個人の志の達成がビジョンと合致する会社へ――ジャパンメディック・前田和也氏

富山県でOTC医薬品(ドラッグストアで販売可能な一般用医薬品)の開発・製造を行うジャパンメディック株式会社。後編では引き続き、同社の代表取締役社長であり、グロービス経営大学院卒業生でもある前田和也さんに、事業承継を果たしトップに立ったからこそ気づいたことや、経営者として今後実現したい会社の姿について、想いを聞いた。(前後編、後編。前編はこちら

ボトムアップ型組織になることで、おのずと社員がエンパワーメントされた

田久保:事業を承継された後の取り組みについて、「変えたこと」「変えずに守ったこと」の観点で教えていただけますか。

前田:変えたこととして、2020年に向け取り組んだ企業理念のアップデート(作り直しではなく、今あるものを分解・再構成)するプロジェクトがあります。元から企業理念はあったものの、中身が社内に伝わりきっていないという課題があり、進めることにしました。

このプロジェクトで重要だったのが、企業理念や使命とする言葉そのものは変えなかったことです。

企業理念
Step by Step
一歩一歩未来に向かって限りなく成長し続けること

使命
健康・夢 提案企業

これらの言葉は社員のより所として大切にされ、定着していたので守るべきだと考えました。

また、変えたというよりも必然的に変わったところでいうと、社長のあり方があります。

先代は売上を10倍くらいに一気に伸ばした、言わば“中興の祖”的な存在でした。そもそも薬剤師でしたし、薬の開発から新工場の建設推進、更には営業の経験もあり、「社内の業務のことは全部わかる」と何事も自らが先陣を切っていく、ある種トップダウン的な風土がありました。

対して私は薬や製造、開発に関する専門性はなく、唯一勉強したのは経営だけでした。当然わからないことだらけなので、何事も現場の話をまず聞いて、わからないところは「お任せします」と託す、ボトムアップ的な形になっていきました。これが必然的にエンパワーメントになって、社員も変わってきたんじゃないかと思います。

田久保:ジャパンメディックのように高品質と生産性を両立した製造を実現するには、技術のみならず人の力が必要ですね。そして人の力を高めるためには、モチベーションやエンゲージメントを高めるためのエンパワーメントも非常に大切です。他にも何か取り組みはされていますか。

前田:組織サーベイを導入し、結果を踏まえた社内コミュニケーション施策や福利厚生といった処遇改善を行っています。数年取り組んできて、やっとスコアが良くなってきました。社員を見ていても以前にも増して活気が出てきて、前向きに仕事に向き合っている人も増えてきていると感じます。

田久保:業界の外から見ていると、製薬業界は事業の社会的価値を実感しやすく、それゆえ社員のモチベーションやエンゲージメントを上げやすいように思えます。しかし、グロービス経営大学院の『企業の理念と社会的価値』というクラスでは、時折、製薬会社や医療関係者の学生が、「会社の社会的意義がよくわからない」と口にするのです。業界構造にも一因がありそうですが、御社の場合はこういった課題へどう取り組んでいるのでしょうか。

前田:弊社の場合、店頭で製品が並んでいるのは見えるものの、お客様は大手メーカーやドラッグストアになるので、実際に使っている方からの声はなかなか直接届きません。かつ、工場だけで仕事をしていると狭い世界しか見えなくもなりやすい。ここで重要になるのは理念です。「私たちは何のためにやっているのか、この薬にはどういった意義があるのか」ということを社長自らがしっかり整理して、発信をし続ける。社員を不安にさせないために必要なことだと思います。

また、健全な状態で事業を承継してもらいましたが、この数字は社員の頑張りがあってこそでした。負荷があればモチベーションやエンゲージメントにも何かしら影響が出ます。これを踏まえて、処遇や待遇、休日日数の改善、直近では社員食堂 兼 ラウンジの全面的改装をしました。目に見えないものだけではなく、目に見える形での社員還元も意識しています。

改装されて開放的になったラウンジ。ミーティングや社内交流の場としても活用されている。

田久保:社長自らが発信するという点について、もう少し詳しく教えて下さい。具体的にはどんな手法を取っていますか。

前田:1~2カ月に1回ぐらいでの社内メッセージを3年間書き続けています。直近では社内SNSを導入したので、そちらで定期的に発信をしていますし、2週に1度の朝礼として全社に社内放送をしています。また、noteはあくまでも社外向けとして書いていますが、まわりまわって社内にも影響があることを頭に入れています。

田久保:反応はいかがですか。

前田:今立ち上げようしている新規事業が起案された時に「うちは健康・夢 提案企業なんだから、こういうのをやったほうがいいですよね」と言った社員がいたんです。そのときは想いが伝わっているんだと感じ、うれしかったですね。サーベイでも理念に関わる項目のところは「おなかいっぱいです」といった回答が出ているくらいです(笑)

「5年先、10年先で考えること」はトップにしかできない

田久保:「新入社員と副社長の差より、副社長と社長の距離のほうが遠い」ともよく言われます。あらためて、トップとして大事にしていることはありますか。

前田:トップだけが出来ることであり、それが仕事でもあると思うことが「5年先、10年先で考えること」です。

例えば、弊社には「真面目」というカルチャーがあります。品質第一の医薬品製造においては大きな強みです。でも新たに定めた2030年ビジョンに向かっていこうと思うと、よりクリエイティブであったり、より自由であったりといった、現状維持ではないカルチャーも必要です。直近では以前からある制服の着用を一部の社員で自由としました。「真面目」と「自由」の両立には時間をかけながら、徐々に施策を打っていこうかと考えています。

加えて、最近は異業種も含めて世界で何が起こっているかを知ることや、人脈も開拓して世界を広げていくことが大事だと思っています。外から新しい知識を取り込むというのは経営陣がやるべきことではないでしょうか。グロービスでの出会いや、あとは外部のビジネス団体のネットワークを活用することも出来るかもしれません。

田久保:前田さん個人の能力開発に対して、経営者としての面で課題意識はあるのでしょうか。

前田:発言の重みについては課題だと捉えています。「社長がOKでした」と言うと、やはり誰も何も言えなくなってしまう。自らの発言にそれだけの重みが伴うのは、誰かが最終決定をしてくれていた頃とは大きく違うと感じています。

また、意思決定だけでなく、例えば社内で行われる改善発表会でのコメントひとつでも、コメントを受けた社員がどう感じるか、そのあとモチベートされるかが変わってきます。自分の中では最大限褒めてモチベートしようとしたものの、伝わっていなかったということもある。リーダーになると、どう理解してもらって納得感を得るか、人を巻き込むことができるかが大事になってきます。

グロービスの授業はグループワークの発表やプレゼンもある程度時間をもらってやれましたし、リーダーとしての擬似的な体験ができるよい修行の場だったと思います。引き続き、常に自らの発言を振り返り、適切な発言ができるように考えていきたいですね。

個人と会社のビジョンを重視する会社のモデルケースにしていきたい

田久保: 最後に、「こういう会社にしていきたい」といった想いをお聞かせ頂けますか。

前田:まず、私個人の「志」は、「日本を明るく元気にしたい」です。

日本は恵まれているのに、満員の通勤電車に暗い目で乗って、下を向いて愚痴ばかりな人が多いのではないでしょうか。そうした閉塞感を打破したい。そのためにまず私が第一にやりたい、やらねばならないと思うのは、自分の会社を「メンバーが明るく元気に働き、それぞれの夢や志を前向きに持つ」会社で、さらに「世の中を良くするためにみんなで一生懸命働き、楽しみ、喜び合い、ときには悔しさも含めて沢山のことを味わえる」会社にしていきたいのです。

先日、社員の声を結集して2030年に向けたビジョンを設定しました。検討にあたり、ワークショップを行いました。ワークショップで挙がったアイデアは多種多様でしたが、最後にまとめて言語化してみると、すべて企業理念の「健康・夢 提案企業」と方向性が一致していたんです。そして社員が自分たちで決めたからこそ、愛着を持ってそれぞれのモチベーションにしてくれている点もあり、この方式で決めてよかったと感じています。

田久保:社員の声と会社のビジョンが合致していることがわかったのですね。更に働いている個々人が自らの志を達成しつつ、それが会社のビジョンと重なっていたら、それ以上に嬉しいことはありませんね。

前田:2030年ビジョン実現のための「経営の役割とは何か」と考えてみると結局、「社員ひとりひとりがやりたいことをできる会社をつくること」ではないかと思います。

しかしそもそも手前で、自分の志や人生、特に職業人生に関して向き合えていない人も多いのではないでしょうか。「仕事は仕事」「お金のためだけに働いている、仕事なんか本当はしたくない」と表面的にはライスワーカー的発想で考えてしまっている人も「どういう職業人生を歩みたい」「どう生きたい」という気持ちは必ずあるわけです。その気持ちに問いかけて、ひとりひとりが自分のビジョンやそれに類する何かを持っていると信じて、まずはそれを明確にできる環境をつくりたいと強く感じています。

田久保:グロービスという場所では、「志」という言葉を恥ずかしげもなくみんなが口にします。しかしグロービスから卒業すると、心の中には存在していても、日々の生活から志という言葉が消えるんですよね。会社で「志」と言っても、みんなに引かれてしまうからです。ジャパンメディックにはそれを乗り越えて頂いて、気軽に「志」を語りうる会社になると面白いのかもしれません。

前田:我々は地方の小さい会社ですが、「あの会社の人たち、みんなすごく生き生きしていていいよね」というひとつのモデルケースになる会社にしていきたい。言うは易し、行うは難しで、現実的にはリソース配分などものすごく大変ですが(笑)我々がやっていれば、もしかすると見習ってくれる会社が出てくるかもしれない。そこから波及していけばと思います。

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