MBAの真価は取得した学位ではなく、「社会の創造と変革」を目指した現場での活躍にある――。グロービス経営大学院では、年に1回、卒業生の努力・功績を顕彰するために「グロービス アルムナイ・アワード」を授与している(受賞者の一覧はこちら)。
今回は2023年「創造部門」の受賞者、ユアマイスター株式会社 代表取締役社長 星野 貴之氏にインタビュー。授賞式のスピーチで語った「自分の命を誰かのために使っていきたい」「未来に対し、何かを果たしていきたい」という“志”に至った理由、そのプロセスの結果としての起業、そして今後の展望を聞いた。(インタビュアー:山岸 園子)(前後編、後編。前編はこちら)
人と違う挑戦を続けるための秘訣とは
山岸:ここまで、新卒入社された楽天からユアマイスター社の起業に至るまで、星野さんのキャリアの歩みを伺ってきました。ユアマイスターではなぜこの事業に取り組もうと考えたのでしょうか。
星野:楽天時代、IRとしてヨーロッパの方とお話しさせていただく機会が多かったのですが、当時海外の機関投資家から楽天はESGにどう取り組んでいるのか、とよく質問を受けていました。日本ではまだ波がきていない状態でしたが、いつか必ず来る。プロダクトはいかようにも変わっていきますが、概念としてはしっかり伸びるものにフォーカスしたいと考えていました。そしてこの経験から、ESGこそ伸びる市場だということを確信していたんです。時代が追いついてくれば、必ず大きな会社をつくれる。そんな確信があったんです。
また何より、自分でも使ってみて「ビフォーアフターがある」という世界に感動したんですよね。思い入れがあるものや空間、場所に関わる変化があると感動する。それでハウスクリーニングとリペアが思い浮かんだんです。調べていくと、各社は職人を育成する会社であって、DXの余地があったので、この領域で価値をつくれればと考えました。
山岸:ここまでお話を伺う中で、星野さんは人と違う挑戦をし続けてきた方なのだと改めて感じます。
人と違う挑戦をすることは大事ですが、怖いことでもありますよね。星野さんが挑戦のために心がけていることなどがあれば教えて下さい。
星野:なにかチャレンジを成功させようとしても、自分だけではうまい方法が出てこないんですよね。僕はたまたま良い上司、良い先輩に恵まれて、グロービスでも恩師に出会い、大事に育てていただいてきました。そこから、人のいろんなところを吸収していけばいいと考えるようになったのかもしれません。
自分で解決できるよう挑戦はするけど、自分の中にないものは人からもらえばいい。 だからこそ、その時教える価値がある人間かどうかが大切です。謙虚に感謝の心を持って、自分は常に可能性が拡大し続けていることを証明しなくではいけないと思っています。
正面から自分への評価を常に伝えてくれる人をそばに置く
山岸:ご自分で起業してビジネスを作っていく中でも、特に初期の数年間は相当な苦労もあったのではないかと思います。ここまで踏ん張り続けることができたのはなぜだと思われますか。
星野:成果を最短で出すために、全て誰かに教えてもらってやっていました。全部先生に聞いて、自分たちで正解を見つけようとするのではなく、とりあえず真似してみる。そしてちょっとずつ結果が出てくると、こうやると結果が出る、というのがわかってくるんです。
大事なのは、教えてもらうことの勇気と、自分の中ですべて解決しようとしないというある種の諦めを持つこと。最後に、小さな価値基準の変化や小さな成功をしっかり捉えて、常にどこがうまくいっているのかを確認し、成長を正しく把握するということを考えていました。
真面目な人であればあるほど、できないところにフォーカスしてしまうと思います。しかし、冷静に自分を客観視するためにはできるところもできないところも、両方捉えることが大切だと思います。
山岸:確かにそうですが、これも難しいですよね。星野さんは、できるところとできないところの両方をどのようにして確認しているのでしょうか。
星野:自分のことを昔から知っている人を近くに置いているんです。だから自分が22歳の時の上司は取締役として、IRの時の先輩も創業メンバーとして参画してもらいました。その他の社外取締役や監査役の方々も、自分のいいところも悪いところも含めてフィードバックしてくれる人で固めたつもりです。若いからこそ不完全ですが、それでも応援していただけるということは自分ならではの強みも出てきていると思っていました。経営者はベースとして、強みが突出した方が魅力的だと考えていたので、自分を進化させて強みをもっと強さとして突出させるとともに、弱みを改善し補完していくことが大事だと感じていました。
山岸:厳しいことも含めてコメントをくれる人間を、ちゃんと周りに置いておく。それも勇気だと思うのと同時に、それを正面から伝えてくれる人を、これまでの人生の中で作ってこられたってことですよね。
星野:あとはスタートアップとして、株主は大きな存在です。だからこれまで7年半、創業時に1億円を投資してくれた人との週1の1on1を続けているんです。
話題はどうやって会社を伸ばそうかという内容で、もちろん堂々巡りはしますが、やっぱり創業期の僕に伝えることと、 3年目の僕に伝えること、今の僕に伝えること、将来に伝えることを見極めて伝えてくれているんです。
耳の痛いことを言われるときもありますが、それは必要だと思うんです。こういった存在が周囲に複数人いることは重要だと思います。仲間としての信頼もあれば、経営の師匠でもあり、株主という緊張感もある。この経験というのは、本当に貴重です。多くの株主の方とお話しする機会があり、自分の糧となっています。
学びで成功は保証されないが、成長は保証されている
山岸:グロービスの学びは、ご自身の経営やキャリアにどのように活きていますか。
星野:そもそも経営というのは特殊なことではなく、経営学によって明らかになっている普遍的な原理原則と学術的なセオリーで決まっている。経営者として、それを知らずにやっていたとしたら無謀すぎたとも思います。
テクノロジーや社会環境といった部分は変化していくので、そこには対応しなくてはなりません。一方で、やはりベースは普遍的な部分になるんですよね。例えば、ひとつひとつの動作を考えなくても車が運転できるようなことかもしれません。だからこそ、周りの車がどんなスピードで走っているか、景色がどう変わっているかに心や目線を集中させることができる。そんなイメージでしょうか。
このベースを、ディスカッションを通じ再現性をもってみっちりつくりあげることができたのは大きかったです。
山岸:現役の受講生にもぜひ聞いてもらいたいコメントですね。
星野:学びに挑戦するということには、成功は保証されていません。でも、成長は保証されているんです。いま多くの人が、いきなり成功を手にすることを求めすぎているように思います。でも、成長の先に成功があるんです。
いま現役でMBAで学んでいる方、そしてそれを考えている方にも、まずは成長を手に入れ、そして成功を収める。そして自分で自分を、そして周囲を幸せにできるように、まずは一歩踏み出してほしいと思います。
山岸:冒頭に「まだ成し遂げてないし、満足感はまだない」とおっしゃっていましたね。どういう状態になったら星野さんは満足だなと思うのかを教えて頂けますか。
星野:個人としては、満足することはないと思います。この理由は明確で、自分に可能性があり続けることが幸せだと思っているからです。
個人で考えるとそれだけではなく、いつ、何歳になっても、365日毎日可能性が増え続けて新しい道が見え続けている限り、行くべきところがあり、挑戦し続けていくことができる。これこそが幸せだと思います。
もちろん、ユアマイスターの売り上げや事業によって喜ぶ人の人数を増やし、時代を代表する企業にしていきたい。今お話しした幸せな状況が常に続いて、誰よりも可能性が大きいところまで行けたら、会社も大きくなるはずです。そうして、日本の未来にとってなにか一手となる企業にしていきたい。これは最初にもお話しした、自分の命を周りのために燃やしていきたい、というところにもつながってくるんでしょうね。
山岸:本日は本当に良い時間をありがとうございました。