「キャッシュ・フロー計算書ではおカネは増えている方がいいのですか?」と学生から質問されることがあります。これに対して、「それだけでは何とも言えないですね」と答えると不思議がられます。おカネが増えることは良いことではないのでしょうか?
まず、キャッシュ・フロー計算書の構成を確認してみましょう。
【キャッシュ・フロー計算書の構成】
・営業活動によるキャッシュ・フロー(以下、営業CF)
・投資活動によるキャッシュ・フロー(以下、投資CF)
・財務活動によるキャッシュ・フロー(以下、財務CF)
キャッシュ・フロー計算書は、上記の3つのキャッシュ・フローから構成されています(詳細は「キャッシュ・フロー計算書、3つのチェックポイント」を参照してください)。簡単に説明すると、
・営業CF: 一定期間に事業から生み出されたおカネ
・投資CF: 一定期間に事業の維持成長のために投じられたおカネ
・財務CF: 一定期間に株主、債権者から調達・還元/返済されたおカネ
です。それでは、次の2つのキャッシュ・フロー計算書を比較してみてください。ここでは、便宜上3つのキャッシュ・フローの合計をトータル・キャッシュ・フローとします。
キャッシュ・フロー計算書でおカネが増えているというのは、トータル・キャッシュ・フローがプラスということだと思います。B社の方がトータル・キャッシュ・フローは上回っています。ということは、B社の方がキャッシュ・フローの観点から見て優良会社と考えて良いのでしょうか?
それぞれのキャッシュ・フローの内容を比べてみます。A社は営業CF:500、投資CF:△300、財務CF:△100です。A社のこの期間のおカネの面からの事業活動は、本業から500のおカネを生み出し、将来の事業への投資(設備投資など)に300のおカネを投じ、例えば借入金を100返済して財務体質を改善したと考えられます。
一方、B社は、営業CF:△300 投資CF:300 財務CF:300となっています。本業では300のおカネを失い(流出し)、土地などの保有する資産を売却しておカネを獲得し、300を借り入れてキャッシュを確保したと読み取れます。本業でおカネを稼げていないB社の方がおカネに苦労していると思えませんか?
トータル・キャッシュ・フローの増減だけなく、むしろ会社がどんな活動でおカネを生み出し、どのようにおカネを使っているかというキャッシュ・フローの内訳にこそキャッシュ・フロー計算書の意義があります。トータル・キャッシュ・フローが知りたいのであればキャッシュ・フロー計算書を作成するまでもなく、B/Sなどでおカネの増減を把握すれば済みます(※)。
(※)簡略化のために、当コラムではおカネとキャッシュを同じ意味で使用しました。また、正確にはCF計算書上のキャッシュはB/S上の「現金及び預金」の残高とは必ずしも一致しません。