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運命を受け入れ、歴史をつなぐリーダーの極意

投稿日:2018/04/13更新日:2019/04/09

前回は、「おかげ横丁」を運営している有限会社伊勢福の橋川忠宏社長に、伊勢参宮街道の賑わいを取り戻し、活性化に成功した極意を教えてもらった。今回は、地域活性化に取り組む橋川氏の志や想いの背景、今後の展開について伺った。

強烈な信念ではなく、運命を受け入れる

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林:おかげ横丁の経営では非常に苦労されたと思いますが、橋川さんを支えた思いはなんですか?

橋川:それは考えたことないですね。私は運命を受け入れるほうで、「伊勢に生まれた」という運命を尊重しています。好きだとか嫌いだとか、いい思い出があるとかないとか、そんなこと関係なしに、私は自分の家に生まれ、その家は伊勢にあり、伊勢の学校に通ってこの地域の人たちと友達になり、いろんな人たちに育ててもらったと。そして18歳のときにそこを飛び出したという、これは変えようのない事実なので。

恩義があるから何か尽くしたいとか、大切な人がいるから尽くしたいとか、ということではなく、この地域の仕事をするのは運命的に当たり前、そういう感覚です。「私は日本人です」というのと似ていて、多くの人は別に日本が好きだとか嫌いだとか関係なしに、自分が日本人であることを受け入れて生きていますよね。そんな感覚で地元とは付き合っていて、「頑張ってくれてありがとう」と言っていただくような、特に貢献する姿勢は出してないです。

林:大学卒業後、松下政経塾に入られたと聞きました。パナソニックの創業者であり、松下政経塾の創設者でもある松下幸之助さんから、どんな影響を受けましたか。

橋川:かなり同じ思想を持っていたなという感覚はあります。自分の成功や自分の満足のために仕事するのではなく、世の中に尽くすとか役に立つとか、本来あるべき姿やビジョンを指し示すとか。松下幸之助は「国家百年の計」と言っていましたけど、そういう考え方はもともと私も持っていました。それと人間の本質、つまり本来人間が持つべき人間観を持って物事を処さないと、間違った行動をしてしまうような経営観を松下幸之助さんは持っておられるんですけど、自分もそうだなと思っていました。こういう、後追い的に「僕もそう思っていた」という感覚はすごく多かったです。

たとえば「ダム式経営」って当たり前のことだと思います。でも企業経営の中で「ダム式経営」なんて言う人は少ないですよね。いかに融資を受けて最大の投資をするかという時代の中で、余裕をもった経営をしていかなきゃ駄目だと言っていたわけですね。これも正しいと思う。それから「無税国家」っていう考え方があって、国家がなんらかの収益を得る手段と費用を賄えるだけの経済力を持てば、国民から税金を取らなくてもいいかもしれない、あるいは少ない税金でいいでしょっていう発想って間違ってないですよね。

九州の脊振村(現神埼市)では、明治時代に徳川権七という村長が国から山林を譲り受けて、それを100のエリアに分けて毎年1区画ずつ植林をしてったんですね。100年たつと100年前の植林地を伐採して、村の財政に充てるということで、100年周期の収入源となる森林を持っていたんです。戦後外材が入ってきて国産木材の価格が下がったので、それだけで財政を賄うことができなくなったんですけど。それでも教育関係や住民の福祉のために充てる財源として、その森林からの収益を使って村の運営に役立てていたそうです。これは小さな無税国家の試みです。

林:理念の浸透に多くの時間を費やしていらっしゃるのは、松下幸之助さんの影響でしょうか。

橋川:はい。PHPの考え方の普及に本当に力を注いでいらっしゃいました。終戦後、国民が貧しい生活をしておるときに、小鳥たちが何事もなかったように元気に飛んでいる姿を見て、「どうして人間は苦しまなければいけないのか」と思い、PHP運動を始めたと聞いています。その運動をやりつつ企業経営をしながら、最後は政治と経済についてのあるべき姿を実現しようとして、その一環で松下政経塾という人材育成機関を作って。そういう生き方っていうのは、私も非常に参考にさせていただいている気がします。

林:松下政経塾にいらしたときに考えた「どういう人生を送りたいか」と、今の橋川さんが思っている「どういう人生を送りたいか」に、違いはありますか。

橋川:まだ真っ最中で、そういう総括する発想がないですね。40年前にも、もちろんどういう人生送ろうかなんて考えなかったですし。とりあえずやれることをかなり限界近くやってきた感覚はあるんですけど。

林:ご自身の中で、いつぐらいになったら評価できそうですか?

橋川:それを考えると止まっちゃいそうで考えてないですね。私が仕事を始めた頃は、ワークライフバランスは発想になかった時代でしたから、ストレスで腰が痛いとか肩が痛いとか、胃がおかしいとか首が曲がらなくなったとか、そんなのいっぱい抱えていて、でもやんなきゃしょうがないからやろうか、みたいな形でやっていて。

特にこのおかげ横丁をつくる5年間ってすごかったんですよ。当初三十数店舗を一気に作りました。私が直接担当していたのが十何店舗かあって、店の姿がはっきり見えてきたのがオープンの1年半前ぐらいですね。本当に忙しくて、「もう一回やる?」って言われたら、絶対やらない、それぐらい大変だったんです。

とはいえ、何かしてないと自分が落ち着かないみたいなところがあって、そういう達成感っていうものが今も続いています。ちょうど今私は60歳で、役員してなかったら定年なんですよね。最近は65歳まで再雇用されますが、その頃まで仕事しているのかなとか考えると自分のパワーが落ちてしまうので、極力考えないようにしています。

林:まさに、真っ最中ですね。

橋川:はい。積極的に従業員を大切にする経営であるとか、顧客と良質のコミュニケーションが取れる経営だとか、あるいは世の中と共感できるものを持っている会社になるとか、そういうことがこれからの仕事だと思っています。それはぜひやり遂げたいなって気持ちがあって、売り上げを伸ばすとか経営を安定させるっていうのは1つのステージが終わったような気がするので、次はそういう企業の質的改善をやってみたいですね。

地域活性化を一生懸命実施している方に一言

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林:地域活性化のために活動されている方たちに、応援の一言をお願いします。

橋川:精神的にも、暮らし文化という形の上においても伊勢の独自性っていうのは守っていきたいなと考えています。しかし、一方的にわれわれがそうありたいって言っていることが、全国、あるいは世界の方々に対して、どういう説得力を持つのかと考えると、もしかすると、それは伊勢の人たちの特殊な問題でしょっていうことで、関係のないものとして位置付けられてしまうのが一番怖いと思います。

そういう意味においては、京都などの有名な観光地は、かなり懐が広い。伝統もちゃんと持っているけど、同時に多種多様な人や考え方を受け入れるものを、都市として、あるいは地域として持ってると感じますので、そういう柔軟さは伊勢の町にも必要なのかなという気がしますね。

だからマーケティングで言えば、マーケットインということなんでしょうけど、今の消費者が何をもって伊勢に着目していただけるのかということをよく研究して、少しでもご要望にお応えできるような試みを伊勢の町としてやってかなきゃ駄目だと。でもそのことが、伊勢の個性を奪うことになってもいけないので、いわばプロダクトアウトとマーケットインのバランスの取れた町の経営っていうことを考えていかないと駄目なのかなっていう感覚で今はいます。

おかげ横丁がおかげ横丁であるための導入基準って僕は言うんですけど、品質基準とは別に採用すべきかどうかを判断する基準のことで、それは多分に感覚的なんですよね。だからブルーはいいけどレッドは駄目だとか、模様なしはいいけど模様付きは駄目だとか、そういうことじゃないような気がするんですよ。

この点は今の日本社会は全く解決方法を持ってないですね。おかげ横丁は私を含めた数名の方向を決める人間がコンセンサスを見つけて、これでいこうっていうことを決めていますけど。そういう意思決定の機関を持たない組織、つまり地域社会だとか、あるいは企業でもそういうことに関心が薄い企業だと、文化やアイデンティティーの喪失を招きかねないので、日本社会はすごく危ないところにいるじゃないかなという気がします。

林:この地域をこれから先永続的に発展させていく上で、数値化できないものもコミュニケーションの中で伝えていこうとされているのですね。

橋川:私も永久に今の仕事をしているわけじゃないので、世代交代もいつか出てくる。そうすると、想定される後任の者に対して、特に重点的に自分の考え方を伝えるということもやっていかないといけないと思います。

それからもう1つ、1年間、私が赤福の理念の書のようなものを朝礼で読んでいたのと同じように、おかげ横丁の理念の書というものをつくって、文字で残せるところは残すと。文字にしちゃうと本質がずれるということを言われる方がいらっしゃるんですよ。だけど、何もないよりは多少でも手掛かりを残したほうがいいだろうと私は思うので、そういう理念を文字にして残すということはこれからやっていきたいなと思っています。

林:本日はありがとうございました。

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