4月は日本の多くの会社にとって年度替わりの月です。毎年この時期、社名変更を行う会社もいくつか見受けられます。著名なところでは、新日鉄住金が日本製鉄へ、三井生命が大樹生命へと名前が変わりました。
企業が社名変更する理由・目的とは?
社名を変更する理由や目的は、各企業さまざまのようです。たとえば、日本製鉄は「鉄鋼メーカーの国際競争が激しくなるなか、日本発祥の製鉄会社という立場を明確にする」(2018/5/16付 日本経済新聞)、大樹生命は三井グループから日生グループ傘下に移ったことで「三井」の名前を使い続けることが難しくなり、もともと同社の主力商品の名称だった大樹を社名にも採用したと言われています(2018.11.9 Diamond Online記事等を参考)。
社名変更によるお金の出入りを具体的にイメージする
さて、ある会社が社名変更を検討するとして、「やるべき/やるべきでない」をどんな観点から判断するのでしょうか。もちろん何らかの理由・目的があるからこそ社名変更をするわけですが、既に内外に定着している名称を変えるわけですから、何かとコストもかかりますし、せっかく築いてきた知名度やブランドをある程度捨ててしまうことになる恐れもあるでしょう。そんなマイナス面よりもプラス面のほうが大きいと、どうやって証明するのでしょうか。
DCF法とは
一般に、ある投資プロジェクトの価値を評価するためのフレームワークとして「DCF法」があります。
DCF法とはディスカウンテッド・キャッシュフロー法の略で、ある資産や投資が将来生み出すキャッシュフローを予測し、それをリスクに応じた割引率で現在価値に割り引いて、合計額がその資産や投資の価値だとする考え方です。主に株式や不動産など資産の価値(価格)を算定する際に使われますが、ある投資プロジェクトの価値をDCF法で求め、そこからその投資プロジェクトの初期投資額を差し引いてプラスかマイナスかを見ることで、その投資の可否を判断できるというわけです。
DCF法の活用を具体例で考える
それでは、社名変更についても一種の投資と捉えて、その価値を算定することはできるでしょうか。投資に伴うキャッシュアウトの方は具体的に見積もることは可能そうです。看板や書類の書き換え、情報システム内の社名部分の改修、新社名周知のための広告等が該当すると思われます。
ここでのポイントは、社名変更することによって、しなかったときと比べて追加で発生するキャッシュアウトをカウントするという点です。たとえば社名入りパンフレットを毎年印刷していて、仮にこれに年1000万円かかる見込みとします。しかし、旧社名のままだとしてもパンフレットは同じだけ刷るのだとしたら、毎年1000万円のキャッシュアウトと見るべきではありません。あくまで社名変更で「追加で」いくらかかるか、を勘定に入れるのです。
次に、キャッシュイン、すなわち社名変更によってキャッシュが増える方の見積もりはどうでしょうか。これはなかなか一筋縄では行きそうにありません。たとえば、新しい社名は覚えやすい。将来的には今以上に知名度が向上する。ひいては売上アップにつながり、結果としてキャッシュフローも改善する――といったシナリオを描くことはできるかもしれません。それにしてもシナリオ通り実現するかどうかは不確実ですし、キャッシュフローが具体的にいくら改善するのかに至っては、仮定に仮定を重ねたものになってしまいそうです。
しかし、仮に数値化は非常に困難だとしても、DCF法の根底にある考え方、すなわち投資によって将来もたらされるプラスの価値を現在に引き直し、その総計こそが投資の価値だと評価するという枠組みは、無視することはできません。もし「損」になるのだとしたら、なぜみすみすその施策を行うのか、投資家への説明責任の問題にもなります。たとえ数値化は困難でも、社名変更の将来のメリット(もしくは変更しないことのデメリットの回避)を見込むのか、そのインパクトはコストと比べてどうなのか、考えを巡らしてみましょう。
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