もう一度学びに向き合うための「アンラーニング」
コロナ禍の日々もあっという間に一年半が過ぎた。
子どもの分散登校などにも対応しながら、何とか仕事も回した一年半。ふと気が付けば、コロナ禍前と同じ勢いで新しいチャレンジや学びに取り組んでいるとは言いづらい自分がいる。状況がどうであれ、自らを進化させることをサボるのはまずい。もう一度学びに対して向き合うべく、本書を手にとってみた。
本書は、働く人は今まで体得した知識やスキルを捨て、新しい知識やスキルに入れ替える「アンラーニング」をどのように行い成長しているのか、について述べている。
著者の松尾氏は「人がいかに経験から学んでいるか」を追究する「経験学習」の研究者である。本書は、その研究から得られた知見が、一般人が活用しやすいように平易にかみ砕かれ、アンラーニングをイメージするための具体的な事例もあわせて書かれている。
アンラーニングとは「アップデート」すること
先ほど記したように、アンラーニングとは「個人が、自身の知識やスキルを意図的に棄却しながら、新しい知識・スキルを取り入れるプロセス」のことである。くだけて言えば「古いノウハウを一旦使用停止にして、新しいノウハウと入れ替えアップデートする」ということである。これを著者は「学びほぐし」と言っている。
アンラーニングと「学習」との違いは、古くなった知識・スキルを捨てるか、持ち続けるかということである。今までの知識・スキルを捨てずに持っていれば、それに整合するような知識やスキルを入手し続けることになるだろう。結果として、古くなった知識やスキルが補強されるばかりで、劇的な改善にはならないということだ。
ポイントは「自分の得意な型に逃げず、内省する」
なぜ、アンラーニングが重要か……。それは言わずもがな、アンラーニングをしないと成長が止まってしまうからだ。
では、どうやったらアンラーニングができるのか。
本書ではアンラーニングに至る3つの経路を挙げているが、ここでは、例としてそのうちの1つを紹介する。
- 他者から認められることより、新しい知識やスキルを身につけ自分を成長させることを重視する「学習志向」が高い状態であるほど、
- 「今日の仕事の●●の点が悪かったな。明日からは気を付けよう」というような振り返り(「内省」)が、
- 「そもそも、なぜ●●が悪くなったのかな。特に△△が原因かな。△△を改善するには思い切ってやり方を変えようかな」といった、当たり前を問う深い振り返りである「批判的内省」まで深まり、その結果アンラーニングに至る
ポイントは、自分の得意な型(仕事のやり方)に逃げずに「批判的内省」をもって型ややり方を振り返ることだという。まさにこの一年半は「自分の得意な型」に逃げ込んでいた筆者にとって、耳が痛い言葉だ。
ちなみに、アンラーニングできる個人が部下を持っていた場合、その部下のアンラーニングにも影響を及ぼす。
アンラーニングによって革新的な行動を起こす上司の「背中を見て学ぶ」ことで、部下の「学習志向」が高まり、結果として部下の業務の振り返り(内省)とアンラーニングが進む、というメカニズムが明らかになったという。詳しくは本書を参照されたい。
なお、各章の終わりには「実践のポイント」、巻末には「アンラーニング計画シート」が付いているなど、アンラーニングへ実際に取り組みやすくするための工夫がなされている。部下やメンバーとの面談などでの活用を考えてみるのはいかがだろうか。
著者:松尾 睦 発行日:2021年6月17日 価格:2,200円 発行元:同文舘出版