日本政府観光局(JNTO)によると2016年の訪日外国人観光客数は2400万人を超え、2011年の4倍近くに上る。2020年の政府目標は4000万人とされ、東京五輪・パラリンピックに向け増加の一途をたどる可能性は極めて高そうだ。
Loco Partners(ロコパートナーズ、東京・港)の篠塚孝哉社長(33)は大学卒業後、米国留学を経て大手企業で旅行サービスに携わった。2011年に創業。独自審査で厳選した一流宿泊施設の会員制宿泊予約サービス「リラックス」を提供している。
4月現在で75万人を超える会員のうち15%程度が外国人観光客で、その数は急伸しているという。2017年に入り中国や台湾市場に参入。国内外で50を超えるパートナーを抱える。「日本観光は日本が輸出すべき最大の資産だ。訪日外国人に日本の魅力を積極的に発信してもらうには、日本でより良い体験を提供し続ける必要がある」と語る。
情報提供は「それぞれの発信先に対して徹底した現地化が重要だ。人気の高いコンテンツやデザインは日本とは異なる。現地の文化に精通し、コミュニティーのインサイダーとなれるグローバルな組織を編成しなければ、日本を拠点としながら海外の利用者を開拓できない」と言い切る。
ハード・ソフト両面から業界の課題も挙げる。「ハードの課題は看板や未発達な交通システム、Wi―Fi(ワイファイ)環境など。ソフトは英語をはじめとする外国語を話せる人の少なさ。一部の排他的思想も否定できない。官民一体となり、外国人受け入れの環境や教育体制の整備が必要となる」と指摘する。
WAmazing(ワメイジング、東京・港)の加藤史子社長(41)は大学卒業後大手企業でインターネット関連の新規事業に携わり、観光を通じた地域活性化に関する研究活動や観光関連有識者委員に従事して16年に起業した。訪日外国人と日本の文化、体験、食、宿泊施設、交通などの観光資源をスマートフォン(スマホ)上でマッチング(仲介)するプラットフォームを運営する。
「アジアの20~30代のネットリテラシーの高い訪日外国人に対し、日本の隅々までの観光資源に関する情報や手配手段を適切に届けたい」と話す加藤氏。「日本の地方は第3次産業(サービス産業)の価値の源泉となる人口の密集度に恵まれていないため、労働人口の約7割が第3次産業に従事する日本では都市への人口流出が続いている。観光は地方で3次産業が成立する重要な要素であり、地域の基幹産業として魅力的な雇用も生み出したい」と力を込める。
訪日旅行者向けの観光産業への課題・求められるもの
訪日旅行者向けの観光産業は「日本にいながらにしてグローバル事業であり、国内事業者と海外事業者が同じ競争環境下にいる」と分析。しかしながら「国内事業者には旅館業法、景表法、価格統制など多くの法律面や規制の足かせが存在するのも事実である。21世紀日本の基幹産業になり得る観光産業が、その日本により手足を縛られて、国内事業者が競争に負けるとすれば残念でならない」と課題も挙げる。
少なくとも中期的には確実に市場が成長する。内需前提から外需を含めた市場の変化に対して、スマホなど新たな情報端末の世界的普及に伴う新たな事業機会もありそうだ。同時に、市場が利用者にとっても運営者にとっても健全な形で成長するために、官民一体となって迅速に変化に適応する「ラストワンマイル」の設計が重要となろう。
(2017年5月25日付日経産業新聞の記事「VB経営AtoZ」を再掲載したものです)