グロービス経営大学院教員による2022年の注目トピックシリーズ、今回はESG投資などで盛り上がりを見せる「社会投資」編です。紹介するのは、社会起業家やベンチャー企業の創業時や成長期の経営手法などを学ぶ「ソーシャル・ベンチャーマネジメント」「ベンチャー・マネジメント」「ベンチャー戦略プランニング」などの科目を担当する教員2名です。
社会投資推進の鍵は、心の余裕
_原康次 グロービス経営大学院 教員/創造ファカルティグループ ファカルティ・コンテンツリーダー
現在は、通常のビジネスと違った難易度を孕む社会課題に取り組むリーダーが求められています。内閣府が実施した令和2年度「特定非営利活動法人に関する実態調査」[1]では、NPO法人が安定的な経営を行うにあたって抱えている当面の課題として、「人材の確保や教育」と答えた団体が6割を超え、様々な課題の中でトップを占めています。
では、どのような人材が求められているのでしょうか?社会課題の背景には、既存の公共セクターと営利セクターでは十分な課題解決がなされていないという事情があります。複雑な課題に対して、志の高い人物の属人的な力で解決していても、広がりに欠け、後継者問題に直面します。上記の内閣府の調査に回答したNPO法人の半数以上の代表者が60代以上になり、5割近くの団体が「後継者の不足」を課題に挙げています。
筆者は、リーダーがしゃかりきに旗を振って、組織を牽引するところから一歩引いて、関係者を巻き込み、それぞれが自立的に活躍できる場作りが重要だと考えます。『学習する組織』など数々の名著を記したシステム思考のピーター・センゲは「問題に関わる多くの人々を支援し、『自分も変わるべきシステムの一部なのだ』と気づかせ、それぞれが変化を起こせるように導く存在---すなわち、システムリーダーシップが必要だ」と述べています。さらに、老子の考え方を挙げています。
「悪いリーダーは、人々に蔑まれる。
良いリーダーは、人々に尊敬される。
最高のリーダーは、人々に『自分たちの力でやった』と言わせる」
――『これからの「社会の変え方」を、探しに行こう』第2章
では、われわれは何から始めればよいのでしょうか?実は、わき目を振らず頑張る生活から、一歩先を見通して、新しい取組みをする余裕を作ることだと思います。先ほどの章でセンゲも、システムの変容には、思考・心・意思の3つの「開放」が必要だと述べています。
今までの生活とは違う価値観を受け入れるには、今握りしめているタスクを一度手放してみて、「良い社会を作り出すために自分自身が、何か協力できることはないだろうか?」と共に考える時間を年末年始に作っていただきたいです。その結果社会投資を推進するリーダーになる人もいるかもしれないし、そうでない場合も、そうしたリーダーの場に興味関心を寄せてもらえると嬉しいです。
<注釈>
[1]令和2年度「特定非営利活動法人に関する実態調査|内閣府
社会投資の潮流変化 〜インパクト投資に流れるお金〜
小早川鈴加(グロービス経営大学院教員/KIBOW社会投資)
「この社会課題を解決するためにこんな事業を行っています。ぜひ、投資を検討いただけませんか?」インパクト投資を行うKIBOW社会投資に、そんなご連絡をいただくことも増えてきました。
従来的な投資の発想は「儲かるので投資を」というものであり、それは資本主義の重要な側面でした。けれど、近年では、日本においても世界においても「社会が良くなる(=社会的インパクトをつくりだせる)ので投資を」という考え方がより注目されるようになっています。
実際に、「社会的な課題解決と財務的なリターンを同時に追求する」というインパクト投資に流れ込むお金は加速度的に増えています。日本では、2016年の調査[1]で337億円程度だったインパクト投資残高は、2020年には5126億円と15倍以上になっています。世界におけるインパクト投資の規模はさらに大きく、グローバル・インパクト投資ネットワークの調査によると7150億ドル(約80兆円)と見積もられています[2]。
KIBOW社会投資は、インパクト投資の国内諮問委員会が設置された翌年の2015年から、いち早く社会課題解決に積極的に踏み込む企業に投資を行ってきました。その当時は「インパクト投資?一体それは何?社会課題の解決?」という反応をされたものでしたが、今ではそれが大きく変化しているのを肌で感じています。特にここ1〜2年では、様々な金融機関からのインパクト投資への参入や、社会課題解決に特化した財団設立のニュースも増えてきました。
今後更に、より大きな波が来ると予想しています。日本国内でのインパクト投資に流れこむ資金のポテンシャルは推計2兆6400億円[3]。ビジネスを通じた社会課題解決を目指している人にとって、より大きなチャンスがひろがっています。
<注釈>
[1] GSG国内諮問委員会調査
[2] 「the Global Impact Investing Network(グローバル・インパクト投資ネットワーク)」による調査、2020年度、換算レートは21年12月のもの。
[3] SIMI日本におけるインパクト投資の現状と課題_