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ゲームチェンジの時代に必要な組織改革とリーダー育成とは?

投稿日:2019/04/17更新日:2021/10/19

前回に続き、先日グロービス経営大学院東京校で行われたセミナー「ゲームチェンジの時代に求められる組織改革とリーダー育成」の内容をお伝えします。パネリストは、武田薬品工業株式会社のグローバルHR人材・組織開発(日本)ヘッド・赤津恵美子氏と丸紅の人事部長・鹿島浩二氏、モデレーターはグロービスの西恵一郎です。(全4回)

人だけでなく文化も変える

西:タケダさんと丸紅さんのチャレンジについてお話しいただきましたが、一方で、新しい方向に進むときは元に戻ろうとする力もすごく大きくなると思います。そのあたりも含め、ゲームチェンジをするために組織をどう変えていくのか、そこでキーとなる個人の行動をどう変えていくのか、そのためにどんな仕掛けを講じていくのか、伺ってみたいと思います。

まずは赤津さん。お話を伺って、高い成果を生み続ける組織をつくっていくために、規律や責任をガバナンスにしっかり組み込んで組織を変えていった。それがグローバルに通用するメガファーマーをつくるポイントでもあると理解したんですが、いかがでしょう。

赤津:おっしゃる通りだと思います。シャイアーを買ったからということではなく、1990年代からグローバル化を加速し、2014年時点で、外国人社長が誕生し、7割が海外で働く従業員になりました。こうした状況で、人事制度の基本は2つあります。ひとつは、「Pay for the Job」、つまり、報酬は年功や職能ではなく、職務(その範囲の広さや難易度)で決まること。つまり、「この仕事は誰がやってもいいが、こういう成果を出すこと。そのためにはこういう能力や経験が必要」とジョブディスクリプションで規定しています。また、職務権限も明確で、誰がどこまで決めることが出来るかも規定されています。たとえば「部長はいくらまで決済できる、このクラスの採用は誰の承認が必要」という具合です。そうした権限規定とジョブディスクリプションによって、その人にどんな仕事が期待されているかが明確になっているわけです。

そして、評価は「実力主義」です。期待される成果に対して、どの程度達成できたのか、その達成度が問われることはもちろん、どれだけコンピテンシー(戦略性、コラボレーション、周囲の巻き込み、など)を発揮したのか、も加味して評価されます。

また、年度目標を設定した後にも、重要で新しい仕事はどんどんやってきます。ですから、周辺エリアに仕事がきたら、一々指示されなくても、それを拾いにいくことが期待されます。そこでもし利害が衝突するようなら、「あなたはここまで。私はここまで」と、関係者で話し合います。スピークアップが重要ですし、ロジカルで分かりやすい説明が求められます。

西:タケダが本格的にグローバル化へ舵を切ってから約20年、ときには抵抗もあったのではないかと思います。それを現在のような、ジョブディスクリプションや権限規定に基づき運営できる組織にしていったポイントが何かあれば教えてください。

赤津:ここ20年ほどの市場動向を見ると、やはりアメリカと新興国が牽引していますから、そこで成長軌道に乗るために、チャンスを掴み、うまくマネージできるよう思い切って組織や仕組みを変えた、ということだと思います。エポックメイキングの1つとなったのがミレニアム社の買収です。ミレニアム社は当時、創薬のすごく良い“種”を持っていたとともに、1000人規模の会社でしたが社長が女性だったんですね。女性社長が率いる新進気鋭の製薬会社と、当時トップマネジメントは日本人男性ばかりというタケダが一緒になる経験だったんです。

タケダのほうは「実力に応じた人の登用」を掲げていましたが、そこまで多様な人材の登用はまだ進んでいませんでした。そこで、ミレニアム社を買った翌年から国連の「グローバル・コンパクト」に批准して、ダイバーシティを推進していきました。偏見や、本人も気づいていない無意識のバイアスを含めて、そういったものに立ち向かうと明言して、改革してきました。

西:単に人を入れ替えただけでなく文化自体を徹底的に変革なさったという。

赤津:はい。今やタケダの経営陣20名の国籍は11カ国、性別、経験も非常に多様なチームになっています。しかし、日本に目を転じると、管理職は40代以上の日本人男性が多く、まだ患者さんや医療関係者と同様の多様性は実現できておらず、最適な意思決定のためには、さらなる努力が必要だと思っています。

西:鹿島さんはいかがでしょう。優秀な人がいても上意下達文化のなか、機会がなかなか回ってこなかった。そこでくすぶっていたものがうまく形になるよう、内側から変化をつくり出していく。今はそれが組織行動として少しずつ定着している段階との印象を受けましたが。最近の活動をどのように総括していらっしゃいますか?

鹿島:今日ご説明したような各種取り組みは2018年4月にはじまったものですが、もう1つ、2017年4月から進められていたことがあります。「海外の取引先企業は大変な危機感を持っているのに、なぜ日本では危機感がないのだろう」という経営陣の思いから、全部長と社長が参加するセッションを開催しました。本社には部長が80人ほどいるのですが、1回あたり10人で8回。金曜午後から研修センターに入って社長と部長が膝詰めで議論をして、翌日に振り返りを行うというセッションです。

そのときに出た「こういうアイディアはどうか」といった話が、今日お話ししたような取り組みの、1つのベースになったと思います。そこで出たアイディアで実現したことも結構あります。部長としては、議論したことが実際に起こるんだという感覚を持ってもらえたと思います。また、社長は2016年頃から自分の考えを動画で発信するようにもなりました。それまではメールでテキストを送っていたのですが、「これ、届いていないんじゃないの?」ということで。そのなかで各種の新しい取り組みを匂わす発言をされたりして、全体として「新しい取り組みが生まれるのかな」という雰囲気がでてきました。

また、「やりたい」という気持ちをどう開放したかに関して言うと、もともと商社というのは何もつくっていませんので、逆に言えば何をやってもいいということにもなります。その意味で、「何かをやりたい」と考えて入社してくる人は結構多いので、その点はあまり心配していません。あとは、やりたいことを実現するための「場」や機会を提供しようと取り組んでいった結果、思っていたより大きな爆発につながったのかな、と思います。手挙げ式を貫いている点は1つのメッセージにもなっていますし、今のところはそれがいい形につながっていると思います。

組織変革に対してトップが強いコミットメントを示す

西:両社とも、トップが強いコミットメントを示したことで変革が大きく進んだのではないかなと感じます。トップの決意を感じた瞬間のようなものがもしあれば教えていただけますか。

鹿島:2017年から始めたセッションで部長と社長が話すのを横で見ていると、やはり社長が何を考えているかがよく分かってきます。そういう機会が年8回もありましたし、また、その場で「じゃあ何をしようか」という具体的な話になったりもしましたので。では、社長がどうしてそうした危機感を持つようになったかと言えば、中からではなく外からの刺激があったからと思いますので、その危機感をいかにして社員と共有していくかがポイントだったと思います。

赤津:昨年 5月連休明けの全社員向け・ミーティングで、社長のクリストフが「シャイアーの買収」について話をしてくれました。メディアでも取り上げられるようになってきた頃で、「皆さんもいろいろ不安に思っていることがあるだろうし、新聞にも出たから外で聞かれることもあるでしょう」と。かなりチャレンジングなM&Aであることは承知のうえで「いろいろ考えた。そのうえで勝算があるから行う」という確信と、社員から挙がってくる質問に真摯に答える姿勢にはとても感動しました。複数の外資系企業を経験しましたが、買収にあたってここまで従業員に丁寧にしかもタイムリーに説明する企業はタケダが初めてでした。従業員をとても大切に思っている、という社長の気持ちはすごく伝わってきました。

西:よくこういう話をすると、「うちの経営者は違うんです」と言われるパターンも結構多いんですが(笑)。でも、経営者にどういった情報を入れていくかは、結構大事だと思いますし、それを繰り返していくことで、経営者の感覚が変わる瞬間はあると思います。

赤津:情報を共有することで経営者に対する従業員の信頼や会社へのロイヤリティは高まります。それを多忙でも時機を逃さず実行するところにトップの決意を感じました。

個人のキーパーソンをどう育てるか

西:変革に向けて個人のキーパーソンをどう育てていくかというお話も伺いたいと思います。まずは鹿島さん。お話を伺って、丸紅さんの変革というのはミドルからエバンジェリストをつくりあげる動きであると感じました。ミドルが躊躇せずエバンジェリストとなるためには何がポイントになるとお考えですか?

鹿島:そこは本当に大きな課題です。従来の人事制度や組織体制を継続していては、以前から続く文化をブレイクスルーすることもなかなかできないですから。そこで、「じゃあ、今までとは違う場をつくろう」と考えたのが今回の取り組みでもあると思っています。あと、「このままでも5年ぐらいはいけるだろう。だから部長たちはセーフ。でも、そのあとの世代はいままでやってきたことの継続では生き残っていけないのだから部長たちは少なくともNOから入らないでくれ。下の人間の話は聞いて、ある程度はやりたいことをやらせるということを徹底してくれ」と、社長はよく言っています。

西:部長たちは納得しているんでしょうか。

鹿島:メッセージとしては分かっていても、それを行動に落とし込めているかどうかは、分からない部分もあります。ただ、それをやらないと会社が存続しないという危機感は、ある程度は共有できているように思います。会社が160年続いてきたのは時代に応じて形を変えてきたからですし、その先で「今度は自分たちが変わる番なのかな」と、頭では分かっていると思います。あとは、それをどう行動に落としていくか。我々としては、そこで背中を押すような仕組みを設けることが大事になると考えています。

西:エバンジェリストの方々が収益の柱をすぐつくれるわけでもなく、多くの場合、既存事業の方々が収益をあげていると思います。その辺はどのようにバランスを取り、併存しながら進んでらっしゃるのでしょうか。

鹿島:今日は丸紅の在り姿について「タテの進化とヨコの拡張」というお話をしましたが、イノベーションだけを考えるならヨコの拡張だけで新しいものを掛け合わせていけばいい。でも、営業本部が強くなるというタテの進化との両輪で、初めて会社として生き残ることができるというメッセージはしっかり出していきたいと考えています。新しいことだけをやっていればいいという話でなく、「本業をしっかりやって専門性を身に付け、それを使って新しいことをやってください」と。逆に言えば、忙しくて15%ルールを使えない人がダメという話ではまったくなくて、そこは必ず尊重しています。

西:鹿島さんとしては何年ぐらいで変わっていくと想定していらっしゃいますか?

鹿島:タテとヨコはミックスになると思いますけれども、今はそもそもベストミックスがどうなるかも分かっていない状態です。ただ、社内におけるヨコの拡張によって何かが爆発的にできるのは、少なくとも5年とか、そういう時間軸で続けていって、それで初めて結果が出るのかなと思います。

西:続いて赤津さん。タケダは各層のトップが組織を引っ張っているという印象を改めて持ちました。となると、優秀なトップをいかに維持し、増やしていけるかが、今後成長していくうえですごく大事になると思います。そのためのポイントを教えていただけますか。

赤津:医薬品にはビジネスの“サイクル”があり、開発から上市までは約10年と長く、創薬の成功率は1万分の1といわれています。こうした中、患者さんのアンメットニーズに応える薬を出し、デジタルを使った新しいビジネスモデルも構築していかなければいけません。

そこで、試みのひとつとして、トップタレントの力を活用して、イノベーションが起こせないかと考えています。会社のことをよく知っており、貢献意欲も高い人材が、他部門や社外講師や外部人材との交流から刺激を受け、何かを作り出す経験をすることで、視野が広がり、人脈ができていく。

トップタレントのユニークな視点や発想をビジネスプランに発展させ、経営層に提案する。そうすると、「これは面白い」ということで、予算や人員をつけて実現しよう!というものも出てくると思うんです。そんな風に、タレントの力を利用して次のビジネスの種をつくることも考えていますので、個人的には丸紅さんの「ビジネスプランコンテスト」、とてもやってみたいと感じました。

チャレンジに関して言うと、提案を事業化するまでには相当なハードルがあると思います。ですが、筋のよいものは事業として成り立つレベルまでブラッシュアップし、そのうえで事業としての運営体制を整えるという、2段階ぐらいに分けて何か仕組みをつくることができたら、と考えています。

西:トップタレント育成で注目している点はありますか。たとえば「9ボックス」の「9」に来る方というのは、どういうところが優れているとお考えでしょうか。

赤津:重要なのは「チェンジ」の要素だと思います。今の時代は変化がすごく大きい。シニア・リーダーであれば、まずそうしたチェンジをリードすることができることが重要です。なぜ変化が必要なのか、どう変わり、何を得るのか、一方、変化に伴うリスクは何で、どうすればマネージできるのか、といった戦略を立て、それを語って周囲を巻き込んでいくことです。そして戦略を描き、ストーリーで語る力も今、強化しようとしています。

残念ながら、日本人でこれがすごく上手い人は、まだ少ないと感じます。しかし、経営層になったら、この能力は必須です。たとえばシャイアーを買収し、さらなる成長をどう描くのか、そして、株主に対して「こうやって成長していくから大丈夫です。投資してください」と、自信を持って言えなければいけない。限られた時間で説明して株主の方々に納得していただくには、かなりの戦略とストーリーテリング能力が必要です。

西:我々もいろいろな会社の経営幹部とお話をしていますが、日本人の経営幹部に最も足りないものの1つは将来を構想する力だと感じています。もう1つが志。自分が何をしたいのか。「知と軸」で言えば「軸」のほうですね。そういった力は、今までの日本的な経営配置や役割付与ではなかなか生まれにくかったという実感も持っています。ですから、そこは日本全体の課題という気がしています。

赤津:そうですね。課題が明確に示されないVUCAワールドで「重要な課題はこれ」というwhatを見つけ、「こういう風にやればさらに成長できます。だから、ついてきてください」と自信をもって言えること。しかも、短時間で将来行くべき道を示すことができるという力も、今までは弱かったように感じます。

そこで、先日スタートしたトップタレントの育成プログラムで、皆がまず取り組んだのは、「1秒で反応すること」でした。たとえば、「何か質問はありますか?」と言われたとき、すぐ手を挙げる。それで頭が動き出すんです。「いい格好をしよう」「間違ったことを言わないように」と考えると手が挙がらなくなる。だから「ここは安心・安全な場なので、まずは手を挙げましょう」と。

多様性の中で育成する

西:鹿島さんはいかがでしょう。グループ内外の方をまぜこぜにして、人の交流を通じてアイディアを生み出す。それで反応できる人を見つけて、新たに配置をするという育成方法を取っていると感じましたが。

鹿島:いろいろな人を掛け合わせることで何か新しいことができるという発想から、アカデミアはできるだけ多様な顔ぶれにしたいと思っています。最近は経営層も強くダイバーシティを意識していて、女性にフォーカスした日本的ダイバーシティでなく、「丸紅グループにはいろいろな人がいるのだから、もっと活用できないか」という話になっています。たとえば研修として行っているナショナルスタッフのワークショップでも、国内グループ会社の人と海外の人を混在させています。それなりの苦労はありますが、それでも何かが生まれているという感じはしています。

西:どちらの企業にも、ソーシャルラーニングや多様性のなかで人を育成するというこだわりを強く感じました。今はメンタリングや人事交流、さらにはフィードバックといったことが以前にも増して重要になってきたと感じます。

鹿島:やはり経験が人を育てる面はすごく大きいと、我々も考えています。その意味で言うと、もっと幅広い経験をしたいと思っている社員が多いことも今回は改めて感じました。社外人材交流やトライアングル・メンターもすべて手挙げでやっていますが、思った以上に手が挙がりました。結局、今まで人事部は社員のそうした思いに応えることができていなかったのかな、と感じました。ですから、会社が機会を与えたというよりは、もともと社員が求めていた場を設定しただけという感じなのかもしれません。

実際、社外人材交流に参加している人間と話をしても、当社のなかにいるだけではできない経験をしていると感じます。おそらく、そういう経験を求めていた中堅や若手は、そのまま「ホーム」のなかにいるよう言われていたら辞めていたのではないかと思います。ですから、上司を説得するときは「この人が辞めてもいいのですか?」「それよりこういう経験をして戻ってきてもらったほうが、短期的なP/Lでは厳しいかもしれませんが、中長期的に見たらいいのではないですか?」という話をしています。

赤津: 中長期的な視点は大事ですね。ダニエル・キム氏の人間関係の質と仕事の質の因果関係はよく知られています。仕事の質を上げるには、人間関係をよくすることから始めるべきで、それができれば、良い考えも浮かぶようになるし、それを実行しようと行動の質を高まる。結果として成果につながりやすくなるという理論です。いきなり成果だけを求めて「やりなさい」と言っても関係が良くなければ声がけにおわってしまう。一方、良い関係が出来ていれば、率直に自分の考えを言ったり、素朴な質問をしたりすることができるので成功の確率が高まるでしょう。

育成プログラムの場がまさにそうです。打てば響くし、健全な野心を持っていて、20代でも「社長になりたい」なんて話をする人が集まっている。実際の職場でそういう話をすると「意識高い系ね」と引かれてしまうかもしれない(会場笑)。でも、本気でそう思っている人たちの中で言うと、響く。そういう環境で、多くのフィードバックをもらえるのが自己認識にとってはとても効果的なわけです。

また、もし部下が「海外で活躍したい」「社長になりたい」と言ってきたとき、上司にそういう志向や海外経験がなくても、実際の経験者につないでもらえればよいのです。上司は全部回答しなければ、と思う必要はありません。VUCAの時代、すべての答えや情報を一人が持っているなんて事はありえません。ですから、つないであげるということが上司の仕事であり、従業員は、社内でも社外でもどん欲に、自分から動いていくことが大事であるということを、いろいろな場面で発信しています。

第4回 イノベーションを起こすために必要な育成とは?

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