日本における「2025年問題」のひとつでもある、事業承継。地域を活性させるための社名公開型事業承継マッチングプラットフォームを運営する企業が、KIBOW社会投資が伴走するライトライトだ。
同社代表取締役である齋藤隆太氏と、同社投資担当者である松井孝憲、田村菜津紀による対談の模様をお伝えする。前半に続き、後半となる今回は、投資判断の前後で変わったこと、そして今後の展望を聞いた。(進行:知見録編集部)
KIBOWとの出会いで「誰のためにやるか」が決断できた
――KIBOWとの最初のコンタクトから投資の実施まで、10カ月近くの期間があったと伺っています。その期間の中で、ライトライト側で悩まれていたことはあったのでしょうか。
齋藤:KIBOWさんから投資いただくまでのプロセスの中で、自治体さんとの協業に振っていこうと意思決定したのですが、実はそこまでエンドユーザーのためにやるべきか自治体のためにやるべきか、迷いがあったんです。
自治体と組むとなると、頂ける予算や支援に年数の制限があることも多く、制約ができてしまう可能性があり、「投資家さんウケはしない」という面があることは理解していました。しかし、これまでの経験から公的な機関を巻き込みながら地域のためにいいことをしよう、という取り組みは得意分野だと思っていますし、本当に地域を変えるのであれば、自治体と協業することは必須だと考えていたのです。
なので今回、KIBOWさんというソーシャルインパクトファンドに出会い、自治体との協業体制を評価して下さるファンドがあったことは新しい気づきでした。だからこそ思い切って、そっち側にバットを振りにいこうと社内でも意思決定できたのだと思います。
今の地域は、事業承継の専門家の手を借りないと承継できない社会がほとんどですが、今後3~ 5年ぐらい経つと、僕らが提供するような裏側の支援サービスさえあれば、ほぼ地域の自治体や商工会だけで事業承継がなされていくようになると思います。さらに10年、20年経てば、承継を考える世代の経営者のデジタルリテラシーもまた全く違うものになっているでしょうから、そこではまた違うビジネスモデルが出てくると思うんですよね。自治体向けサービスに振ると決めたことで、Relayが進んでいく道がかなりはっきり見えたと思います。
――そのほか、他のVCやファンドから投資を受けたご経験と比較して、KIBOWという投資家へお感じの印象があれば教えて下さい。
齋藤:そもそも松井さんと田村さんのように、県外の方で宮崎に直接会いに来る方は居ないので、そこまでやるんだなと思いましたね。直接見てもらわないといいところが伝えきれないかもしれない、とは思っていたので、非常に嬉しかったですし、お2人の現地を見ての新鮮な反応は面白かったです。
また、例えばどんなファンドからも共通で聞かれるような「どうやって儲かるか」についてであってもKIBOWさんほど深く突き詰めてくださるところはなかったように思います。KPIを分解して数字を深掘りするというだけではなく、ライトライトがやろうとしていることを踏まえて、社会的なインパクトに関わる指標を深めていこうという発想で話してくださったのは、それまで数十のファンドの方とお話した中でも初めてでした。
儲かるか儲からないかだけでドライに判断するだけであれば、他にも投資先はたくさんある。でもそうではない価値にちゃんと注目して頂いて、リスクも踏まえて深く考え抜いてくださったのは、僕としてもすごくいい経験だったし、人間味を感じました。
関係者の反応こそが、企業/経営者としての実力を示している
――お2人の目から見て、齋藤さんという起業家あるいはライトライトという会社のポイントはどこにあるとお考えでしょうか。
松井:冷静に考えて、事業承継した人たちにその後の状況聞かせてください、アンケート取らせてください、とお願いしても、相手は大変だし、ものすごく面倒くさいんですよね。
ですが今回宮崎に足を運ばせて頂いたときのように、事業承継をした方々や承継先の方がちゃんと場と時間を取ってくださって、快くお話を聞かせてくれた。齋藤さんは当たり前ですとおっしゃっていましたが、そのこと自体が満足度高く、質の高いことをやってきた、素晴らしい実力のある経営者、企業体なんだということを示していると思います。
田村:関係者の方々へのヒアリングですごく印象的だったのが、「(ライトライトは)業界に風穴を開けてくれる存在」だとおっしゃられる方が多かったことです。そもそも、当初はオープンネームで事業承継をするということが本当に実現できるのか、と思われていた。この状況の中で、齋藤さんはビジョンを提示し、実際に成果をあげられてきたわけです。皆さんはその姿を見てきたからこそ、齋藤さんはビジョンを実現する力が強く、かつそれを地域の目線感で語れる、普通のスタートアップの方とは違う方だと口をそろえておっしゃっていました。
先ほど自治体との連携についても触れましたが、誰に対してもいわゆるスタートアップ的に横文字を並べて話すのでは真に対話ができません。齋藤さんは相手となる地域の目線で課題意識を共有して変えていくってことができる方であり、そしてこのスキルは新しい価値を実現される経営者の方にとってはすごく大事なのではないかなと思っています。
自分がやりたいこと、会社として進みたい方に向き直る機会に
――ここまで、投資決定に至るまでのお話をうかがってきました。実際に投資を受けてみて、会社や状況は変わったと思われますか。
齋藤:繰り返しになりますが、ロジックモデルの作成を含めたデューデリジェンスを経て「この打席に立って、ここで勝負していくべきだよね」ということに向き合えるようになりました。KIBOWさんには、会社の体質を変えてくれたことに感謝があります。
加えて思っているのが、ビジネスは「社会をこうしたい」という自分の意志から始めているのに、いつの間にかどう儲けるかばかり考えがちです。もちろん最終的には当然ビジネスとして成り立たせねばならないのですが、今回のやり取りを通じて、自分がやりたいことや、会社としてまっすぐ進みたい方向に向き直させてくださったように思うんです。これからもちょっと寄り道しそうになったら、目線を揃えてくださるような存在になるんだろうなという気がしています。
また、インパクト投資ファンドの資金が入っているということが、新たな行政との連携を交渉する際には信頼感に繋がっています。そういう効力が発揮できるのは嬉しいですよね。
――齋藤さんという経営者としては、初めてリードインベスターが入ってきて、取締役会に外部の人材が入ってきてというところで、心境の変化はありましたか。
齋藤:今のところはあまりありません。今後徐々に外部株主の方々が多くなってきて、段階を踏んで承認を得ていく必要性などは出てきましたが、そこまで抵抗感があるわけではないでしょうか。
むしろ、中のメンバーの気持ちや目線を、これからどう揃えていくかが重要だと思っています。僕自身はあまりこだわりが強い人間ではないので、比較的戦略や方針などは、フラットに考えて変えていける方だと思っています。そうではない役員陣やメンバーもいる中で、どう会社をより良い方向に向けていくか、ここは今後大変な部分もありそうだなと感じています。
地域を変え、ソーシャルインパクトスタートアップ界隈のリーダーに
――最後にお2人から見て今後のライトライト、齋藤さん、relayというサービスに対しての想いをお聞かせいただけますか。
松井:今回、デューデリジェンスの中でライトライトが創出する社会的なインパクトを僕らは理解したつもりだし、数字として見えるかたちにすることができました。今後もさらに、これからどんどん広がっていくインパクトを理解し続けたいし、それを一緒に発信していければと思います。
田村:まさにライトライトの取り組んだような、社会的なインパクトをIMM[1]で測定していくことは、これ自体がまだまだスタートアップ界隈の中で全然知られていない状況があります。私たちKIBOWが一緒に取り組むことで、ライトライトがこの領域のロールモデルとなって、ほかのスタートアップにも波及していくことができるんじゃないかなと思っているんです。ライトライトにはソーシャルインパクトスタートアップ界隈のリーダーになってほしいといったイメージももちながら、これからもご支援出来ればと思っています。
松井:インパクト投資業界では、やるべきだよねというフレームワークや方針は山ほど出てるんです。でも、実践できているプレイヤーは少ない。ライトライトがそういった意味でも、業界を変える存在になったら素晴らしいですよね。
ライトライトとはRelayとはこんな企業・サービスで、地方活性の切り札になりうる存在である、とプレゼンスを上げていく。そのための材料や考えるべきポイントは揃えられてきたので、今後は見せ方が重要になってくると思っています。
――齋藤さんから、今後の展望をぜひお聞かせください。
齋藤:現状、地方の小規模事業者の事業承継は、どうしたらいいのか分からない自治体や商工会の中で持て余されています。僕らがいまやりたいと思っているのは、それを思いっきり自治体側に引っ張って、自治体の中の職員さんが小規模事業者の事業承継を当たり前にやれるような社会を早くつくるということです。そのためにしっかりとサービスを作り込み、提供していきたいという想いがまずはあります。
また、今後は事業承継を支える裏側のシステムサービスの提供を構想しています。しかし事業承継はセンシティブな問題だからこそ、承継した先のデータが表に出にくく、蓄積されないので手の打ちようがない、という状況が何年も続いています。そこに最適なソリューションを作り上げたいと考えています。
松井:キャッシュコントロールはしながらも、先を見据えて踏むべきアクセルは踏んでいくことが大切ですよね。
――今回は貴重なお話をありがとうございました。
[1] IMM:Impact Measurement and Managementの略。インパクトの定量・定性的評価とインパクト向上につなげる活動であるインパクト測定・マネジメントの取り組みを指す。