先週、三菱重工がMRJの資産4,000億円を損失なしで資産減額する、というニュースが報じられました(参考:MRJ消えた4000億円 三菱重工、損失なしで資産減額)。この意味を理解するためには、IFRS(国際財務報告基準)と減損会計の理解が必要になります。少し突っ込んだ内容になりますが、今回はMRJの減損損失4,000億円の行方について説明したいと思います。
減損処理について
減損会計は、日本基準にもIFRSにも適用されていますが、減損判定のプロセスが以下の点で異なります。
日本基準では、減損の兆候(例:継続的な営業利益、営業キャッシュ・フローの赤字)が認められる場合、対象となる固定資産から得られる将来の稼ぎ(将来キャッシュ・フロー)を見積もり、「将来キャッシュ・フロー<簿価」かどうかをチェックします。「将来キャッシュ・フロー<簿価」の場合のみ、減損処理が必要になります。
IFRSでは、減損の兆候が認められる場合、ダイレクトに減損損失の測定をします。日本の減損の判定プロセスの方が1ステップ多いことが分るでしょう。例えば、事業リスクを考慮した割引率を10%とすると20年先の5,000億円の現在価値は745億円程度になります。仮に三菱重工のMRJの簿価が4,000億円、MRJから得られる将来キャッシュ・フローが5,000億円とすると、日本基準であれば減損は不要(簿価<将来キャッシュ・フロー)ですが、IFRSでは減損が必要となります(4,000-745=3,255億円:減損損失)。
※厳密には将来キャッシュ・フローの現在価値と正味売却価額のいずれか大きい方と簿価の比較になります。
IFRSについて
IFRSの適用初年度には、以前からIFRSを適用していたと仮定して過去の財務諸表を作成し直す必要があります。とはいえ、過去の毎期の財務諸表をすべて修正する必要はありません。
具体的に説明しましょう。三菱重工は、2019年3月期からIFRSを適用予定ですので、開示対象は2019年3月期とその前期の2018年3月期(比較期間)の財務諸表になります。したがって、2018年3月期の期首(=2017年3月期の期末)の財政状態計算書(IFRSでのB/Sに相当する財務諸表)にそれ以前の日本基準とIFRSとの差異が累積的に集約されることになります。
三菱重工は2019年3月期からIFRSを適用するため、具体的な会計処理は現時点では明らかではありません。仮に、IFRSに従って判定すればMRJの減損は2019年3月期ではなく、2017年3月期以前に既に必要だったと考えるならば、MRJの減損損失はIFRSでの開示対象となる2018年3月期及び2019年3月期の損益計算書には計上されないことになります。IFRSであっても減損損失は営業費用、つまり損益計算書に計上されますが、IFRS適用初年度に限っての例外的な取り扱いと言えるでしょう。
この場合、MRJの減損損失はIFRS移行日である2018年3月期の期首の利益剰余金へ含められます。日本基準での2018年3月期の期首の利益剰余金とIFRSでの2018年3月期の期首の利益剰余金を比較するとMRJの減損に相当する金額の違いがあると思われます。