患者と医療者のための病院経営―MBAの学びを生かし、日本に広げる

卒業生インタビュー 医師

グロービス経営大学院の卒業生で錦糸町と亀戸でシンシアクリニックを経営する福井悠さんのインタビュー。クリニックに医師とペアで診察に入り、診断を入力するオペレータを導入することで患者への提供価値を劇的に改善させた前編に続き、後編では、病院経営にいきるMBAの学びやこれからのビジョンを聞いた。(聞き手=グロービス経営大学院研究科長 田久保善彦、文=吉峰史佳)(全2回、後編。前編はこちら

MBAを医師の新しいキャリアに

田久保:2018年にグロービス経営大学院に入学されていますが、どういう接点でグロービスを知っていただいたのですか。

福井:開業を目指していたので、経営の勉強をしたいとは前々から思っていました。開業は立地が重要ですから、いい立地が見つかるまでの間、アルバイトをしながら勉強しようと考えていたので、MBAを学べる学校を探していました。その際、いくつか条件がありました。

1つは、これからMBAが医師の新しいキャリアになると考えていたので、自分の後進が通えるように、複数都市に拠点がある学校。もう1つが、臨床を中断せずにやっていけるよう、フルタイムではなく、パートタイムで学べること。そうすると、必然的にグロービスになるんです。

田久保:医師でグロービスに入学される方は年々増えていますが、一般的にはMBAそのものも、グロービスも知名度はそんなに高くないと思います。でも福井さんは最初から経営が視野にあったのですね。

福井:これまでの医師のキャリアは、「臨床」「教育」「研究」の3つでした。ここに「経営」という第4の道を加えたいと思っています。今はまだMBAに進む医師は稀ですが、私がロールモデルになれるのではないか、そういう想いで通っていました。

田久保:医師が経営をされたり、起業されたりというのは、少しずつ広がってきていますよね。グロービス経営大学院で印象に残っている学び、今役に立っている学びというと何でしょうか。

福井:科目で言うと「経営戦略」「オペレーション戦略」、そして、ガラッと変わって「企業家リーダーシップ」です。大学院生活の前半に受けたクラスですが、この3つは自分の中でビフォーアフターというぐらい転換になったクラスです。「経営戦略」は、主観を排除して構造的にどうなっているのかを検証していくという意味では自然科学と似ていて、今までの自分が積み上げてきた学問と経営学がはじめて接続した感じがしました。あまり自然科学に喩える方はいないと思うのですが(笑)

アイディアを数値化して伝える重要性

田久保:オペレーション戦略は、(前編の)オペレータスタッフの効果の数値化などに生きているのがわかりますが、クラスを受けている最中はどうでしたか。

福井:クラスは定量分析が多くて、肌に合った感じがありました。ただそれが、Day3のトヨタのケースで、打ち砕かれました。

授業には、十分予習をして、ケース資料だけでなくて関連書籍も読んで臨むわけです。ここが本だけで勉強する人と学校に通う人の決定的な違いでもあると思いますが、自分が持っていったものをクラスディスカッションで徹底的に批判を受けて打ちのめされるんですよね。でも、その悔しさがほどよく残って痛快で。「よし、夜遅いけど、もうちょっと考えてみようか」と、それを継続してやれた3カ月でした。

卒業生インタビュー

(シンシアクリニックでは、医師と同時にオペレータが診察室に入り電子カルテへの入力を行うことで、診察にかかる時間を短縮。患者の待ち時間や収益率も大幅に改善した)

また、オペレータがいたらいいだろうというアイディアは、以前からありましたが、このクラスを受けて、定量的な解釈をきちんと与える重要性がわかりました。さらに、十分に定量化を突き詰めると、テーブルの上に数字化されないことが表れてくるというのも最近感じています。ここはケースで学ぶのは難しくて、経営をしてみて初めてわかる困難だと思います。

田久保:ある哲学者が「我々は、言葉にて語り得ることを語り尽くしたとき、言葉にて語り得ぬことを知ることがあるだろう」といっていますが、論理を詰め切ってはじめて、論理を超えて感じられるものが出てくる、そういう感覚かもしれませんね。

福井:まさにおっしゃる通りです。これは、経営者の道を選んだ宿命だと思っています。

自分の価値観を言語化する

田久保:そして「企業家リーダーシップ」。これは、グロービス経営大学院の特徴ともいえる「志」、つまり自分の命を何に使って生きるのかを考え、人間としての器や自らの哲学を、ケースや書籍で磨くクラスですね。福井さんも、ご自身と向き合われたのでしょうか。

福井:はい。私が医師になってよかったと思うのは、患者さんの人生の濃密な部分に立ち会わせていただけることなのですが、人が亡くなる場面にも立ち会ってきました。忘れられない患者さんがお2人いらして、お1人は、社会的に成功されて、ものすごい財を築いた方です。ただ、ご本人の意識が朦朧としてきても、面会にいらっしゃるのはお手伝いさんのみ。一方で、決して裕福でなくて、ご本人も苦しんで亡くなられたんだけれど、10人ぐらいの家族に囲まれて、感謝のなかで惜しまれて逝く方もいらっしゃる。

そういうことを思い出して、実は自分が今まで選んできた基準は、数値で表せるような成功ではなく、振り返ってみて、幸せだったなと思えることの多い人生にしようということなんだ、と言語化できた授業でした。

田久保:去年、グロービスに通っている在宅医療に携わられている医師の方が「死にざまに、生きざまが表れるんです」とおっしゃっていましたが、まさにそれですね。

卒業生インタビュー

一人では到達できない目標にみんなで到達する

田久保:グロービスは、今振り返るとどのような場所でしたか。

福井:一言では言えませんが、外部からもたらされた最大の学びの場だったなと思います。それが自分の中で2つあって、駿台とグロービスです。

田久保:千葉大医学部ではないんですか(笑)

福井:もちろん千葉大でも学び、知識はすごい身に着けました(笑)。でも、ひたすら自分の世界に没頭して勉強してたので、外からもたらされたというイメージではないんです。切磋琢磨するというより、孤独に本を積み上げて勉強していたんです。

グロービスでは、課題をこなすのが大変で、辛いこともたくさんあって、そこを一緒に同じ方向に向かって走ったから、最後は仲間が残る。グロービスでの共通体験をもとに、仕事も世界観も全然重ならない人とも盛り上がることができます。今、経営でぶつかっている壁もグロービスのネットワークが解決してくれると思っています。

田久保:切磋琢磨したから、生涯続く友人ができるんですよね。それでは、最後に福井さんがこれから描くビジョンを教えてください。

福井:全ての職種の方が誇りを持って医療に従事でき、その結果として患者さんに高品質な医療を届けられる、そういうクリニックを日本に広げていきたいと考えています。

医師としてMBAを学びたい方にも伝えたいことですが、経営を学ぶ最大のメリットは、自分だけでは到達できない目標が出てきたときに、他の大勢の方の時間を使って、組織としてそれを実現するために必要なものを学べるということです。

1つのクリニックだけが成果を出しても、もちろんそれも素晴らしいことですが、従業員20人ぐらいの医療事務の方がこれまでにない仕事を得て、地域の5、6万人ぐらいの患者さんに対する提供で終わってしまいます。そうではなく、全体に広げていく。そのために段階的にパワーを獲得しないといけませんが、例えば、我々の成功事例を共有して、我々と全く財務基盤の異なるクリニックでも、コンサルなどを通じて成立させる、そういう風にして日本全体に広げたいというのが私の志です。

田久保:これからのご活躍を楽しみにしています。今日は、どうもありがとうございました。

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