企業の経営理念としてのウェルビーイング
ウェルビーイング(well-being)は、世界保健機関の定義によれば、「身体的、精神的、社会的な側面すべてが満たされた状態」を指し、日本語ではしばしば「幸福」や「幸せ」と言い表されます。
近年、このウェルビーイングや幸福の概念は、個人だけでなくビジネスの目標としても注目されています。実際にトヨタ自動車、積水ハウス、ロート製薬などの著名な企業が、次々と経営理念にウェルビーイングや幸福につながる項目を取り入れ、掲げています。
働く社会人の「学び直し」
もうひとつ、グローバル化やデジタルトランスフォーメーションなどの急速な変化がある現代のビジネス環境において注目が集まっているのが、「働きながらいかに新たな知識やスキルを身につけることができるか」です。2022年10月3日に開催された第210回の臨時国会ではこのトレンドに合わせ、「個人の学び直し(リスキリング)を支援するために5年間で1兆円を投じる」と岸田文雄首相が発表し、学び直しを国の支援対象とする姿勢を明確にしました。
この「人生100年時代」において、学び直しは働く社会人にとって不可欠です。以前は学生時代に身につけた知識やスキルが一生有用と考えられていましたが、新たな知識やスキルが日々生まれている現代では、これらを常にアップデートすることの必要性もまた生まれています。
働く社会人は勉強している?学びによって幸せになっている?
ここで考えたいのが、この現代における2つの注目トピックの間にある関係です。一生涯学び続ける精神を持ち、自己の価値を高めるために努力することは、現代の社会人に必要な要素のひとつです。しかし、学び直しや学びの継続は、幸せに生きるために必要な要素と言えるのでしょうか。
日本において、働く社会人がどれだけの時間を学習に費やしているか、そしてその学習時間と主観的幸福度にどんな関係があるかについては、まだ明らかにされていません。そこで筆者は、日本の働く社会人について勉強時間の実態を調査し、個人の学習時間と主観的幸福度の関連性を明らかにするために、アンケート調査を行いました。
働く社会人の6割以上がほとんど勉強していない
まず、日本の働く社会人の1日あたりの平均勉強時間について調査しました。その結果、有効回答者985人のうち63.7%(627人)が「勉強時間0分」、つまり全く勉強していないと回答しました。全体の有効回答者985人の平均勉強時間は、1日あたり16.3分でした。 次に、性別と年代別で1日あたりの平均勉強時間を比較しました。その結果、60代の男性が1日あたりの平均勉強時間で最も長く、30代の女性が最も短いことがわかりました。
勉強するほど年収が高くなる
続いて、年収別に回答者を分類し、年収と1日あたりの平均勉強時間の関係を調査しました。 その結果、年収200万円未満の回答者は1日あたりの平均勉強時間が最も短く、年収1,000万円以上の回答者は最も長い平均勉強時間を持っていました。特に年収1,000万円以上の回答者は全体平均16.3分の約2倍以上の44.0分を記録しました。
毎日勉強する人は主観的幸福度が高い
最後に、1日あたりの勉強時間と主観的幸福度の関係を調査しました。
回答者を4つのグループに分け、それぞれのグループでの主観的幸福度を比較しました。その結果、1日あたりの勉強時間が0分のグループが最も低く、120分以上勉強しているグループが最も高かったことがわかりました。1日あたりの勉強時間が長いほど、主観的幸福度も高くなることが示されました。
まとめ
上の結果から、働く社会人において、日々勉強に時間を投資することには、幸福感の向上につながる可能性のあることが示唆されました。一生涯学び続ける精神を持ち、自己の価値を高めるために努力することは、幸せに生きるためにも大切な要素のひとつとなるのです。
年が明けて2024年になりました。新年の目標として、何か新しいことを勉強してみてはいかがでしょうか。本記事が、皆さまが勉強することを後押しできれば嬉しく思います。
<参考文献>
米良克美「働く社会人における日々の勉強時間と主観的幸福度の関係」グロービス経営大学院紀要2023年2巻 p.107-110