Well-beingを日本で当たり前にする―スタートアップの挑戦【前編】


昨今注目が集まるWell-being領域について、グロービスのアクセラレータプログラムG-STARTUPで採択された起業家3名がCICTOKYOで2021年8月5日に実施された「VentureCafe」で語りました。前半では、新しいサービスを世の中に広げていくうえでの創意工夫などがテーマです。(全2回、前編)※肩書きは取材当時のもの。

「やった方がいいよね」から一歩進める

髙原:今日は皆さんご参加ありがとうございます。今日のテーマ「Well-being」ですが、アメリカではこの分野への投資金額が1兆円を超えたという報道があったくらい盛り上がってきています。ただ、具体的にどう推進したらいいかわからないことも多い。そこで今回はAIを使ってWell-beingを推し進めているお三方に来ていただいて、お話しいただきたいと思っています。

千頭emol(エモル)株式会社の千頭と申します。弊社はAIを使って、チャットでメンタルヘルスの向上を目指すアプリを開発しております。2020年、2021年と「国内のメンタルヘルステック カオスマップ」を出していますが、昨年と今年で大きな変化があったと感じています。2020年はメンタルヘルステック分野で伸びている企業さんは少なかったんです。でも2021年になって国内でもすごい注目される市場になってきた、というのが、企業数やサービス数からわかります。

牟田wellday(ウェルデイ)というAIを使ってSlack/Teamsなどのコミュニケーション上のテキストデータを活用して、リアルタイムに従業員のコンディションを把握することができるエンプロイーサクセスプラットフォーム「wellday」を提供させていただいております。今年の5月にリリースし、主にサプライズ離職・早期退職に課題を抱えている企業、また、急成長フェーズのSMBベンチャー企業の人事や事業責任者の方から導入していただいております。本日はwell-being事業を作る上での苦労やハードシングス等をリアルに皆様に共有していけたらなと思っております。

小原:私は「SIRU+」(シルタス)という食事の管理をAIで自動化するというような事業をやっています。運動や睡眠の記録はウェアラブル端末で自動的に記録されるようになってきていますが、食事の履歴はそういうものがありません。そこに課題を感じてこのサービスを始めました。

「SIRU+」は、クレジットカードなどを紐づけて購買記録を蓄積し、それを栄養素に変換します。そうすることで「先週のあなたの買い物ではカルシウムが不足します」と判断し「カルシウムを摂るために○○を買ってください」とお勧めする。そんなアプリです。

髙原:ありがとうございます。Well-beingは皆さん本当に重要だと思っていますが、なかなか企業や自治体に浸透しづらいと思います。その中でどう価値を理解してもらっているのでしょうか。

牟田:弊社はSaaSというテーマでサービスを提供しているのですが、課題としてあるのは、従業員のためのサービスか、それとも経営者のためか、ということです。従業員のデータを可視化して人事が対策を打ったら、従業員から「なぜこの情報を会社が知っているのか」と反発がくるのが心配だということで当初は導入が進みませんでした。かといって、「従業員のために導入しましょう」といっても、具体的な打ち手が見えず、導入が進まないといったことがありました。

結局、従業員と会社双方にメリットがあるということをサービス上でわかりやすく表現したことで導入が進みました。

なので1つは従業員が自分では気がつけないようなストレスを可視化してセルフケアができるサービス。もう1つは、従業員自身では解決できない関係性のケア――例えばAさんが上司とうまくいっていないといった関係性のケアのサービスを提供しています。

千頭: 弊社はメンタルヘルスサービスで心のケアを行うことを目的としたアプリを作っていますが、アメリカと比べると日本はメンタルヘルスに対してネガティブイメージが強いんです。精神科に行ったりカウンセリングを受けたりすると、「あの人病気なの?」と思われちゃうんじゃないかと。私も実体験としてあるのでわかるのですが、その文化から変えていく必要があるなという風に感じております。

この事業を始めてからすぐ、どうしたらメンタルヘルスケアが、体のケアと同じぐらい、当たり前にすべきことだと伝えられるかを考えています。

(emol株式会社代表取締役CEO 千頭 沙織氏)

先ほどご紹介したカオスマップも、そのためにつくっています。これだけサービスがたくさんあるのだから、「使うのが当たり前」というのを見てほしいと思っています。

広報活動も色々と頑張っているのですが、今は特に自治体さんへの導入を進めています。なぜ自治体なのかと言いますと、今、emolのサービスを使っている方は、スマホで検索して見つけてくれた層なんです。これはかなりスマホを使いこなしている方々なんですね。自治体からemolを紹介してもらうと、スマホでemolを検索できない層にも届けることができるんです。カウンセリングしか知らなかったところを、アプリでまず「ちょっとケアをやってみようかな」と気軽に始めていただけるんです。

髙原:イノベーションは、ここにいらっしゃる方々は慣れているかもしれませんが、そうじゃない人にとっては、最初は怪しいものだと警戒されがちです。そこを自治体という信頼のある人たちが伝えてくれると、普段テクノロジーの最先端に触れない方々にもリーチできるので、自治体との取り組みというのは非常にいいですね。

千頭:そうですね、自治体の中にもやっぱり抵抗感を抱く自治体もいらっしゃるので、そこは努力が必要かな、と。ただ自治体の方から言われることによって「ちゃんと認められているものなんだ」っていうふうに安心して使ってもらえるようになると思います。

小原:Well-beingで難しいと思うのは、Well-being自体が明確なペインでないということです。なので、やったほうがいいという雰囲気がありながらも、誰も最初に踏み出してくれるステークホルダーがいないというのが課題です。

弊社サービスでは、購買データをもとに個人に「あなたはこの栄養が足りていません」と返しつつ、栄養管理のサービスを提供します。ここで市場をユーザーにすると、非常に狭くなる。なぜなら、ユーザーのほとんどは今は健康で、そこにペインがないわけです。

そこで我々も自治体を最初のターゲットにしました。自治体だけが唯一、市民が健康になると医療費が下がるというメリットが明確です。自治体に地場のスーパーを説得してもらいサービスを導入してもらいます。そうすると、例えば「この地域の50代の男性は、みんな食物繊維が足りてない」といったことがわかる。

まずは自治体を「社会的に意義がある」と口説いてスタートさせて、経済性を後から追いかけていますが、そのスタート部分が一番苦労します。

髙原:自治体と取り組むにあたって最初のきっかけはどうつくるのでしょうか。

千頭:スタートアップと組んで地域活性化に取り組んでいる自治体は結構あります。弊社はまずそれに参加しました。そこでの実証実験をもとに、他の自治体にアプローチしていきました。

小原:私たちも同じです。「スタートアップと事業を成し遂げる」というミッションを持っている自治体を調べます。そのうえで、特に健康という課題を設けている自治体さんにアタックしていきました。

髙原:牟田さんは企業と組んでいますが、いろいろな企業がある中で、最初入りやすかった企業はどのような企業でしょうか。 

牟田:Well-beingないしエンゲージメントといったテーマにそもそも共感している企業です。もっと言うとその会社が既にそういった取り組みをしているかを重視します。「従業員のWell-beingは大事ですか」と経営者に聞いたら、ほぼ「大事」と答えると思います(笑)。でも、実際に取り組む企業となると、10%、15%となる。その中でも、売り上げと同じぐらい重視するという会社は5%ぐらいしかありません。この5%のお客様が我々の最初のお客様です。

Well-being領域を一般に広めるための工夫

髙原:皆さん今イノベーションの入り口に立たれて、イノベーターとかと付き合い始めたと。これからアーリーマジョリティ、マジョリティの人達に使ってもらう必要があります。そのためにどのようなことをされているでしょうか。

牟田:SaaSの大先輩であるfreeeさんが言っている「マジ価値KPI」という言葉があります。freeeさんでいったら「各企業の経理の人件費を何パーセント下げたか」で自分たちの真の価値が出る、と。だからそれを「マジ価値KPI」といっているわけなのですが。

Well-being業界では、何が最も価値があるのかをつかむのは非常に難しいと思います。だからこそ、そこを定義をすることが重要です。弊社ですと退職の際、実際にケアをしたマネジャーの時間を減らすことをKPIと置いています。

千頭:メンタルヘルスのサービスは「本当に効果があるの?」という目で見られますので、使う側にとってのKPIを出していこうとしています。その意味では自治体は積極的に協力してくださるので、ありがたいです。今、その協力のもとで実証実験に力を入れ、徐々に「抑うつ傾向が収まった」などの結果が出てきているところです。

小原:弊社のポイントは2つあります。1つは「SIRU+(シルタス)を導入したスーパーマーケットが儲かる」という経済的成功パターンを作ること。

「SIRU+」を導入したスーパーで買い物すると、健康が見える化されるし、次に何を買えばいいかがわかるということで、そのスーパーで買いたいというファンができはじめます。そうするとスーパーは儲かりますよね。それがわかると、周りのスーパーも導入し始めるんです。

もう1つは、アプリのユーザー側へアプローチする方法です。Aスーパーでは「SIRU+」が使えるけれども、Bスーパーでは使えないとなると、ユーザー側は「Bでも使いたいです」と言ってくれます。その情報をもとに、Bスーパーを僕らは口説きに行く、というわけです。

後編に続く

今回のパネリストが参加したユニコーン100社輩出を目指すプラットフォーム「G-STARTUP」が4th Batchを開催。過去のアクセラの成果発表で受賞した起業とパネリストを招いたG-STARTUP 4th Batch開催記念イベント(11月1日19時~、グロービス東京校・Zoom)を実施します。詳細はこちらです。 

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