幅広い有権者がオバマ支持で連帯
バラク・オバマ氏が次期大統領として選出された。米国中の、いや実際には世界中の多くの人々が、米国の有権者が彼を選択したことを喜んだに違いない。まさに米国にとっては歴史的な瞬間であり、記念すべき選挙として何世代にも渡って後世に語り継がれることだろう。しかし、いったいどのような影響力が、オバマ氏の選出に働いたのだろうか。そして今、彼が進もうとしている道はどこへ続くのだろうか。
その答えを導き出す前に、まずは、選挙戦での事実に注目してみよう。オバマ氏を擁した民主党は、インディアナ州やバージニア州など、過去何十年もの間選挙で勝つことはなかった州を制した。今回オバマ氏への支持は国内全般に渡り、年代、性別、年収などあらゆる有権者層でリードを奪った。民主党は少なくとも前回より上院で6つ、下院でも20議席を増やしている(12月6日現在)。オバマ氏は、有権者から絶大な支持を勝ち取り、民主党を1964年以来の大勝利へと導いたのだ。
限られた期間での効果的な選挙戦の展開と選挙資金の獲得という点で、オバマ氏は革命的ともいうべき前代未聞の選挙キャンペーン組織を築き上げ、この偉業を成し遂げた。あらゆる階層の人々から、インターネットを通じて小口献金を集めるキャンペーン方式は、相乗効果を発揮し、かつては民主党が見向きもされなかった州でも接戦を繰り広げるまでに至った。ここに熱狂的ともいえるボランティアが加わり、何百万人もの浮動票にも声を届けることができたのだ。組織力と資金力を生かし、人々を次々と巻き込んでいく「地上戦」を展開、彼を支持する票へと変えていった。
株式市場や住宅市場が破綻し、数十年ぶりの経済危機という状況ではあったが、それさえもオバマ氏にとっては選挙を有利に運ぶ要因になった。このような経済不況は多くの有権者に、「国は間違った道へ踏み出そうとしている」と考えさせた。慌てた様子を見せたマケイン氏に対し、オバマ氏は冷静に振舞い、「危機に対応できる人物」との印象を与えることができた。
オバマ氏への支持は、女性と男性、郊外と都市部、高学歴者層と低学歴者層と各層に広がったが、特筆すべきなのは、若年層での支持者が多かったことだ。オバマ氏は30歳以下の有権者の支持を65%以上獲得、30〜44歳の有権者層の中でもマケイン氏に7ポイント差をつけ、45〜59歳の有権者層では互角の戦いをした。唯一リードを許したのは60歳以上の有権者層だけだった。押し寄せる大波のような支持は、まさに彼を勝利の岸へと導いたのである。
オバマ氏は世界に希望をもたらすか?
それでは、今、何が起ころうとしているのだろうか。来年の1月に大統領に就任するオバマ氏は、これからの数カ月の間、政権移行準備チームを組み立てていく。また、彼は閣僚を指名する準備を行い、立法の概要作りにも携わる。上下院議会での民主党の勢力が強まったので、オバマ氏は政権第一期では、自身の政策を実施するために十分な政治力を持つことになるが、一方で、彼の目の前に用意された皿には山盛りの問題が積み上げられている。経済危機、住宅価格の急落、イラクとアフガニスタンで続く戦争への対処。彼には無駄にできる時間など残されていない。
オバマ氏は、やや中道左派的な政治スタイルをとりつつも、すべての党派に耳を傾けるよう手綱を握り、政治的理念よりも事実や証拠を重視して政権運営を行っていくとみられる。不確実な経済問題では、市場への規制をより強めるだろう。アルカイダに対する戦いを継続しながらも、イラクなどに海外派兵されている軍隊を縮小の方向へと向かわせることだろう。彼の選挙公約によれば、米国のインフラ(鉄道など)整備や代替エネエルギーの研究事業への大規模な投資も期待できる。
オバマ政権下では、より融和的な(譲歩的なものではない)外交戦略が期待できる。政策を完結させるためにも、パートナーである諸外国との同盟や連携をさらに強めていくだろう。その政治手腕は、世界中から期待と疑念の眼差しで見つめられているが、その熱い眼差しを逆にうまく利用するはずだ。彼に向けられている注目の高さこそが、彼の政治的な資産である。当然、賢明に運用していく方法を考えていることだろう。
米国大統領選挙は、4年に一度開催される単なる儀式のようなものから、米国と世界の双方に深い意味を与える一大イベントへと形を変えてしまった。かつて、世界は懐疑的なものの見方やニヒリズムで覆われていた。しかし、今は少しばかり希望の持てる時代になったように感じる。オバマ氏を支持した人々の希望が叶えられたかどうかは、時が教えてくれるだろう。今はまだ、合衆国にとっての歴史的な一夜を多くの人とともに共有したこと、そしてその驚きと喜びをかみしめながら、過ごす時間なのだ。(英文対訳:関口治)