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テクノベート時代のリーダーに求められるスキルとは?

投稿日:2018/07/19更新日:2023/07/18

前回に続き、5月29日に行われた杉山知之氏のご講演「テクノベート時代のリーダーとは~ デジタルハリウッド建学者が描く未来 ~」の一部をお届けします。(全3回)

どうしたら気持ち良く人生を送れるか?

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田久保善彦氏(以下、敬称略):杉山先生、大変楽しいお話、ありがとうございます。中国古典の『荘子』では、「“遊び”というのは神様や王様のような存在とのセットでしか使われない動詞で、一方、人間のほうは“働く”という言葉としかセットで使われない」といった話を読んだことがあります。

まさにAIとロボットが日常の仕事をすべてやってくれる結果として、ようやく人間が、クリエイティビティだけに生きることができる。だから『荘子』で言うところの“遊び”というか、究極的に人間のクリエイティビティを使う場所に、やっと行けるのかな、と。今日は「仕事を取られちゃう」といったようなお話よりもそんなワクワク感をお伝えしたかったのかなと感じました。

杉山:結局、どうしたら自分が気持ち良く人生を送っていけるかという話になるんですよね。その意味で、これからは教育も変えていかないといけないと思います。「お金やモノのために働くことは辛いことである」みたいな考え方でなく、「お金を稼ぐために働くのは超楽しい」でもいい。働いてはいるけれど、それをゲームのようにして「毎日ゲームじゃん」と。そういうベンチャー企業の社長、いくらでもいません?

その下で働いている人たちも皆そうかというと、そうでもない会社はありますが、全体としてはそういう方向になる。だから、それができる人は早めにそちらを向くこと。「地球に生まれ育った人間にどこまで可能性があるか」といったことをもっと追求すべきなんだと思います。そうでないと、他方では崖っぷちのように、滅んでいく方向も見えているわけだから。人口は増えているし、すごく解決しにくいことも目の前にはある。

でも、目の前の1つひとつであっても、地域ごとにという話であっても、なんとかやれている例を出していかないといけない。それは1つの会社でもいいけれど、「こんなやり方もある。こんな風に生きる方向がある」というのを出していかなければいけないんだと思います。今、日本の学生は未来のことを聞かれてもディストピアのようなものしか思い浮かばない。大人たちがそんな感覚だから。でも、それじゃあ生を受けた意味がないというか。

クリエイターの働きやすい環境とは?

6田久保:今のようなお話って、今後の世代における1つのリーダーシップのありようなのかなと思います。会場にいらっしゃる方々は、基本的にはビジネスマネージャーであり、ビジネスリーダーです。ですから、「売上をつくらなきゃ」「コストを削減しなきゃ」「新しいビジネスをつくらなきゃ」と思って頑張っている方が多いと思うんですね。

一方、先生の学校に通っていらっしゃる方々はいわゆるクリエイターで、今後はそうした方々のビジネスに占める割合や役割がどんどん広くなっていくと思います。そういったクリエイターの方々により高い付加価値を出してもらうため、「こういうリーダーシップを発揮しないとうまくやっていけないよ」といったアドバイスがあれば、ぜひ伺いたいと思います。

杉山:「働き方改革」を1つのチャンスにして、人事制度も根本的に変えたほうがいいんじゃないかなと思います。普通の管理の仕方では彼らは力を発揮できないので。

たとえば「この時間だけいてくれたらいい」というコア時間の形態であっても、「縛り」としては大き過ぎるぐらいかな。要するに、ある程度は自由にさせてあげる。そうして彼らなりに裁量を持てるような契約形態にする必要があると思います。

ただ、毎年の更新だと不安になっちゃうので、その辺を人事制度でうまくできればと思います。たとえば「夜中でないと良いデザインができない」という人間だっていくらでもいるわけです。それを「昼間にやれ」と言っても、できないものはできないんですよね。そこに理屈はないんです。本人の気分や感覚があるので。ですから、今までのように組織にデザイナーを入れて、「うちにはうちのやり方があるから馴染んでね」というやり方だと、結局は離職してしまう。そこが難しいと思います。

田久保:制度面を整えたその次の課題として、その人たちに離職せず会社に居続けてもらう、あるいはその人たちのパフォーマンスをより良い状態に持っていくため、ビジネス側としてはどういった配慮が必要になるでしょうか。

杉山:クリエイターには、それなりにわがままなところもあります。ですから、たとえば「複数仕事をしてもいいよ」「この会社以外で仕事をしてもいいよ」といった話をうまく入れていくとか。もちろん自社にとってすごく大事な人なら契約金を少し増やして、なるべく囲うようにするという考えもあります。ただ、少し“旬”が過ぎてきたら、たとえば「外の仕事もやっていいよ」なんて言いながら距離感を上手につくるといったやり方もあると思います。

彼らは彼らで別の環境に行けばそれまでと違うタイプのクリエイティビティを発揮して、フリーランスとして稼ぐかもしれないので。そうして、調子が良いときにまた戻ってくる、みたいな。そんな風にして自由に出たり入ったりしつつ、信頼関係でつながっているという方向にしたほうがいいのではないかなと思います。何十年も同じクリエイターを抱えている状態で、彼らが同じようなパフォーマンスを発揮し続けることはあまりないので。

田久保:そういった意味で今後求められるリーダーシップ像について、デジハリさんのなかで研究や議論をするようなクラスはあるんですか?

杉山:大学院で研究開発に携わっている人々がどんな風にしているかというと、皆、それぞれに本職を持っています。そのうえで、夜な夜な集まってプロジェクトに参加している。ものになるまでは身銭を切って続けるというようなタイプなんですよね。

それで物事がある程度動いたら、「じゃあ会社をつくろうか」といったことになったりもします。本当に離合集散タイプ。「プロジェクトがうまくいくまでは手伝うよ」なんて言って、ハッカークラスのプログラマーが参加したりするわけです。それが終わると、彼らは運用なんていうことはまったくやりたがらないから、システムが動いたら「じゃあね」と言っていなくなっちゃう。でも、そういうやり方を認めなければスピードもなかなか保てない。

田久保:クリエイターの能力を引き出すという意味で、参考になる組織はありますか。

杉山:僕が内部まで知っているところはほとんどないですが、自分の経験としてはMITメディアラボに3年いました。そこからクリエイティビティが失われない1つの秘訣は、小さな建物のオープンスペースにさまざまなバックグラウンドを持つ人がいたことだと思います。そういう環境でコントロールしているんですよね。互いに秘密をつくらない。クライアントには一応契約書を書きますが、その小さな研究所のなかでは、スポンサーがついている研究等についても自由に情報共有させておく。それによってクリエイティビティが失われないというのがありました。

ですから、そこはデジタルハリウッドでも少し取り入れています。それぞれ異なるバックグラウンドを持つ多様な人々に、なるべく小さく、かつオープンな場所で働いてもらうという意味で。うちの教員も自分の部屋は持っていませんから。大部屋だけで。

田久保:そこはグロービスも同じですね。大部屋に教員の皆がいます。

杉山:いいですね。そうすることで背景の異なる先生たちが話し合って勝手にプロジェクトが起きたりするので。特にプロデュース系の先生と技術系の先生で話をしたりすると、新たなものができたりします。でも、自分の研究室に籠もって自分のゼミ生を囲っていたりすると、1つの分野や学会における研究は深まるけれども、「で?」という話になっちゃうんですよね。

田久保:やはり人は小部屋のようにパーテーションで仕切られたところから、最後は大部屋のフリースペースに戻るのでしょうか。生で触れ合うというか、リアルに会話して空気を感じて…。

杉山:もちろんVRがその部分まで今はカバーしようとしていますが、VR空間だって、結局はアバターになって誰かと会う場所として機能する面がかなり増えると思います。その意味で、マネージャーが「皆で一緒にわいわいやる」ということを楽しく演出すれば、そこからプロジェクトが生まれて進んでいく。皆それぞれ人脈を持っているから、「それなら僕の会社にこういうことをできる友だちがいるから、その部分を頼んでいいですか?」と、そんな話がすっと出るような場にするわけです。「そのほうが社内でやるより安いし早いし」といった話になると、アメーバ的に組織ができます。プロジェクトが終われば解散するけれども人脈と信頼関係は残る。そうしたことをうまくマネジメントできる人が良いリーダーになるんだと思います。

田久保:2年ほど前、シリコンバレーでFacebookの新しい本社ビルを見せていただいたことがあります。そこは2フロアか3フロアぐらいしかなくて、やたらと横に広く長い建物だったんですね。なんのパーテーションもなくずっと向こうまで見渡せ、よく見ると中央のガラスで囲まれたような空間にザッカーバーグさんがいて。まさに先生がおっしゃったような状態で、あるグループがミーティングしているその隣で、別のグループもミーティングしていました。Facebookもそんな風にして物理的にコミュニケーションを誘発するようなことをやっているんだな、と。

テクノロジーの流れを知る

7田久保:エクスポネンシャルな成長に関連して、「Chaos」や「Amazement」として受け取られるようなものが、今後は当たり前の領域としてビジネスやサービスに落ちていくというお話がありました。実際、そこに対する理解がないと新しいビジネスをつくれないということは、すでにはじまっているように思います。では、ビジネス側にいる人間はどれほどのレベルを分かっていないと、クリエイターやプログラマーといった方々と議論をして次の新しいビジネスを生み出すことができないのでしょうか。

杉山:結局、きちんとした進化を続けているので、歴史的なことが理解できると意外と先も見えてくるところはあります。今ここで「この本を読んだらいいよ」というのは出せませんが、僕自身も読んできた本で、技術サイドでなくとも読み込めるコンピュータの歴史的な本はいくつかあります。どんな人がどんな気持ちで、どんな技術をつくろうとしたかという歴史ですね。そこで何を夢見ていたのかといった話を追っていけば、「結局はこういうことなんだな」というのが分かると思うので。そうしたコンピュータの歴史、あるいはそれに関わってきたキーパーソンの話というのはすごく役に立つと思います。

田久保:温故知新ではないですけれども、昔のことも知って、「流れ」を知るというのが重要ということですかね。

杉山:僕も以前『デジタル・ストリーム―未来のリ・デザイニング』(NTT出版)という本を書きましたが、大事なのは「流れ」です。技術を詳しく知らなくても流れを見れば、誰でも「あ、こっちに進んでるんだ」と分かるから。デジタルの世界も同じです。今を知っても仕方がないんですよね。今は明日の過去だから。今のことを分かっても、それは明日には古くなる。ですから、どちらを向いているか知ることが一番大事になります。

田久保:ちなみに、先生ご自身はこれから先の時代を感じ、かつ流れを読んでいくうえで、日々どういった情報を取っていらっしゃるんでしょうか。

杉山:僕自身がデジタルに関わってきましたから。今の、たとえばAIについても自分が使いこなすことはしていないものの、「昔やったことがこういう風に発展して、今はこういう風になっている」というのは分かっています。ここまで来ちゃうと、今は逆に「人間の性能」というものに興味があったりします。いろんな意味でその“性能”がどれほどまで高まるんだろう、とか。あるいは、認知としてどういうものがあるのか。そんな風にして少しずつ、たとえば脳とか、そういう領域に興味が湧いたりしているんですかね。

それからもう1つ、普段から自分に対する刺激として、本物のアートを観るといったことはしています。

田久保:やっぱり「インスピレーションを求めて」といったお話なのでしょうか。それとも、シンプルに刺激を求めて行かれるのでしょうか。

杉山:人間の広がりや深みといったものに感動するというような感じですかね。「すごいな」という、その感覚を大事にしたい。ビジネスでもそういうものをつくっていかないと、お客さんは動いてくれないですよね。皆さんもデザインについて「シンプルで美しい」というものを感じることは多いと思いますが、そのデザインを見て「すごいな!」って感じるかというと、それほどは思わない。でも、それだとこれからはダメだと思うんですよ。たとえば「やばい!」って、最近の子は表現しますよね。そんな風に心を動かさないといけない。だからコンテンツ制作者を目指している若い子には、「君たちに教えているのは人の心を動かす技術だ」という話もしています。

でも、自分の心が動かない人間には人の心を動かすことだってできないじゃないですか。だから本物のアートを観る。好みもあるから、実際に観てみたらつまらなかったとか、自分に合わなかったというのはあります。それはそれでいいんです。でも、「行って観てみたらとんでもなかった。凄かった」と言って震えるようなものがあるわけですよね。そこを大事にするという感覚です。

田久保:では学生の方々にも「いろいろ観に行くように」といったことを…。

杉山:もろろん。今の子は言わないとそういうことをなかなかしないというか、すべてネットで完結しちゃうところがありますから。今の18歳、大学1年生ぐらいになるとネットの検索能力がめちゃくちゃに高い。検索で調べるのが早いのはもう当たり前なんですが、加えて今の子は深く調べます。それで結構きちんとした論文に辿り着いたりするからびっくりしますね。「ゆとり教育」以降の世代ですから、その辺の影響はあるかもしれません。スマホも子どもの頃から使っている世代ですから。スマホが登場してもう10年立ちますし。

田久保:質問をもう1つだけ。「すべてをエンターテインメントにせよ」というのはすごいメッセージだと思います。ただ、メッセージとして伝えるだけだと、学生さんたちも何をしたらいいのかピンと来ない人はいるんじゃないかとも思いました。具体的にアウトプット、たとえば卒業制作やビジネスモデルとして出すようにさせるため、どんな刺激を与えていらっしゃるんでしょうか。

杉山:そのあたりは教員がそれぞれに解釈します。「すべてをエンターテインメントにせよ」というのが壁に大きく書いてあるので。それを「学生が楽しく学べるよう教える」という風に受け取ったり、学生が提出してきた課題について「これを観た人が喜ぶと思う?」という問いかけをするという風に受け取ったり。そういったことを地道にやっていくことで、学生も分かるようになると思います。

たとえば僕の授業では「役所に行って手続きするのって、楽しい?」と言っています。「文書も難し過ぎて分からないよね。ああいうものもエンターテインメント化するんじゃないの?」と。それで楽しく文章を読んで絵を眺めて「あ、そうなんだ」と、何か楽しく書き込んでいるうちに複雑な事務処理も終わっていた、みたいな設計をする。「そういうことのほうがインテリジェントとしてレベルは高いんじゃないの?」といった話を地道にし続けています。

田久保:その先に、最近の言葉で言えばUXやUIがあって、それがプロダクトになるという。原点には心の動きがあるということですね。ありがとうございました。

執筆:山本 兼司

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