起業家の「熱量」が東大生のポテンシャルに火をつける―「東大×GCP」起業家教育を協創(後編)

GCP(グロービス・キャピタル・パートナーズ)と東京大学アントレプレナーシップ教育寄付講座の共催で行われた「アントレプレナーシップ教育デザイン寄付講座(全5回)」。後編では、その効果や未来への展望を振り返る。(全2回、後編)前編はこちら。

ポテンシャルに火をつける生々しい先達たちの声

―実際にコースが始まると、流石東大生。講座がハイエンドなら受講者もハイエンド。GCP側も驚くほどの前のめりさ、クオリティの高いアウトプットが数多くみられた。

今野:まず、質問や回答のレベルが極めて高かったですね。突発的に指名しても、レベルの高い回答が返る。ドキュメンテーションやレポートも素晴らしく、仮に授業中の反応が薄いように見えていても、アウトプットを見ると内的に起こっていたことのクオリティが高かったことが分かる。学生間でのディスカッションは活発だし、ビジネスプランを見ても豊富なアイデアがあり、社会性高く世界を変えそうな、スケールの大きい問いに向き合おうとされているのが伝わってきました。

松尾:東大生の潜在能力といいますか、「能力はあるのに何をやっていいのか分からない」という学生がたくさんいることに気づいていただけたのが嬉しい。東大にはポテンシャルが埋蔵されているとずっと思ってきました。

スタートアップ業界の方は大変アクティブで、優秀な方も多い。ですが、そういう方々からの良い刺激を受けていないがために、比較的消極的な選択として大企業などの就職先を選んでいる学生が少なくないんです。今回のセミナーで刺激を受け、束になってスタートアップの世界に出ていけば、一大勢力になって全体のレベルがかなり上がるはず。その感覚を今野さんと共有して、来年再来年へ繋げていければ。

今野:「着火剤」が大事ですね。着火したらその後、すごい火力で燃えていく未来像が見えました。

坂田:正直なところ、かなりハイレベルな内容で学生が付いていけるか最初は心配していました。ただ、1回目の授業で杞憂だったなと感じました。学生たちは準備ができていたんですね。

学生の心にインパクトがあったのは、毎回のお話の中にあった「パーパスの重要性」だと思います。今回、起業家の皆さんのお話を聞いてみてわかったのは、結局スタートアップというのは人が資産であり、人の能力をいかに引き出せるかで勝負が決まるということ。

東大名誉教授の岩井克人先生は「現代において、付加価値の源泉はお金で買えなくなった」と仰います。源泉は人が持つ創造力であって、お金で人をモチベートできる時代ではない、と。登壇者のお一人、株式会社メルカリ会長の小泉さんが「常にパーパスを発信して自社への共感を得ていないと、というプレッシャーを感じている」と仰っていましたが、それが経営者としての真のプレッシャー。企業の本質はやはり、そこにあるんじゃないでしょうか。日頃、そういうプレッシャーに立ち向かわれている当事者の口からでないと、理論を語るだけでは伝わらないですよね。

今野:学生の皆さんのフィードバックの中に、「起業に関心がない人こそ、この授業を受けるべき」「起業するかどうか分からないけど、自分の生き方を考える上ですごく助けになった」などのコメントが多くて。まさに起業のテクニック論とか、個別の会社の成功論を超えた、社会において背骨に持つべき「パーパスマインドセット」がリアルに伝えられた、と私も感じました。

坂田:今回登壇していただいたメインスピーカーの方々は、ご本人の能力もすごいんですけど、彼らを支えているサポート層も非常に厚い。ある意味ファンクラブというか、リーダーに共感してついていっている優秀な人たちが周りに大勢いて今のパフォーマンスがある、という感じの方ばかりでした。起業するしないに関わらず、こうした人を惹きつける力は、社会で何か大きなことをやろうと思ったら必ず必要なことですよね。ただ、そうした力を身に着けてもらうには時間がかかります。

今野:今回で単発の講座にするのではなく、サイクルを回すコミュニティにしていけたらと思っています。最後に懇親会を企画したのもその理由です。年度ごとで終わるのではなく、縦関係も含めたコミュニティというか、ひとつの「梁山泊」にしたいですね。

東大にスタートアップのエコシステムを

―今回の寄付講座は、2022年から2024年までの3年企画として設定されたものである。最後に、今後の期待を聞いてみた。

坂田:おべっかではなく、今年は異例の成功だった。普段こういった授業は、試験的に始め、その後、課題を見つけて改善しながら何年か経つといいものになるというパターンが多い。今回、大きな課題がほぼない状態で初年度からスタートできました。

今後の話ですが、これを続けていくと、おそらく東大周りの起業コミュニティの中心になる人材を輩出できると考えています。何年か経つと、ここにいたメンバーがこの場に戻ってきて、後輩を引き上げてくれるのではと期待しています。まさに梁山泊ですね。早く、コントリビューター*候補になる学生が出てきたらいいですよね。

*コントリビューター*:毎回の講義に登壇するメインスピーカー(起業家)の後輩にあたる起業家にコントリビューターとして登壇いただき、後輩から先輩に質問する対話形式で議論を進めた。

さらにごく近い将来の話としては、授業を助ける立場になってくれる学生がいるといい。実は今、前学期授業を受けて、その後、我々の寄付講座のTAをやってくれている学生が10人います。学生の皆さんと起業家やアクセラレーター・VCの皆さんとを橋渡しする専門人材という意味で、彼・彼女らを「ブリッジ人材」と呼ぼうとしています早速、実験に入るつもりです。

今野:我々としても、次の講座自体は来年ですが、その間にもいろいろな場をセットしていきたいですし、学生さんの自発性も促せればと思っています。

坂田:実は、東大全体でもそういう雰囲気は盛り上がっています。2021年に就任した藤井輝夫総長は応用マイクロ流体システムが専門で、自らマイクロ流体のスタートアップを生み出した経験があります。今年の6月に『世界一受けたい授業』に出演した有機トランジスタが専門で工学部長の染谷隆夫先生は2社立ち上げています。資金調達の苦労やビジネスの難しさを分かっている研究者が中心となって、今後益々環境を整えていくつもりです。

今野:我々の講座もその一端を担うことを強く願っています。続けることにより「◎期生」と呼ばれるようになり、起業実績もできて、全体の質が上がれば、必ずそのうちの何人か・何社かは成功しますよ。

坂田:1人の力だけでは起業の大きな多々ある壁を突破できない。ユーグレナの出雲さんが「投資を500回断られた」という話が一番印象に残っています。コミュニティ自体が評価されれば、ある種下駄を履かせてもらって、そんな難しい壁も突破できるかもしれない。どんな事業をやっても仲間ですから、連帯していったほうが成功確度は上がるような気がします。濃密なゼミ、もしくはOB会なども一緒に考えさせていただければ。

今野:ありがとうございます。楽しみにしています。

受講者の声

―本講座に参加した受講者の方に講座に参加した理由と講座の手ごたえを聞いてみた。


「世の中を変えるのは、熱量」

谷謙人さん(東京大学経済学部金融学科4年)
将来起業するうえでプラスになればと思い参加しました。講座は、前半の「理論」と、後半の起業家の「熱量」のバランスがよかった。自分は頭の中で起業アイデアを考えるのが好きでよく考えていましたが、今回の講座を通じて、起業家がどれほどの「熱量」をもって行動しているのかがわかりました。思考だけでは世の中を変えられないと気づいたことが大きな学びでした。

「研究がどう社会に役立つのか、経営者の視点を知る」

鈴木綾さん(東京大学工学系研究科化学システム工学専攻修士2年)

高校時代に経沢香保子さんの講演を聞いて以来、キャリアとして、起業は選択肢に入っています。今回は、起業について学ぶいい機会だと思い参加しました。自分も日々研究しながら、研究が社会にどのように役立つのかを考えていますが、今回経営者の社会を見る視点や、文系の起業家の方が技術をどう見ているのかがわかりとても勉強になりました。

「起業家の熱量にやられた」

西垣裕太さん(東京大学法科大学院既習3年)

将来は弁護士としてスタートアップ支援をしたいと考えています。講座には、スタートアップの感覚を知るために参加しました。起業家の話を直接聞いたのが初めての経験だったので、その熱量にやられ、リーガルより起業に興味が出てきました。

また、講座内に多様な人がいたのも学びになりました。学部1年生など、テクノロジーに対する感覚の違いが新鮮でした。僕らの世代は現地にいってアプローチしようとしますが、若い人は、インスタで集客してパッと動いていく。自分もアップデートしなければと思いました。

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