杉山文野(すぎやま・ふみの):NPO法人「東京レインボープライド」共同代表、日本オリンピック委員会理事、株式会社ニューキャンバス代表。フェンシング元女子日本代表。トランスジェンダー。早稲田大学大学院教育学研究科修士課程終了。 日本初となる渋谷区・同性パートナーシップ条例制定に関わる。 現在は父として子育てにも奮闘中。公式サイト、Twitter
杉山文野さんのニュースピックアップ
1. トランス男性ボクサーがスパー公開 ジェンダー規定整備へ
真道(しんどう)ゴー選手は、性別・戸籍を変更してパートナー女性と結婚し、今は3児の父だ。トランス女性のケースに比べてトランス男性の競技参加が話題になることは少ないので、彼の挑戦を機に注目が集まり、議論が進めばいいと思う。最近はスポーツ界でもトランスジェンダー選手のカミングアウトが増えており、ルールの整備について僕も競技団体などから相談を受ける機会が増えている。
2. 柔道など国内3団体、LGBTQ+への差別的言動禁ずる新規定
スポーツ界はLGBTQ+への理解が遅れている世界の1つだけに、競技団体としてしっかり規定を設けたことは大事だと思う。世界を舞台に戦い、ファンやコーチを含めグローバルにコミュニケーションをする必要のある選手には、多様性への理解が必須だ。今年6月には日本オリンピック委員会とプライドハウス東京で包括協定を締結しており、今後は各競技団体への研修などが行われる。スポーツ界の強い発信力を良い形で発揮できるようにしたい。
3. ウクライナ・ぜレンスキー大統領、同性婚合法化への道を開く姿勢
結婚と同等の権利を認める「シビルパートナーシップ」を合法化する考えが示された。普段から弱い立場にいる人々は、有事はさらなる困難に遭う可能性が高く、今回のようなタイミングで大統領が前向きな意思表示をしたことは大きい。ちなみに、どの国でも戦時中は1人でいることが不安になるからか、婚姻率が高まるそうだ。特に疎外されている人々は誰かと寄り添って生きたいという気持ちが一層強くなるのかもしれない。
4.日台同性カップルの婚姻、台北高等行政法院が認める判決
2019年に合法化された台湾の同性婚だが、パートナーの出身国・地域が同性婚を認めていない場合、婚姻届は受理されなかった。今回はその判断が覆された形だ。日本国籍を持つパートナーの方の在留資格は就労ビザである。勤務先の都合や怪我・病気でビザ更新が認められなければ、国外退去を迫られる可能性もあった。その状況が今回の判決で大きく変わる。台湾の司法院は今回の判断を法制化すべく法改正を進めるという。
5. 講師25人が全員男性 国交省講座に批判、女性講師追加へ
まちづくりをテーマにした国土交通省のオンライン講座について、ツイッター上で批判が相次いだという。イベントをつくる側の自分への戒めにもなるが、うっかりしていると登壇者が男性ばかりになったりすることはある。遅い時間帯の登壇は、子育ての負担が大きい女性には参加しづらかったりと、能力でなく環境の違いによるところが大きい。僕は登壇する側になることもあるので、後援などの依頼があった際は主催側にジェンダーバランスの考慮を提案したりする。不利益を被っている方々に一定数を割り当てるクォータ制のような考え方も必要だと思う。
【スペシャルトーク】LGBTQ+アライのためのハンドブック
スペシャルトークでは、偏見や差別のない職場環境を目指し、性的マイノリティをサポートするために日本コカ・コーラ(以下、コカ・コーラ)が策定した手引き「LGBTQ+アライのためのハンドブック」について、杉山文野さんに掘り下げていただいた。。
ハンドブックの作成自体はそれほど珍しい取り組みではないかもしれないが、本件は、それを一般公開して誰でも使えるようにしたことに意義があると考えている。パナソニックも今回のハンドブックを導入する予定という。最近は企業が互いの垣根を超えた取り組みを行っている。今年の東京レインボープライド(TRP)でも、コカ・コーラとチェリオコーポレーションの方が互いのブースを行き来するなど、ビジネスでは競合であっても多様性の推進は一緒に進めようという意思を、目に見える形で発信してくださっているのが大きな変化だ。
多様性と効率性は相反するものだ。同じサイズの“箱”をつくるほうが効率的には良いわけで、正直、余裕のある企業でないと多様性の推進は取り組みにくい面がある。予算などの都合で足踏みしてしまう中小企業が多いなか、それでも大手企業が今回のようにハンドブックの公開などを行い、「皆で進めていこう」と呼び掛けたのは重要だと思う。
最近はLGBTQ+に配慮した企業の取り組みが進んでいるといっても、「売り上げのために協賛等を行っているだけで、本質である人権への理解は進んでいないのでは?」といった指摘もある。その点、コカ・コーラによる今回の取り組みにはLGBTQ+の当事者も関わっている。「性的マイノリティだけでなく、国籍、年齢、障害の有無など、あらゆる多様性に対応していく」と宣言してくださっているのは心強い。
LGBTQ+に関する啓発が盛りあがること自体は大事だが、表面的な理解で終わらず、本質である人権を守るための具体策を考えていく必要がある。日本でも今はLGBTQ+を応援してくださる方が増えている半面、法整備・法制化が進んでいないのは大きな課題だ。裏を返せば「表面的理解にとどまってはいまいか」という話につながる。
差別や偏見の歴史は長い。ハンドブックをつくったからすぐに理解が進むというものではないし、やはり継続した取り組みのなかで(LGBTQ+フレンドリーな)アライを増やしていくことが大事なのだと思う。少数派の権利を多数決で決めるには限界がある。だからこそ、当事者ともに問題解決を進めてくださるアライの和を広げる以外に道はないのではないか。その意味でも、社会的影響力の大きな企業が一緒に行動してくださることは希望であり、コカ・コーラのような世界的企業が、その影響力をポジティブに使ってくださるのは大きな一歩だと感じている。
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