小高ワーカーズベース 和田智行氏「ビジョンや志に整合するものに、ワクワクする」

MBAの真価は取得した学位ではなく、「社会の創造と変革」を目指した現場での活躍にある――。グロービス経営大学院では、合宿型勉強会「あすか会議」の場で年に1回、卒業生の努力・功績を顕彰するために「グロービス アルムナイ・アワード」を授与している(受賞者の一覧はこちら)。今回は2021年「ソーシャル部門」の受賞者である小高ワーカーズベース代表取締役、和田智行氏にインタビュー。後編では、事業経営において重視している、常に自身の理念を見失わず「志にコミットする」姿勢について伺った。(聞き手=梶屋拓朗)(前編はこちら

目標をブレイクダウンし、確実に収益を拾っていく

梶屋:前回は「コト」「ヒト」のお話を聞いたので、次に「カネ」についてお聞きしたいのですが、財務諸表ではどこを大事にされていますか?

和田:営業利益は一番大事にしています。あと、売上高人件費率。人件費を確保した上で、薄くても利益が出ればいいかなというぐらいの考え方でやっています。一般的に地方の社会的企業は給料が安いイメージがあるかと思いますが、東京都の平均賃金はめざしたいと思っています。新規事業をやる時は、「人件費率はこのぐらいで何人で回せるようにしましょう」といった話はしていますね。

梶屋:日々のキャッシュフローの問題もありますよね。中長期的なビジョンの実現と、短期的な成果のバランスをどう取っていらっしゃるのでしょう。

和田:中長期的なビジョンは見据えつつも、そこに至る細かい計画はとくに立てていないんです。それより目の前の課題、ニーズ、事業シーズを確実に拾い、収益がしっかり見込めるものを選んで着手していくようにしています。

小高に100の事業をつくると掲げているので、「地域のためにお願いします」と依頼を頂くこともあります。でも、地域のためなら何でもいいというわけではないんですよね。リスクを地方が引き受けることで、中央に経済を支えてもらう、という構造から抜けるために、地方が自活できる世界をつくりたいんです。なので、「地域のためにではなく、自分が実現したい世界を作るためにやっているんです」と断ることも実は多いですね。

梶屋:つねにご自身の理念に立ち返られているのですね。一方、ビジョンの裏側で、戦略的な整合性があるかどうかも見極めているということでしょうか。

和田:その点は自分が実現したい世界に向け確実に進むためでもありますし、現場で動いているスタッフのためでもあります。目の前の仕事に追われている現場のスタッフは「自分たちが今やっていることって、どこに繋がっているんだろう」と迷ってしまうこともあると思います。この点は難しいのですが、戦略的な整合性は担保しオペレーションをしっかり回してもらうことで、彼らの焦りや不安が軽くなればと思っています。また、「とりあえず年間売上3000万~3500万円の事業を20~30個作りましょう」と伝えていて、目標を少しブレイクダウンすることで、取り組みやすくしています。

感じたこと、仮説を溜め続ければ志が溢れ出す

梶屋:ところで、和田さんは小高ワーカーズベースの立ち上げ後、グロービス経営大学院で学ばれています。受講を経て戦略の立て方や実行力はより磨かれましたか?

和田:もちろんです。基礎的なフレームワーク、考え方を学んだことによって、各事業の収益が見込めるかどうかという判断力がつきました。また、グロービスは志の醸成を大切にしていますが、自分が掲げている志によりコミットできるようになった気がします。以前より自信を持ってコミットできるようになりました。 

梶屋:「志にコミットする」というお言葉を噛み砕きたいと思います。和田さんご自身の「志」、平たく言うとすればやろうとしていることはグロービス経営大学院入学前後でブレてはいないように思えます。それがよりコミットできるようになったというのは、どういった感覚なのでしょうか。志を実現するための行動に集中できるようになった、あるいは自身のなかにある志そのものに深く向き合うようになったなどが考えられると思いますが。

和田:実現するという覚悟が決まったといいますか。たとえるなら、コップの水が溢れるようなイメージです。

梶屋:水は溜まるものですか?溜めるものですか?

和田:溜めるものだと思いますね。自分で感じたこと、こうじゃないかと思った仮説を都度溜めていき、最後に何かを注いだ瞬間、溢れ出すような。誰が止めようが、もう溢れちゃっているから止まらない。そんな感じですかね。

梶屋:コップの水はつねに溜め続けないといけないのですね。

和田:そうですね。だけど、いったんこぼれだすとまたそのコップに水を注ぎたくなる。何かやってアクションを起こして、アウトプットして成果に繋がると、また次の何かをやろうとなっていきます。

梶屋:グロービス経営大学院の堀学長がよく口にする話に「志士の五カン」があります。世界観、人生観、歴史観、倫理観、使命感で五カンなのですが、今日は中でも倫理観について聞いてみたいと思っています。倫理観はこれまで積み重ねてきたであろう「判断」の基準として、現在の姿に至るまでに大きく関わっているからです。和田さんはこれは正しい、これは正しくないなどと判断するとき、どういう問いを大事にされていますか?

和田:ひとつは、自分がワクワクするかどうかです。震災前だったら、単純にお金儲けできることにワクワクしたかもしれません。けれども、今は「ビジョンや志に整合するもの」が「自分がワクワクするもの」です。その点では自分の感覚を信じています。あとは一緒に動く仲間がしんどい思いをしていないかどうかです。

梶屋: 今回お話を伺って勉強になったのは、小高ワーカーズベースを起点とした取り組みは、まず理念を明確化して始めておられたことです。理不尽さに対する怒りのエネルギーを課題意識と融合して昇華することによってミッションを定め、志をしっかり立てられた。

そして、志の実現に向けた実践に当たってのコミュニケーションを大切にされるスタイルです。相手の話をよく聴いて、モチベーションや内なる課題意識を上手く引き出しながらご自身の志を共存させていった。

食堂を開くときなどは、お客様のバックグラウンドや状況を見つめ、戦略的思考のもとに顧客分析、市場分析をされています。また、もぐらたたきのような課題解決に追われるのではなく、裏側でつねに戦略との整合性を照らし合わせている。非常に学びになりました。

和田:実際に現場にいると大変なことのほうが多いのですが、新しい事業が立ち上がって機能しはじめる瞬間はすごく楽しいです。これからビジョンに共感してもらえる人が増え、さらに新しい未来が拓けるんだと考えるとなおさらワクワクしますね。

(文=西川敦子)

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