SVB破綻で改めて明らかに――ベンチャーデットの重要性

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あっという間の出来事だったシリコンバレーバンク(SVB)の破綻
SVBは、1983年に設立されカリフォルニア州サンタクララに本拠を置く、スタートアップ向けに特化した銀行です。米国のVCに支援されたスタートアップの約半数、また2022年にIPOしたテック・ライフサイエンス系企業の44%がSVBと銀行取引を行っており、スタートアップにとってのメインバンクとも言える存在です。
しかし、2023年3月8日にスタートアップ向けの取引に強いSVBの親会社(SVBFG)が、210億ドルの債券ポートフォリオの売却に伴う売却損の計上と、資本増強のためのゴールドマンサックス証券を主幹事にした12.5億ドルの資金調達を発表後、信用不安からSVBへの取り付け騒ぎが加速しました。その結果、SVBは3月10日に連邦預金保険公社(FDIC)の管轄に入りました。僅か3日間で総資産約28兆円の銀行が破綻した形となったのです。
そのインパクトは大きく、FDIC管轄となった翌日の週末には、AccelやKleiner Perkinsといった名だたるVC14社が連名でSVBへのサポートを表明しました。また、世界的なアクセラレーターのYコンビネーターは、40万人以上の従業員を代表する5,000人以上の有力スタートアップCEOやファウンダーが署名した嘆願書をイエレン米財務長官に提出しました。
こうしたスタートアップ関係者の動きの速さや、週明けを待たずFRB、FDICによって公表された預金の全額保護という異例の対応を見ると、いかにSVBがスタートアップエコシステムにおいて重要な役割を演じていたのかが分かります。
SVBが担ってきたスタートアップエコシステムでの役割
SVBの破綻は、過去数年でスタートアップのバリュエーションが大きくなり、その結果、スタートアップが調達した資金が急激にSVBへ預金として流入したことに端を発します。
銀行にとって、預金が増加することは基本的にポジティブなことです。一方で、主力とするスタートアップ向けのベンチャーデットでは貸付先が急激に増えるわけではありません。そこで、SVBは増加した預金の大部分を米国債等で運用しました。
不運だったのは、FRBによる政策金利の引き上げによって、保有していた米国債に多額の含み損が発生したことです。
なぜSVBの信用不安は拡がったか?DCF法で理解する
通常、「金利が上がると債券の価値が下がる」メカニズムはDCF法的な考え方で理解できます。
例えば、金利2%で発行された期間3年で額面100のリスクフリー債券を100の金額で購入したと考えます。リスクフリー債券の割引率は2%なので、この債券の価値は、
2÷(1+0.02)+2÷(1+0.02)^2+102÷(100+0.02)^3
で計算されます。計算すると債券価値は100となり、債券額面=債券価値となります。

筆者作成
ところが、債券発行直後に、リスクフリーレートが4%に上昇するとどうなるでしょうか?
2÷(1+0.04)+2÷(1+0.04)^2+102÷(100+0.04)^3
で計算すると94.45になります。よって額面>債券価値となり、債券は含み損となります。逆にリスクフリーレートが1%に下がれば、債券価値102.94となり含み益となります。
SVBの場合は、まさにこの例のように金利が上がった状況だったので、前述したスキームで資本増強を伴う解決策を模索しました。すると、含み損が顕在化して信用不安が悪化し、取り付け騒ぎとなってしまったのです。
リーマンショックとは異なり、SVBはバランスシート上で、大きな不良債権(満期まで保有すれば償還される債券での運用がメインだった)は抱えていないと言われています。よって、金利リスクから発生した銀行破綻という意味では、非常に古典的な事例と言えます。
スタートアップに拡がる、ベンチャーデットへの不安
一方で、破綻直後からシリコンバレー現地ではスタートアップ企業の多くが不安の声を上げています。預金の引き出しはFRB・FDICによる特例措置により不安が取り除かれましたが、スタートアップへの運転資金等の貸付をSVBが今後も継続できるかどうかが依然不透明だからです。
SVBのバランスシートからも明らかな通り、SVBは、アーリーからレイターステージのスタートアップの貸出やスタートアップの創業者向けの貸出を多く行っています。以下に示すポートフォリオのうち、Investor DependentやPrivate Bankといった分野がスタートアップ向けの貸出となります。

筆者作成
これらはいわゆるベンチャーデットという領域です。エクイティ(資本)とデット(負債)を組み合わせた金融商品であり、スタートアップ企業が抱えるニーズに応えた資金提供方式であるこの領域は、実はVCによるエクイティ出資と同様に、スタートアップエコシステムにおいて大きな役割を演じているのです。ここからは、ベンチャーデットの特徴や役割について解説します。