「学びとネットワーク」を最大限活用して掴んだ優勝―日本ビジネススクール・ケース・コンペティション(JBCC)優勝チームインタビュー・後編

前編で紹介した通り、2021年JBCCのテーマは、例年と毛色が違っていた。それまでは中堅クラスの大企業の経営再建というテーマが多く、過去問題をもとに準備をしていたチームは特に意表をつかれただろう。チームビルディングを丁寧に行い、過去問題で練習をしていた平田さんチーム。7月に発表された「粉末冶金を扱うベンチャー」のケースに、どう取り組んでいったのだろうか。(全2回後編)前編はこちら (聞き手=吉峰史佳、文=渡辺清乃)

こだわりは、「リアリティがなければビジネスプランではない」

ケース公開後すぐやってきた3連休を使って行ったのが、チームで合宿。5人のうち3人がリアル参加、2人がリモートというハイブリッド型。全員でケースの全体像を理解しながら、ケース公開前にしておいた準備を再構築レベルで見直した。使おうとしていたフレームワークはもちろん、それぞれの得意なところを考慮してCEO・CTO・CFO……と役割分担までしていたが、それも白紙に戻す。「これまでとはケースの傾向が違ったので、白紙から1つずつ意識合わせができたのも効果的でした」(奥野さん)

ケース公開前の準備は、当てが外れた。けれども立て直しは早かった。その後は、これまで学んだリソースの中から「ベンチャーで必要なことは何か?」を吟味しつつ、走りながら役割を分担するスタイルに自然と切り替えた。最初は、全員で1つずつ戦略を考えて持ち寄り、狙う市場を議論。規模・将来性・自社の技術が生きる点などをリストアップし、一覧で比較検討した。「同時進行で、専門家にインタビュー。その情報をフィードバックして、戦略の解像度を上げていきました」(平田さん)

この専門家・有識者へのヒアリングは、チームの「取り組みWAY」である「実務に活かす」――リアリティを重要視し、実現性が一番高く解決すべきペインもある、という軸のためにこだわったところだ。しかし、「リアリティ」という点で考えると、そもそも自社製品ではないものを扱うため感情移入しづらいだろう。扱う商材「粉末冶金」に対し、「ちきん……何これ?」という状態だったメンバーに対し、金属に詳しい奥野さんが果たした役割も大きかったという。

「そもそも、『やきん』ですから(笑)。金属の粉末冶金なんてニッチ中のニッチ。僕はその領域の人間なので興味があるから面白いけれど……最終的にこの製品を愛すること、そのためには疑問を持つことが重要だと思った」(奥野さん)。「最初は好きではなかったし、興味もなかった。でも、合宿で奥野さんに何度も質問するうちに冶金のことがわかってきて、ちょっと好きになる瞬間が訪れた。あれが無かったら、うまく進んでいないと思う」(岡田さん)

「リアリティがないとビジネスプランではない」という共通認識のもと、最終的に的を絞ったのが医療機器市場。アンゾフの事業拡大マトリクスを活用し、人工関節、手術器具、ロボット、モーター、IoTセンサー……と可能性を広げたプランで予選を通過。本選に向けてブラッシュアップすべく、継続して現場で活躍する有識者にアドバイスを求めたところ、いただいたのは「人数の少ないベンチャーで、本当にこのプランをできるの?」という手厳しいフィードバック

そこから「絞る」に重心を置くようになった。「実際の仕事現場を考えても、1~2個ぐらいしか深堀できない。リアリティを追求したいけれど、たとえば『金属の性質をすべて調べつくす』なんてことは相当大変な作業です。捨てて絞るのも大事」(奥野さん)

その後の医師へのインタビューで、ペインが最も強くて明確なのが「人工股関節」だと見えてきたため、そこに絞った。中期計画は医療分野にいる岩松さんメインで進め、長期計画は金属分野に詳しい奥野さんがメインで進めた。

優勝。だけど調子に乗るな。枠を外して発想せよ

グランドファイナルでは、優勝という栄光に輝き、審査員の一人・経営共創基盤の冨山和彦氏から「もっと投資額を求めてもいい。たとえば2億くらい」「レイヤーマスターになる発想を持ってもいい」という好感触の講評をいただいた。終えてみて、メンバーには何が残ったのだろうか。

「プロから見て『そのプランならもっと(投資額を)出せる』と言われたのは素直に嬉しかった。事前のリサーチでVCの方から『シード期で2億、3億なんてどこも出さない』と聞いていたので」(岩松さん)、「我々はリアリティ=地に足着けた感覚で考えていたけれど、『もっとデカい夢を持ち、そこから逆算して考えては?』というコメントを結構いただきました。僕らも実は「世界中のすべてのモーターに調和組織構造を」ぐらいの夢を描いていたのですが。14分だと表現しきれなくて」(中川さん)という2人の言葉からは、夢と現実のせめぎ合いの難しさが伝わってきた。

「経営者の発想にあらためて気づかされた」というのは奥野さん。三菱マテリアルの小野直樹社長からいただいた「SDGs的な点を入れ込めばよかった」との講評に、「合宿中にリサイクルの話は出ていたけれど、ベンチャーにとって技術開発は困難過ぎると削除した。でも、それを取り込むのが今後の重要テーマだと経営者は思うのか、と予想外の視点をいただけた」と話す。

高評価をくださった冨山和彦氏も、「この順位と実際の世界での成功とは相関がほとんどない。調子にのらずに、現実の世界にもどって本当の成果をあげてほしい」と釘を刺した。「『調子にのるな』ということをいってくださり、ありがたかったです。今回はあくまでケースであって、我々は、リアルな現実の世界でやっていかないといけない。慢心せず、謙虚にがんばろうと思えました」(平田さん)。

グロービス経営大学院でJBCCの役に立ったクラスは?

JBCCの目的の1つは、「日頃の学習成果を実践的に発揮する場の提供」。グロービスの授業で役に立ったと思えるものはあったのだろうか。

ほぼ全員から挙がったのが「経営戦略」。「全員が授業を受けていたので共通言語となった」(平田さん)に加え、「有識者インタビューで『業界KSF(Key Success Factor)が必要だよね』と言われ、もともと入れる予定がなかったけれどもプラスした。結果として、それが良い評価につながった」(中川さん)。

プロセス全体の設計には、「『ストラテジック・リオーガニゼーション』は企業再生をケース分析からプレゼンまでトータルで行うため非常に役立った」(岩松さん)、チームリーダーを務めた平田さんは、「組織をどうつくるか、を学べる『組織行動とリーダーシップ』と、有識者の方々に助けをもらえたのは『パワーと影響力』で学んだ好意と返報性を着実に重ねたからかもしれない」と話す。

土台となるのは「クリティカル・シンキング」という奥野さんは、「議論が迷子にならないのはもちろん、各教科の中身を深く理解できるのもクリシンの力」と言う。また、全員が財務経験無しだったが、「アカウンティングⅠ」でカバー。「ちゃんとクラスを受ければ、JBCCのカネ系面はなんとかなる」(中川さん)。「加えて、ベンチャーの資本政策を扱った『ファイナンスⅡ』も役立った」(岩松さん)。

プレゼンテーションの場面では、「パワーと影響力」を活用したという岩松さんとともに、岡田さんは「ビジネス・プレゼンテーション」を挙げた。

「『自分たちは結局、何を伝えたいのか』『伝えたいことが相手の頭に、ステップを踏んで伝えられているか』『聞き手をどのように動かしたらいいか』を徹底してやるんです。聞き手が1回でも置いていかれたら、その後の言葉は入ってこなくなる。今回、本選でいざプレゼンをする際、『どんな審査員の人たちの心を、どのように動かしたいのか』を整理して挑めた。これが本当のプレゼンテーションの醍醐味、学びが目の前で再現されているとリアルに感じることができました

インタビューを終えて~今後JBCCへ参加される方へのメッセージ~

中川さん

どうか気軽にチャレンジしてください。私の参加動機も、『去年のプレJBCCに参加したメンバーと仲よくなれたから、今回もまた仲間が作れたら』くらいの感じです。普段のクラスで会えていない人、久しぶりに会いたい人と一緒に何かを作ってもう一度仲よくなる。そんな場として活用してください」

岡田さん

「『JBCC、大変そうで尻込みする』『参加のきっかけがなかった』と参加されない方もいらっしゃると思います。でも実践的な学びになるのはもちろん、かけがえのない仲間ができるので、ぜひ自分から周りの人に声をかけて参加してみてください。損はしませんから」

平田さん

「入学式で、田久保(善彦)先生からいただいた『踊る阿呆になれ』の言葉が印象的で。『やりたいと思うことを全部やろう』と決めたんです。あすか委員・JBCCは2年連続、研プロもやっています。『バット振っておいたらよかった』と後悔するのが一番嫌。三振でもいいから思いきりバットを振りたい、という方はぜひチャレンジしてみてください」

奥野さん

「グロービスでは『学びとネットワーク』と言いますが、正直『ネットワークはよくわからないな』とずっと思っていたんです。今回、期せずして『これこそがネットワークだ』と痛感できました。自分たちだけで何とか資料をつくることもできたんです。でも、いろんな人にインタビューをさせていただいたり、壁打ちに付き合っていただいたり。それによって生み出されたものは大きいし、それこそネットワークの恩恵です。ぜひ体感してほしいです」

岩松さん

「1年目に学んでいたことを、より深く実践的な内容に昇華させるいい機会です。『あすか委員をやって、JBCCをやって』というと、『そんなに取り組めるのは特別な人だけなんじゃないか』と身構えられるかもしれません。実際に入学直後の自分も、キラキラした先輩に対してそう思っていましたが、やれば意外とできちゃうものです。とりあえずやってみて考える、そんな2年間にしてもいいんじゃないかと思います」

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