、ダイバーシティが増した点だ。10代のグレタ・トゥーンベリさんがセッションのキーノートに抜擢され、10代のパネルセッションがあった。「今日のダボス」を紹介する動画には20代の若手ユーチューバーが解説していた。

さらには、女性トップが圧倒的に増えた。IMF長官、米国ナスダックCEO、ウォルマート社長、IBM・ペプシコ・GM社長、ヨーロピアンコミッション代表、ネイチャー誌編集長、さらには30代のフィンランド女性首相が登壇するなど、女性がセンターステージに位置するのが普通になっていた。クリスタルアワードの受賞者は3人が女性で1人が黒人男性だった。

ダイバーシティが増しているのと同様に興味深いのは、エデルマンの信頼度調査によると政府・企業・メディア・NGOなど全ての組織に対する信頼度が落ちている点だ。組織の信頼度が落ちる一方で、友人、上司、隣人など身近な人への信頼度が上がっている。

メディアや組織よりもローカル、あるいはSNS等の個人の口コミの方が、信頼が厚くなっている。中央集権的な構図から個人連携的な方向へとパワーが分散していることがわかる。

4)ハラリ氏の警鐘:グローバル問題の解決はグローバルな枠組みが必要
ユヴァル・ノア・ハラリ氏の指摘は的を射ていた。「アメリカファーストということは、間違っている。全ての問題は、一国では解決できない。アメリカは世界全体を視野に入れてリーダーシップを発揮してきたが、今は利己的な一国主義となった。今は、壊れた家にみんなで住んでいるようなものだ。自分の部屋を綺麗にしても、家全体を誰も修繕しなかったら、数年後に壊れるだけだ」

唯一の超大国であるアメリカが一国主義に陥っていては、もはや世界のリーダーシップを発揮することは期待できない。中小国の連携によって、水平的に仲間を増やしていくことが必要になるであろう。

僕が個人的に期待するのは、ヨーロッパ+日本の枠組みだ。なぜならば、ヨーロッパは(英国を除き)、地理的に近接し歴史的にも一国主義でなくて多国主義で意思決定することに慣れてきたからだ。一方、日本は単独で主張すると唯一の同盟国である米国の意向を意識せざるを得ない。だが、ヨーロッパと連携すると矢面に立つことも少なく主張しやすい。

今後はヨーロッパ+日本が世界の集団的な意思決定へと導くことができたら一縷の望みが見えてこよう。気候変動問題、デジタル課税、デジタル通貨等でも連携して進めていくことを期待したい。

5)ダボス会議の重要性を再確認できた
今回ダボス会議は、50回目を迎えた。「グローバルな問題はグローバルな枠組みでしか解決できない」という意味でも、「世界の状態を向上する」というミッションを掲げるマルチステークホルダーの集いの場としてのダボス会議は、さらに重みを増していくであろう。理由は明白だ。ほぼ全てのステークホルダーのリーダーが来ているからだ。

国際機関に加えて、政治・ビジネス・NGO・アカデミック・メディア・宗教等ほぼ全てのジャンルのトップが集結している。このダボス会議で解決できなければ、世界問題の解決は困難であろう。

そういう意味でも、シュワブご夫妻の貢献には頭が下がる。

思い出すのは、2007年のサマーダボスでシュワブ氏と日本代表との少人数の会合に招かれたときのことだ。「世界経済フォーラムは中国やインドでも開催している。でも日本ではイベントを開催していない。ぜひ日本でも開催して欲しい」と直訴したことがあった。シュワブ氏の答えは、「あなたがやったらよいではないか」だった。

その一言がきっかけの1つになって、2009年にG1サミットは始まった。G1サミットは「日本を良くすること」を目的にマルチステークホルダーの会合を過去11年間開催してきた。確実に日本は良くなってきたと実感している。

まずはG1を通して日本を良くすることに微力ながらも尽力したうえで、「世界の状態を向上する」ダボス会議にも今後とも参加し続け、自らができることを少しずつでも実行していきたい。

2020年1月26日
自宅にて
堀義人

 

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