2月にアスクルの倉庫が火災に見舞われましたが、こうした災害の影響は決算書にどう表れるのでしょうか。地震、洪水、火災などの災害が発生すると、会社では工場の建物や製造設備、在庫などがダメージを受けるとともに、災害からの復旧作業等にも費用がかかることになります。以下、火災を例にとって説明します。
3月決算会社のA社。2017年3月に火災が発生しました。この火災により、工場の建物と生産設備などの有形固定資産(簿価10,000)が焼失し、工場内に置かれた原材料、仕掛品などの棚卸資産(簿価2,000)の内、1,500相当分がダメージを受け使用不能となりました。また、3月末時点では、火災による有形固定資産、棚卸資産の撤去、復旧作業に4,000の費用が追加で見込まれるとします。
【火災時の会計処理】
(借)火災損失 11,500 /(貸)有形固定資産 10,000
棚卸資産 1,500
火災による有形固定資産と棚卸資産の損害額(簿価11,500)を火災損失(通常は、特別損失)として会計処理します。
【決算時の会計処理】
(借)火災損失(引当金繰入) 4,000 /(貸)火災損失引当金 4,000
撤去、復旧作業に係る費用が「引当金ってどういうこと?」で説明した引当金の要件を満たす場合には、引当金として計上します。引当金は、撤去等の作業が決算時点から1年以内に発生すると見込まれる場合は流動負債、1年超後の場合は固定負債に区分されます。また、火災損失(引当金繰入)は、通常、有形固定資産等の焼失分(A社の例では11,500)と合算して特別損失に計上されます(※)。
また、会社では災害に備えて損害保険に加入していると思います。保険会社から受け取る保険金は、通常、保険会社の調査が完了し、会社へ保険金が支払われた時点で「受取保険金」として特別利益に計上されます。A社の例において、翌期に6,000の保険金を受け取ったとすると、
【保険金受取時の会計処理】
(借)現金 6,000 /(貸)受取保険金 6,000
となります。このように、災害の発生から保険金の受け取りまでには一定の期間がありますので、災害損失の計上される決算期と受取保険金の計上される決算期は一致しない場合も考えられます。
なお、簿記を学んだ方の中には、「火災未決算勘定(保険未決算勘定とも)」を覚えている方もいると思います。火災未決算勘定は、火災発生時点から受取保険金の確定までの間に損害額をサスペンドする際に使用する勘定科目です。A社の例を使えば、
【火災時の会計処理】
(借)火災未決算 11,500 /(貸)有形固定資産 10,000
棚卸資産 1,500
となります。火災未決算は資産の部に計上されますので、この時点ではP/Lでは(特別)損失は発生しません。翌期になって、保険による補償額が6,000に決定されたとすると、その時点で、以下の会計処理をします(撤去等に必要と見積もられる4,000の費用はここでは無視します)。
(借)火災損失 5,500 /(貸)火災未決算 11,500
現金 6,000
要するに、火災による損失をネット(純額)で把握する考え方です。この方法では、災害による損害額が保険金と相殺されるため、
(※)決算書の注記に、火災損失の内訳が詳細説明されます。また、火災損失額が期末時点の見込み金額である場合は、その旨と今後損失金額が変わり得る旨が記載されます。