杉山文野(すぎやま・ふみの):NPO法人「東京レインボープライド」共同代表、日本オリンピック委員会理事、株式会社ニューキャンバス代表。フェンシング元女子日本代表。トランスジェンダー。早稲田大学大学院教育学研究科修士課程終了。 日本初となる渋谷区・同性パートナーシップ条例制定に関わる。 現在は父として子育てにも奮闘中。公式サイト、Twitter
杉山文野さんのニュースピックアップ
1. イランでLGBTQ+の活動家など2人に死刑判決
同性間の性的関係が刑法で規制されている国は約70ヶ国。うち12ヶ国は死刑となる。日本は法制化も進まないがパレードで石が飛んでくるわけでもなく、僕らとしても想像つかない状況でショックだ。宗教の影響かと思う方もいるかもしれないが、イスラム圏の友人と話すと必ずしもイコールでないことがわかる。だが、犯罪として扱われる国ではSNSで発信もできない。だからこそ、各国で連携して外から批判の声を挙げることが大事なのだと思う。
2. ミス・ブータンが同性愛公表のうえミス・ユニバースに出場
昨年までは同性間の性行為が違法とされていた国だったので、カミングアウトは大変だろうと思っていた。しかし、現地の友人に聞いてみると、「今はミス・ブータンに対して国全体でポジティブな反応になっている」という。実は、その友人を通してご本人とインスタをつないでもらったので、日本でも話題であることを伝えたら、「声をあげたことが海外でも話題になったのは嬉しい。勇気をもらえた」と言ってくれた。
3. 「セクシャリティで溝」 ryuchellさんとpecoさんが婚姻解消
お二人の決断を最大限応援したい。人気が出れば出るほど、ご自身の性的指向や性自認について話しづらくなってしまっていたのではないか。他者がどうこう言う話ではないが、お二人に理想の家族像を体現して欲しいと願う人も多いなかで、「男性らしく」「夫らしく」といったことを意識してしまっていたのかもしれない。今後はより自分らしく、自分を大切にして欲しい。そうした姿が多くの人に勇気を与えると思う。
4. 「LGBTQ隠して生きて」 幸福実現党所属の下野市議が発言
「静かに生きて欲しいと“思う”」といった個人的意見を、差別・抑圧を助長する社会制度とごっちゃにして政治家として発言してしまっている。こういう方々は、よく「(LGBTQ+を認めると)社会に混乱が起きかねない」とも言うが、ご自身が混乱しているだけ。社会のせいにせず勉強して欲しい。自身の宗教的背景から発言しているようだが、差別的な思想を持つ団体と政治家とのつながりにも目を向けるべきだと思う。
5. ガーシー氏、YouTubeで俳優のセクシャリティを実名公表
噂レベルとして話していた内容を、(本人の同意なく性的指向等を暴露する)アウティングであるということ自体、その噂を事実として断定することになりかねない。影響力ある人間が、しかも政治家という立場で、アクセスを稼ぐためにこんな話をするのは本当に悪質だ。対策としては、やはりルールをつくるしかないのだと思う。赤信号で止まるルールを設けるのは、人を罰するためでなく事故が起きないようにするためだ。
【スペシャルトーク】LGBTQ差別解消のために
スペシャルトークでは、LGBT法連合会の事務局長であり、『差別は思いやりでは解決しない ジェンダーやLGBTQから考える(以下、本書)』(集英社)を先日出版した神谷悠一さんに、LGBTQ+に対する差別の解消に必要な考え方などについて、お話を伺った。
企業へのアンケートや大学での講義には、「(LGBTQ+差別解消のために)思いやりを持ちたいと思います」といったコメントが数多く寄せられる。性的マイノリティの権利保障に向けた法制度等の話をしているのに、そうした「思いやり」の一言で終わることにもやもや感があったというのが、本書を執筆したきっかけでもある。
ご自身が気にいらない人に対しても思いやりを持てるかどうか、考えてみて欲しい。人権は誰にでも平等にあるわけで、気に入らない人だけ最低賃金を600円にすることはできない。ところが、LGBTQ+の話になった途端、気に食わない人には発揮されない「思いやり」という言葉が幅を利かせる。アウティングやアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)についても同じことが言える。知らないことや無意識で行うことについて思いやりを持つのは難しいのだと思う。
ある教育心理学者によると、差別の議論においては、「その話を自分のなかで突き詰めたくない」という消極的な抵抗が起きたり、スルーされたりすることがあるという。思いやりという言葉も、「深く考えたくありませんからスルーします」という、ある種の意思表示ではないか。
かつては女性に対するセクハラについて、「必要なのは女性自身の毅然とした対応」という声が多かったが、今は裁判になる時代だ。大変な人権侵害と認識されていて、「毅然としていればなんでもない」という話にはならない。LGBTQ+の権利侵害も同じだと思う。人の行動は制度に制限されている。制度ができることで人の意識は変わると思う。今はトランスジェンダーであることを伝えると不採用となるようなケースも多い。男女雇用機会均等法ができるまで、女性は合格点をとってもコネがあるか美人でなければ採用されないような恐ろしい状況があった。職場や学校の環境を含め、LGBTQ+についても、そうした状況を変える差別禁止の法律が必要だと考えている。
「思いやりは良いこと。優しい人になって欲しい」と考える人は多いし、私も思いやり自体は一概に否定しない。ただ、社会制度の基盤がない状態では、優しい人だけが優しくするといった状態になってしまうことがある。一定の制度で権利が保障され、まずは誰でも扱えるような法律やマニュアルが整備された先に、思いやりがあるのはいいことなのだと思う。
神谷悠一(かみや・ゆういち):LGBT法連合会 事務局長
1985年岩手県生まれ。早稲田大学教育学部卒、一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。LGBT法連合会事務局長、内閣府「ジェンダー統計の観点からの性別欄検討ワーキング・グループ」構成員、兵庫県明石市LGBTQ+/SOGIE施策アドバイザー。これまでに一橋大学大学院社会学研究科客員准教授、自治研作業委員会「LGBTQ+/SOGIE自治体政策」座長を歴任。著書に『LGBTとハラスメント』(集英社新書、松岡宗嗣さんとの共著)、『差別は思いやりでは解決しない ジェンダーやLGBTQから考える』(集英社新書)。LGBT法連合会 ホームページ
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