新・新興国のリーダーに必要なのは「風を感じる力」―ミャンマーでビール事業を成功させるために 

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日系企業の海外投資案件は必ずしもうまくいっているケースばかりではない。むしろ、買収先を高値でつかまされ、大きな損を出すといったニュースも多い。海外で事業を成功に導くのは、並大抵の努力ではない。まして、ミャンマーのような新・新興国では、いったいどのような苦労、そして楽しさがあるのだろうか。2015年にミャンマービール(MBL)を買収し、ミャンマー市場に果敢に向き合っているキリン。そのキリンからMBLに社長として出向し、リーダーシップを発揮している南方健志氏に ミャンマーでの事業に求められるリーダー像とは何か伺った。同氏から何度も出て来たキーワードは「風を感じる力」であった。

キリンがミャンマービールを買収した背景や、初期の成功の要因は?

周到な準備とトップのコミットメント

日本国内のビール事業は縮小が見込まれるため、アジアやオセアニアなど成長マーケットへの展開は喫緊の課題だ。その流れの中で、ミャンマーのMBLについての情報は以前から得ていた。ミャンマーのビール市場は近隣の東南アジア諸国に比べ成長余力がとても大きかった。1人当たりの年間の消費量は周辺国では30~40リットルあるのに対して、ミャンマーは6リットルに留まっていた。また、ミャンマーの政治体制も開放に向かうことが見込まれていた。かかる状況下で、MBLは非常に強いブランドを持っていることも分かっていたので、条件が整ったと判断し事業に踏み切ることとなった。

買収後は、キリングループが持っている資産を的確なタイミングで的確な形で投入できた。 2015年8月の買収後、翌、2016年3月には、一番搾りとミャンマープレミアムの2つのブランドを市場に出すことができた。工場の生産能力の向上、技術陣のサポート、開発力、マーケティング・ノウハウの適時提供と、目に見えて成果を出すことができた。これも事前の情報収集がしっかりしていたからこそだ。

初期の目に見える分かりやすい成功により、現地の社員の信頼を早期に獲得できた。加えて、キリンの本社からだけでなく、オーストラリア、フィリピン、ブラジルなど他の海外の投資先も巻き込んでノウハウの共有や 学びの場を提供できたことも、グローバル企業としての信頼感を増幅させた。買収前は、日本にビール会社があることさえも知らなかった現地の社員が、安心して、キリンと一緒にやろうという機運が生まれた。

大企業は海外で小回りを利かせにくいが、矢継ぎ早に手を打てたのはなぜか?

買収案件に対する明確なポリシー「経営と現場の一体化」が社内で共有されていた

トップマネジメントに、国内・海外を問わず、グループの持つ経営理念、達成すべきビジョンが実現するチャンスがあれば、資源を投入して事業を創りたいという強い意識があり、重要市場ミャンマーで必ず成功事例を作るという決意があった。そして、失敗も含むこれまでの経験から、海外に打って出るときは何を大事にすべきかについて共通の理解があったことが大事なポイントだ。

買収に際しては、(1)自分たちの強みが活かせるか (2)自分たちがハンズオンで経営できるか(製造現場や市場で何が起きているのか、お客さんがどんな価値観を持っているのかを直接把握できなければならない)(3)どれだけ新しいお客さんを作ることができるのか、の3つを重視する。

他方、キリンの考え方を一方的に押し付けるのではなく、彼らのいいところをちゃんと理解し、背中を押してあげる形をとることも大事だ。ミャンマーの人々は真摯に学ぶ姿勢があり、MBLには非常に質の高い人材が多かったことも成功を後押しした。

要は、どの国で事業を行うにも、どれだけ「経営と現場が一体化」できるのかを見極めることが鍵となる。言いかえると、現場に入り込んで、市場をちゃんと理解し、競合を知りつくせるかということだ。

どのようにして人材を育成しているのか?

=トップ自ら範を示し、そこから感じとってもらう

トップ自らがあるべき姿を体現することが最も重要だ。トップが動かないと部下も動かない。「自分自身が必ず現場を見る」「現場にあるヒントを自分自身が感じ、自分自身で気づきを得る」「風を感じる」ことが大事だ。トップが机上で理解したつもりなるのが一番怖い。異国でビジネスを行う際には肝に銘じるべきである。

次に、ミャンマーのような新・新興国で仕事をする際には、上から目線になってはならないと言っている。ただでさえヒエラルキーを大事にする文化があるので、対等な目線を意識しないと、意見や考えを引きだすことはできない。現場から意見を吸い上げて、現場を理解するためには、上への慮りがない会社にせねばならない。リーダーには、協調性、相手を理解する力、コミュニケーションする力が必須だ。こうした感覚は、若いうちからこちらに来て「感じ取ってもらう」ことで成長して欲しいと考えている。

幸いミャンマーのオペレーションは、サプライチェーンが全て揃っているので、将来のリーダー候補にとっては、いい学びの機会となる。成長市場には多くの可能性があるので、自ら様々なやり方を試して、自己成長してもらいたい。

リーダーとしての自己成長の方法論は?

=物事への興味・関心を高めることで、五感を研ぎ澄ます

私は不器用で、機転のきくタイプではない。だからこそ、「自分が感じる」「現場の感覚を自分で掴む」「実態が伴っているかを見る」ことをいつも心がけている。私はビールの酵母の香りをかぐのが好きだ。酵母の色を自分の目で見て、手で触ってみるというのが原点にある。自分の五感全てで感じとるということが習慣として今でも自分の中にある。五感で感じ取ることができると、意思決定の際にそのシーンが自然と目に浮かんでくる。そのためリアルに意思決定ができ、間違った判断が起きにくい。

私は製造現場でこうしたやり方を叩きこまれて育ってきた人間だが、営業においても同じだということが分かった。お客さんの状況やパートナーとの連携の在り方などが映像として浮かんでくるようになるまで、自分で感じ取ることを課している。

ところでどうすれば五感で感じられるようになるのだろうか。物事に対する「興味・関心」を持つことだと思う。私は、昔から虫とか生き物が好きだった。大学では微生物の研究を行い、バイオテクノロジーを学んだ。興味・関心がないものを感じることはできない。逆に言うと、経営者は興味・関心が持てないものを経営してはならないと思う。

日本のビジネスパーソンにメッセージを!

=どこにいても自分のスタイルを確立することを目指せ =

私は、日本にいてもミャンマーにいても自分のスタイルは変えていない。私のスタイルは、現場に出て現場を理解することだ。それは日本にいてもどこにいても学べることだ。私の経験からすると日本でやれる人は海外でもできる。自分の仕事に対する信条や判断軸というのは、日本でも海外でも変わらないはずだ。

従い、私はどこにいても仕事をする上で「変化の風を感じる」ことを大切にしている。風を感じるようになるまでの努力は、地味だし、時間もかかる。今は、仮想空間で仕事をスピーディに効果的に進める世の中になってきているが、メーカーには最後はモノをお客さんに届けるというリアルな接点が付きものだ。リアルな接点では、五感を研ぎ澄ませて自身で感じることがいつの時代でも求められると私は思っている。

私の夢は、「自分の力を活かせるところがあれば、様々な場所で救いの手を差し伸べ、多くの人の役に立つこと」だ。知的な話ばかりではなく、現場の実態をどう経営に繋げていくのかをこれからも意識して仕事に臨みたい。

【ポイント】
・経営と現場が一体化できる環境を作れるかがM&Aの成否を分ける
・リーダーには五感で「風の変化を感じる」力が求められる
・興味・関心のあることに地道に向き合い続けることが、感じる力を高める

 

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