企業の人材・組織開発の責任者(CLO:Chief Learning Officer)を対象としたカンファレンス「第10回CLO会議」が、2021年9月に3日間にわたりオンラインで実施された。本レポートでは、2日目の「海外で結果を出す組織創りとリーダーシップ」の概要を紹介する。前編では、新興国タイで最先端の内視鏡技術を普及させ、内視鏡ビジネスの拡大をけん引したオリンパス株式会社の山田貴陽氏の講演を紹介した。後編では、『海外で結果を出す人は「異文化」を言い訳にしない」』を上梓したグロービスの高橋亨と、海外で結果を出すリーダーについてディスカッションを行った。(全2回、後編)前編はこちら。※肩書は記事公開当時のもの。
海外で結果を出すリーダーになるために役立った2つのこと
高橋:まずお聞きしたいのは、「海外で結果を出すリーダーは何が違うのか」ということです。山田さん自身、結果を出せるリーダーになるために、どのような経験や支援が役立ちましたか?
山田:2つありますね。1つ目は、30代前半にリーダーシップに財務や経営といったビジネスリーダーとして必要とされる知識を一通り学ぶ機会があったことです。海外に行くと、日本(本社)での役割よりも、一段も二段も上位の役割を任されます。私自身、駐在先のオリンパスタイランドでは事業部の責任者を担っていました。しかし日本では営業やマーケティングの経験しかなかったので、そのような知識を習得できたことで、自社や取引先の状況を把握できるようになり、迅速に的確な経営判断を行うことができました。
高橋:海外で求められるスキルや知識を事前に学べる機会があると、心強いですね。
山田:2つ目は、失敗事例(こういう取引は注意せよ)やその国の価値観やビジネス習慣などの共有です。こうした情報は駐在員だけで引き継がれることが多いと思いますが、できれば本社や人事部が情報をストックしておくのがいいと思います。人事部がこうした情報を把握していることで、駐在員からの信頼度も高まりますし、新たな駐在員を選任する際にもきっと役立ちます。
高橋:たしかに、そうですね。ただ、駐在地が10カ国ぐらいであれば、本社(ヘッドクォーター)や人事部でも管理できると思いますが、100カ国以上にもなると難しいかもしれません。そういう場合は、リージョナルヘッドクォーターがそういった機能を担うのがいいと思います。
山田:もちろん、現場を理解していないと正確な情報はストックできないので、現地に精通している駐在員との連携が不可欠になります。その際、重要なのは、その情報をまとめることでどういったアウトカムが得られるのかを、人事部が駐在員に示していくことです。そうすれば、駐在員も協力してくれるでしょうし、駐在員や人事部にとって「財産」になる情報が得られるはずです。
高橋:山田さんは、これまで現地の組織創りや人材育成に力を入れてこられたと思います。そのなかで、一番こだわったことは何でしょうか。
山田:先程の講演でも少し触れましたが、1つは「志をそろえること」です。やはり、本社の方針を伝えるだけでは、現地スタッフからの共感は生まれません。「皆と一緒に成長したい」「地域に貢献していきたい」といった自分の想いを伝え、「志をそろえる」プロセスに時間を費しました。
高橋:私もこれまでイランとベルギーに約8年間駐在してきましたが、文化や言語が違っても、「志」は世界共通だということを、身をもって実感してきたので、山田さんの考えには非常に賛同します。その他にありますか?
山田:もう1つは「共通言語を持つこと」です。タイで営業マーケティングの外部研修を、現地スタッフ2名に受講させました。当初、タイで立ち上げたプロジェクトは、私が企画していましたが、研修後は参加したメンバーの1人が自分のウォンツを語り始め、チームをまとめて自ら企画を立案するなど、主体的に行動するようになりました。
高橋:マーケティングなどの共通言語ができたことで、メンバーが山田さん(上司)の立場で物事を考え、行動できるようになったのではないでしょうか。
山田:そうだと思います。例えば「オリンパスタイランドのストラテジーとはどんなことを指すのか」といった言葉のイメージも共有できるようになったのも大きな成果だと思います。
「駐在員の選任条件」「帰任後のポジション」など、人事部の悩みに応える
高橋:ここからは、山田さんには参加者の皆さんからの質問にお答えいただきたいと思います。まずは「海外の駐在員の選任ポイントとは」という質問です。
山田:一番は「コミュニケーション適応力」です。その国の価値観や文化などを受け入れて、自分とは異なる意見であっても柔軟に対応できる力です。こうだと思ったら、自分の意見を曲げられないという人もいるとは思いますが、そういうタイプは難しいですね。
高橋:ありがとうございます。続いて、「言語力やコミュニケーション力以外の素養は何かありますか」という質問です。いかがでしょうか。
山田:「コミュニケーション適応力」以外だと、拠点によって必要とされる素養が異なってくると思います。というのも、その国の経済や業界がどのような発展段階(導入期、成長期、成熟期、衰退期)にあるかによって、ビジネスの進め方が異なり、駐在先で必要とされる人材が違ってくるからです。まずは、各国の拠点が今どんな仕事をしていて、どの発展段階にあるのかを整理するべきだと思います。
高橋:それができると必要とされる素養も自然と見えてくるのではないでしょうか。それに、今は駐在員を経験した方が人事に異動するケースも増えているので、そういう方々を中心に駐在先の現状を把握することが今後重要になりそうですね。
山田:また、人事部の方々が駐在先のリーダーやキーマンとなる現地スタッフとのディスカッションをさらに増やすことで、現地の状況を把握できるようになると思いますので、そこから始めるのもいいかもしれません。
高橋:最後の質問です。「今後会社としても海外進出に力を入れていきたいと考えていますが、帰国後は駐在員にどういうポジションを与えればいいでしょうか」ということですが、いかがでしょうか。駐在先では責任者として組織マネジメントを任されても、職位としては「課長」というケースがよくあります。そのため、帰任後はプレイヤーとして限られた業務しか任されず、それによってモチベーションを下げてしまう社員がいるようです。
山田:難しい質問ですね。しかし、まずその社員の方に認識してもらいたいのは、従業員全員が海外赴任を経験できるわけではないということです。海外赴任は、これまでの実績を認められて、会社から与えられたチャンスです。ですから、駐在時に成果を上げれば、それに見合ったポジションが与えられるでしょうし、反対の状況もあり得ます。
高橋:そこは、国内とか海外とか関係なく、評価が問われるということですね。
山田:そうです。しかし、駐在先で責任のあるポジションを任せられることで、広い視野や高い視座が身に付いたはず。帰国後もそれを活かして取り組めば、提案の幅も広がり、結果も自ずと付いてくるでしょう。そうなれば、また会社から新たなチャレンジの機会を与えてもらえるはずです。
駐在員にそういった意識を持ってもらえるように、人事部の皆さんは「駐在経験」を意味づけする機会を提供していくことが今後重要になってくるのではないでしょうか。
また、加えて重要なポイントとして押さえておきたいのは、日本人だけが、様々な国で経験を積むといった人事施策だけでは真のグローバル化には限界があるということです。各国の優秀な人材が、他のリージョンで活躍できる体制への変革が求められると思います。
高橋:最後に参加された皆さんにメッセージをお願いします。
山田:タイ・香港での駐在期間中は、人事の皆さんには非常に助けてもらいました。明確な答えがないようなときでも、耳を傾けてもらえるだけも、海外で挑戦しているリーダーたちには大きな支えになります。そういうスタンスで接してもらえると、海外で働く人にとっては心強いと思います。
<本セミナーにおけるポイント>
- 新興国における強い組織創りには、「商売をする相手を見極める『目』」「自らの限界と周囲に求める価値を明確に定義」「サステナブルな組織」「他業種のリーダーとのネットワーク」の4つがリーダーには必要である。
- 「赴任前に、実務では得られなかった領域が学べたこと」「人事部や本部が取引の失敗事例やその国の価値観やビジネス習慣などの情報をストックし、共有していること」。この2つの経験・支援が海外で結果を出せるリーダーになるために役立った。
- 駐在員を選任する際に、一番重視するのは「コミュニケーション適応力」。それ以外については拠点によって必要とされる素養が異なるため、まずは各国の拠点が今どんな仕事をしていて、どの発展段階(導入期、成長期、成熟期、衰退期)にあるのかを整理すること。そうすると、必要とされる素養も見えてくる。