変化が激しい現代におけるコミュニティの活用方法を探る本連載。第3回では、コミュニティから得られる恩恵として「自己理解」「つながり」「知識やスキル」の3つがあり、積極的にコミュニティに関わることで、それらの質も向上することを明らかにしました。4回目の今回は、コミュニティから恩恵を享受するための「心構え」について紹介します。
※本連載はグロービス経営大学院に在籍したメンバー(大島さやか、角田由希子、中村知純、清末太一)が、田久保善彦講師の指導の下で進めた研究プロジェクト「コミュニティの創設・維持・発展」について、その研究結果をまとめたものです。詳細を7回に分けて連載し、皆さんが既に体感していることを言葉にすることで、より良いコミュニティライフを送るきっかけになればと考えています。
「心構え四カ条」
コミュニティへの参加により恩恵を得たという人へのインタビューを重ねる中で、そうした人はコミュニティに参加する際の「心構え」を大事にしていることを発見しました。受動的な心持ちのままでは恩恵を得ることは難しく、「心構え」に基づく能動性によって恩恵が得られるのです。今回、その中で重要な「心構え」として抽出した4点を、「四カ条」と称してご紹介します。
【其ノ一】:「目的を意識し続ける」こと
コミュニティに参加した目的を、たびたび確認するようにしましょう。そうすれば、「なぜ、今、ここに自分がいるのか」を常に認識し続けることができます。例えばコミュニティ内で何らかのイベント告知があって、なんとなく「出なくてもいいかな…」と迷う時。そういう時、どうか自分に向けて「ここに参加した目的」を問い掛けてみてください。すると、コミュニティで得られる個別の経験や体験という「点と点」を、自身の目的への「線」の上にあるものとして認識できます。個別イベントに出る/出ないといった近視眼的な迷いは消え、本来の目的を達成することを目指し、関わっていこうとする気持ちが生まれる、というわけです。
《インタビュー/アンケートの中で着目したコメント》
- 自分は何を得たいのか、何を実現したいのか?この問いに向き合っていく必要がある。そうやって目的を意識することにより気付きが生まれる。気付きは、目的に対してコミットしようとすることで生まれてくるものだと思う。
- 目的がないと、単に「なんかためになった」といったレベルで満足するだけの「刺激マニア」になってしまう。
- 自分の中での目的をはっきりさせると、自然と感謝の気持ちを持てるようになった。
【其ノ二】:「感謝を示す」こと
コミュニティの誰かに「感謝」を示してみましょう。すると、相手とのやり取りが始まります。その結果、相手からも「感謝」が示され、そのやり取りは、やがて互いに助け合うことができる「前向きな人間関係」の構築につながります。但し、難しく考えないでくださいね。SNS隆盛の現代、「いいね!」に代表される反応なども「感謝」を示す方法の一つと言えます。大きく構えず、直ぐに出来る行動からでよいので、コミュニティの中で「感謝を示す」ことを、ぜひ実行に移してみてください。
《インタビュー/アンケートの中で着目したコメント》
- はじめはコミュニティとの距離感を適切に保ちつつも、幹事団への感謝を伝えるのは大事にした。その結果、幹事団に自分のことを覚えてもらえたので、自然と距離が近くなった。
- Messengerグループで「反応」することを心掛けました。そうすると自分の投稿にも「いいね」されやすくなり、ネットワークの輪が広がるきっかけになりました。
- 相手を否定しないで、どんなアクションにも先ず感謝するようにした。そうすることで自然と信頼関係が構築できた。
【其ノ三】 : 「気付きを発信する」こと
何かに「気付き」を得たら、それをコミュニティ内で「発信」してみましょう。メンバーの目に留まりやすい場所への投稿やチャット、あるいは、勉強会の開催や自発的な発表に対して聴講者を募るなど、発信の「場」を作って参加を呼び掛けるのもありです。「発信」を通じて自分の中にあることを言葉にする。それを繰り返すことで、知識や情報をインプットする経験と、それをアウトプットする経験との間に「成長」という価値が生まれ、循環していきます。「発信」という機会が生まれることにより、自分の思いに共感する仲間も得られることでしょう。
《インタビュー/アンケートの中で着目したコメント》
- 感想を述べることを起点に「インプット→アウトプット」が自然と身に付いた。
- コミュニティでは自分の発言機会が多く与えられることがメリット。
学ぶだけであれば、YouTubeや一方通行型のセミナー参加で十分だと思います。 - 自分がやりたいな、って思うことはきっと他人もしたいはずだから、まずは声をかけてみる。
- 自分が発している「北海道」というキーワードを持つ人と貴重なつながりを持つことができました。
【其ノ四】 : 「自ら手を挙げる」こと
「自ら手を挙げる」のも重要な心構えです。「自分という存在」が仲間から認識され、声を掛けてもらうことにより、コミュニティでの役割や挑戦の機会を得ることにつながります。「手を挙げる」には勇気が要りますよね。ですが、決してコミュニティにおける大きな役割に対して立候補するべきだ、と述べているのではありません。どんな小さなことでもいいと思います。「それ、私がやってみてもいいですか?」と、自分ができそうなことについて、「関わってみたい」という意志をメンバーに伝えてみましょう。
《インタビュー/アンケートの中で着目したコメント》
- 自分に出来ることは名乗り出て、コミュニティへの貢献を意識するようにした。
- 積極的な「関与」で周囲から認知されて、イベント登壇のオファーを受けました。
- 元来は引っ込み思案だが、勉強会を思い切って開催したら人が集まるということがわかった。
- コミュニティは皆でつくるもの。お客様という概念は存在しないと思う。
「恩恵」と「心構え」とは相関する
コミュニティに参加すると得られる「恩恵」と、コミュニティに参加する際の「心構え」について、今回の研究で得たアンケートの結果を用いて分析してみると、両者は相関することが分かりました。
「図1」は、112人にご協力いただいたアンケート結果から、ある一人の回答(7段階評価で点数が高いほど良い)について、「恩恵」に関わる設問への回答の平均点をX(横)軸に、「心構え」に関わるそれをY(縦)軸にプロットして散布図を作った結果です。これを見ると、「心構え」をもって、コミュニティに参加している人ほど、コミュニティから恩恵を受けていることがわかりました。
【図1】コミュニティ参加の「恩恵」と「心構え」との相関
心構えをもって参加することでコミュニティからの恩恵があり、その恩恵の有難さを実感することで心構えの質が高まり、更なる恩恵を得ることにもつながる。こうした相関により、コミュニティへの参加はビジネスパーソンにとって自身を高める効果を生み出しています。
「四カ条」を実践して、人生を豊かにした実例ーSさんの場合
「心構え四カ条」を実践した結果、キャリアチェンジをしたグロービス卒業生のSさん(男性)の事例を紹介します(図2)。
Sさんは、最初に参加したコミュニティにおいて「心構え四カ条」を実践しました。自分がなぜ参加したのか、この場で得たいことは何か、という目的の言語化を日頃から心掛け、コミュニティが主催するイベントで、「参加の前と後とで自分の何が変わったか」を発表する機会を得るなど体験価値を大きく増やしました。
それをきっかけにコミュニティ内での声掛けが増え、人的ネットワークも大きく拡がりました。そうしたメリットが次の挑戦への意志を生み、知り合ったメンバーとの新たなコミュニティの創設や、自身の転職への挑戦といった新たな意欲をも生み出したのです。「心構え四カ条」を大事にしたコミュニティへの関わりが、ビジネスパーソンとしてのSさんの人生を、刺激的で豊かなものにするという結果につながったのが分かります。
【図2】「心構え」の実践例(Sさん)
いかがでしたでしょうか?コミュニティ参加における「心構え四カ条」、ビジネスパーソンとしての人生を豊かにする未来への道の始まりです。できるところから、できる範囲で、ぜひ試してみてください。
次回は、コミュニティへの参加はなぜビジネスパーソンの成長につながるのか、そのメカニズムに関する研究結果を詳しくお伝えします。