昨今注目が集まるWell-being領域について、グロービスのアクセラレータプログラムG-STARTUPで採択された起業家3名がCICTOKYOで2021年8月5日に実施された「VentureCafe」で語りました。セミナーレポートの後半では、個人情報の扱いやKPIの設定、そしてスタートアップ起業家のWell-beingについて取り上げます。(全2回、後編)前編はこちら
Well-beingの個人情報
_原:前半では、新しいサービスを広めていくための創意工夫をお聞きしましたが、広まっていくとノイズも入ってくるようになると思います。「個人情報どうするんだ」とか、「怪しいんじゃないか」とか、そういった壁をどう乗り越えようと考えていますか。
千頭:弊社では、実は個人情報を一切取ってないんです。なのでそのあたりは突かれないと思うのですが、怪しまれるという点では、メンタルヘルスはヘルスケアの中でも、医療領域と臨床心理の領域との両方が重なっているちょっと特殊な領域なのです。それもあって、メンタルヘルスケアという名のもとに占いっぽいものもあったりします。
(前編で)日本でメンタルヘルスへの抵抗があるといいましたが、そういう人が結構占いに行くんですね。そこで悩みを吐き出す、なので占い市場は今非常に大きくなっています。そういう意味で占いも悪くはないと思うのですが、emol(エモル)は学術的な裏付けがあってやっているものなので、そうしたものと混合されないように差別化は意識しています。
牟田:弊社はSlackやTeamsといったICTのコミュニケーションツールのデータを活用して予測モデルを作っているので、データをかなり扱っています。ただ抵抗があったのは、セキュリティーよりも、データの開示についてです。
最初はSlackのアクティブ時間や、コミュニケーションの量といった客観データを人事やマネジメントに開示していたんです。法律的にはSlackやTeamsといったデータは法人が所持しているので全く問題はないのですが、そのデータ自体にはあまり意味がないというのがわかり、客観的なデータの開示を全部やめています。
今はあくまでもSlackやTeamsのデータから予測したストレスマネジメントスコアや、ワークエンゲージメントスコアしか開示していません。
加えて、従業員にもオープンに情報開示したり、公開NGのものを選べるようにするなどユーザーフレンドリーに進めたことで、反発はなくなり導入しやすくなりました。
(株式会社wellday 代表取締役CEO 牟田吉昌氏)
牟田:データの中身が見られることが怖いのであれば、Slackも同じなんですよ。Slackもエンタープライズだと個人データを見られることになるので。そうじゃなくて、セキュリティはあくまでも必要条件でしかないんです。
それ以上にデータの中身、例えば「あの人のことあんまり好きじゃないんだよね」とか、そういうコメントが本人に届くことのほうが問題です。そこに関しては利用規約も含み、弊社全員、従業員であっても、誰もそのデータを見られないようにしてます。
小原:私は個人情報についてはアグレッシブに使っていきたいと思っています。センシティブな領域なのも分かっているのですが。今やっている「SIRU+(シルタス)」は、少なくともスーパー、食品メーカー、ヘルスケアの3業種にデータをまたいで
創業当時からずっと総務省と、情報銀行のようなスキームでデータ利活用を推進する事業をやらせていただいています。なぜなら、Well-being領域は、各プロダクトで得られた情報を他のサービスに転用できて、初めて価値を出せると思うからです。なので、個人情報に注意しながらでも、データを活用する意義は高いと思っています。
例えば今、弘前COIという研究機関と一緒に、「買い物パターン」と「病気」の相関を調べる研究をしています。「こういう特徴の買い物の人は、糖尿病になりやすい」みたいなことです。そうすると、「この買い物に変えるとリスクが下がる」といったことがわかる。それをお知らせして役立てることもできますし、一歩進んで「リスクが下がる買い物をしたら保険料を下げる」みたいなこともやっていきたい。
ここまでくると個人の信用スコアのようになってしまうので、よりセンシティブな情報になりますが、こういうことが実現できる社会のほうがよりよい社会だと思います。
(シルタス株式会社 代表取締役 小原一樹氏)
スタートアップの代表にWell-bingはあるのか?
_原:ではスタートアップの代表にWell-beingはあるのかどうかをお聞きしてもいいでしょうか。
千頭:Well-beingで一番重要視しているのは、メンタルです。実際に学生時代にメンタル状態を崩して、学校に行くのもしんどくなった経験があります。そこから、できるだけ自分を観察するようにしています。「今自分はイライラしているな」とか「なんで今、こんなに嫌な気持ちになって仕事をしているのだろう」というのを論理的に考えて、それをどう解決したらいいのか、常日頃考えるということにしています。
小原:私自身は食のサービスをやっていますが、「不健康な食生活を愛しています」(笑)。自分のサービスを使って、問題点や改善点は理解しています。でもわかった上でやらないというのも、むしろWell-beingだと捉えているので、食べたいものを食べています。
リスクを全て理解できた上で選ぶのなら、フェアな選択なのでWell-beingだと思うんですけれども、リスクが見えずにやった結果10年前の自分を恨むというのは違うかな、と思っています。
牟田:Well-beingの定義はいくつかあると思います。
よく言われている「五つの概念であるWell-being」には、エンゲージメントとか人間関係、達成感というような、そういったテーマがありますが、スタートアップをやっている以上、自分が最も大事にしているのはエンゲージメント、つまり自分がこの仕事に夢中になれているかどうかです。
そもそも、自分の仕事が嫌だとかテンションが下がったとかを言えない立場であると思うんです。でも、テンションが下がることは誰でもある。そういったときに、テンションが上がっていないだけなのに、「実は仕事が嫌いになったかもしれない」といったミスリードがないように、客観的に捉えるようにしています。
加えて、実際に私もwelldayで自分のスコアを見ています。
_原:あえてこの質問をさせていただいたのは、「Well-beingがよくない」となかなか語りづらい世の中ですが、悪い時も含めて許容できる世の中になるといいなと思っていまして。そう思いながら今聞かせていただきました。
では、会場やチャットでご質問があればお願いします。
会場:千頭さんに質問です。メンタルヘルスのカウンセリングでは、寄り添って話を聞くものだと思っています。解決策を出すわけでないというイメージですが、アプリでは、具体的な解決策を出すのでしょうか。
千頭:おっしゃるとおり、アプリではAIが何か答えを返すわけではありません。すごく悩んでいる時って何に悩んでいるかわかんなくなってしまうじゃないですか。それを整理するお手伝いをすることをAIの役割としています。
そのうえで、AIが「こういう見方もありますよね」と提案していく。メンタルヘルスケアについてお客さんに学習してもらうような回答をするようになっています。
会場:牟田さんに質問です。さきほどKPIを出すという話がありましたが、Well-beingの成果が出るまでの時間はかなり長く、数値に落とし込むのは難しいのではないかと思います。企業の担当者を相手にするとき、KPIを測る期間、スパンをどう捉えていますか。
牟田:弊社では導入してから価値を感じてもらうまでを1カ月間と設定しています。なぜ1カ月間かというと、おっしゃるように、結果指標が長すぎるからです。例えば離職を減らせたかどうかというのは、1年たってもトラッキングできないので「最初の価値が何なのか、そこを感じてもらえるかどうか」というのを、ものすごく測りやすい数値にしています。
ここでいう価値というのは、従業員の課題がわかって、その課題に対して人事やマネジャーが実際にケアしたところ、「やっぱりこの課題は早めに知れてよかったね」という瞬間です。これをトラッキングしています。
もう一つが、その後に実際ワークフローに落とし込むこと。welldayで「ケアすべき」というアラートが出た人をマネージャーが実際にケアしたかどうか、上司が見られるようにしています。平均4カ月ぐらいでワークフローまで導入していただいています。そこからは本当に使い続けてくださるので。そういったことをやっています。
また、考え方ですが、KPIの設計で大事なのは結果指標にコミットするのではなく、プロセスにコミットすることだと思っています。例えば人事のSaaSを入れるとしたならば、「人事にどんなミッションを負わせますか?」というところを、導入する前に明確にしていただきます。それにより、プロセスにコミットしてもらえる。その分、結果も出るんですね。プロセスをすごく大事にして、案内しています。
_原:それではこれでお時間です。皆さん今日はお三方にご登壇いただきました。千頭さん、牟田さん、小原さんに改めて拍手をよろしくお願いします。ありがとうございました。
今回のパネリストが参加したユニコーン100社輩出を目指すプラットフォーム「G-STARTUP」が4th Batchを開催。過去のアクセラの成果発表で受賞した起業とパネリストを招いたG-STARTUP 4th Batch開催記念イベント(11月1日19時〜、グロービス東京校・Zoom)を実施します。詳細はこちらです。